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第一章 【七罪の魔王】 カイン・エレイン編
23 魔人達の蠢動
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「なあ、アルト」
「ん、なんだ?」
「相談なんだけどさ。近い内にこの街を出て他の街で活動しないか?」
「どうしたんだよ、急に。さっきは楽観的なこと言ってたのにさ」
俺は彼女、アリシアがこの街の近くにいると聞いた時から、その事をずっと考えていた。
「アルトも不安がってたし、ここは一回、他の街に移動する事も考えようかなって思ってさ」
もし、アリシアがこの街に来て、そして俺の事が知られる事になれば、アルトを巻き込む事になりかねない。そんな事は出来ない。それに魔人の事もある。なら、逃げる様だが、この街から出るのが一番かもしれないのだ。
「……少し考えてもいいか? 二、三日中には答えを出すから」
アルトはこの街で生まれ育ったと聞いている。一応親類とは死別しているらしく、身軽に動けるが、急にそんな話を持ち掛けられても直ぐには答えを出すことはできないだろう。
「分かった」
この時の俺は、まだ時間はある。今後どうするかはアルトが答えを出してからで考えればいい、などと悠長にもそんな事を思っていた。
だが、既に事態は大きく動き出し始めており、そんな事を考えている猶予など微塵も無かったのだと、後に知る事になったのだった。
ラダスの街の貴族街のとある屋敷。魔人達が隠れ蓑としているその屋敷では屋敷の主が、自身の側近を待っていた。そこに一人の男が現れる。
「グレアムか」
「主様、ご報告が」
「話せ」
「内通者からの情報です。近々、この街の我々の拠点三か所に聖騎士の調査が入る模様です」
「そうか」
「この屋敷の事を知られるのも時間の問題でしょう」
この街の聖騎士に自分達の尻尾を掴まれた以上、ここまでいずれこの屋敷まで辿り着かれるのは間違いがない。グレアムと呼ばれた側近の男は、そう考えていた。グレアムはこの屋敷の情報すら聖騎士に握られている可能性があると思っている。
「この機を逃せば、この街からの脱出は難しくなるでしょう。出立の準備を進めましょうか?」
「いや、構わん」
「は?」
主のその言葉にグレアムは自分の耳を疑った。今迄は、尻尾を掴まれればその尻尾ごと切り捨て、様々な街を渡り歩いてきた。全ては自分たちの最終目標に辿り着くためにだ。
だが、主は今回に限ってはそうしないという。ここで聖騎士に見つかれば、自分たちが積み上げてきたもの全てが水泡に帰す可能性すらある。自分達の計画が最終段階目前まで来ている今だからこそ慎重に慎重を重ねなければならない。持ち出すことが出来ない研究資料は全て破棄し、一刻も早くこの街から脱出するべきなのだ。
「報告が上がってきている。これを読め」
グレアムは主から手渡された資料を読み進めた。資料の中身を簡潔に言うならば、そこには自分達の計画が最終段階に入る準備が整った事が記されていた。
「主様、これは!?」
「そうだ、これで全ての準備が整った」
グレアムは興奮を抑えることが出来そうになかった。自分達の大願の成就が手の届くところまで来ているのだから仕方がないだろう。
「グレアム、例の実験はどうなっている?」
主の言葉でグレアムは、興奮を何とか抑え、求められた情報を話し出す。
「報告によると実験体第一号は、前回報告した通り、データ収集の為、野に放ちましたが、その後消失。二号、三号、四号は現在最終調整を終えており何時でも使用可能との事。五号以降は処置を終えてはおりますが、兆候は未だ見られない様です」
「ふむ……。一号の件はやはり?」
「はい、主様の推測通りでした。一号の消失は恐らく我らの様な魔人が関わっているのかと」
男が支配する組織は数多くの魔人が存在しているが、それが世にいる魔人の全てではない。同じ様に魔人が支配する組織は数多く存在している。更に裏の世界には名前どころか存在すら知られていない魔人が少なからず存在しているのだ。
彼等はそういった自分以外の組織が横槍を入れてきたのではないかと推測していた。実際、一号が消失した現場には膨大な魔力が存在していたからだ。
「面倒な事この上ないですね」
「だが、今更横槍を入れられたところで、最早我々を止める事は出来る筈も無い」
「そうですね」
そして、男は少し考え込んだ後、答えを出した。
「実験体二号、三号、四号は実戦に十分耐えうるのか?」
「はい。一号は消失してしまいましたが、完成度で言えば完璧と言えました。研究者の言によれば三体とも一号と同じ完成度と言っても過言ではないそうです」
「そうか。……そう言えば、連中が襲撃をかける拠点は三か所だったな」
「はい」
「では、襲撃予定になっている拠点に実験体を一体ずつ配置する。聖騎士達が襲撃する頃合いになれば丁度良い様に仕上がっているだろう」
「それは」
「面白いだろう」
「なるほど、ええ」
グレアムは主の言葉に賛同する。実験体は聖騎士達が拠点に襲撃すると同時に爆発する時限爆弾の様なものだ。しかも、その被害はどれほどのものになるか彼等ですら想像も出来ない。
「私も今回ばかりは表に出ようか」
「主様!?」
自らの主のその言葉にグレアムは諫めようとするが、それでもグレアムの主は意思を変える事は無かった。
「なに、計画が最終段階に入る前の余興みたいなものだ。計画の為、今迄コソコソと隠れていたのだ。最後くらいは大きく暴れるのも良いだろう?」
「では……」
「ああ、私が新たなる魔王になる前の最後の余興だ。楽しむとしようか」
闇に潜みし魔人達がついに蠢動を始めた。
「ん、なんだ?」
「相談なんだけどさ。近い内にこの街を出て他の街で活動しないか?」
「どうしたんだよ、急に。さっきは楽観的なこと言ってたのにさ」
俺は彼女、アリシアがこの街の近くにいると聞いた時から、その事をずっと考えていた。
「アルトも不安がってたし、ここは一回、他の街に移動する事も考えようかなって思ってさ」
もし、アリシアがこの街に来て、そして俺の事が知られる事になれば、アルトを巻き込む事になりかねない。そんな事は出来ない。それに魔人の事もある。なら、逃げる様だが、この街から出るのが一番かもしれないのだ。
「……少し考えてもいいか? 二、三日中には答えを出すから」
アルトはこの街で生まれ育ったと聞いている。一応親類とは死別しているらしく、身軽に動けるが、急にそんな話を持ち掛けられても直ぐには答えを出すことはできないだろう。
「分かった」
この時の俺は、まだ時間はある。今後どうするかはアルトが答えを出してからで考えればいい、などと悠長にもそんな事を思っていた。
だが、既に事態は大きく動き出し始めており、そんな事を考えている猶予など微塵も無かったのだと、後に知る事になったのだった。
ラダスの街の貴族街のとある屋敷。魔人達が隠れ蓑としているその屋敷では屋敷の主が、自身の側近を待っていた。そこに一人の男が現れる。
「グレアムか」
「主様、ご報告が」
「話せ」
「内通者からの情報です。近々、この街の我々の拠点三か所に聖騎士の調査が入る模様です」
「そうか」
「この屋敷の事を知られるのも時間の問題でしょう」
この街の聖騎士に自分達の尻尾を掴まれた以上、ここまでいずれこの屋敷まで辿り着かれるのは間違いがない。グレアムと呼ばれた側近の男は、そう考えていた。グレアムはこの屋敷の情報すら聖騎士に握られている可能性があると思っている。
「この機を逃せば、この街からの脱出は難しくなるでしょう。出立の準備を進めましょうか?」
「いや、構わん」
「は?」
主のその言葉にグレアムは自分の耳を疑った。今迄は、尻尾を掴まれればその尻尾ごと切り捨て、様々な街を渡り歩いてきた。全ては自分たちの最終目標に辿り着くためにだ。
だが、主は今回に限ってはそうしないという。ここで聖騎士に見つかれば、自分たちが積み上げてきたもの全てが水泡に帰す可能性すらある。自分達の計画が最終段階目前まで来ている今だからこそ慎重に慎重を重ねなければならない。持ち出すことが出来ない研究資料は全て破棄し、一刻も早くこの街から脱出するべきなのだ。
「報告が上がってきている。これを読め」
グレアムは主から手渡された資料を読み進めた。資料の中身を簡潔に言うならば、そこには自分達の計画が最終段階に入る準備が整った事が記されていた。
「主様、これは!?」
「そうだ、これで全ての準備が整った」
グレアムは興奮を抑えることが出来そうになかった。自分達の大願の成就が手の届くところまで来ているのだから仕方がないだろう。
「グレアム、例の実験はどうなっている?」
主の言葉でグレアムは、興奮を何とか抑え、求められた情報を話し出す。
「報告によると実験体第一号は、前回報告した通り、データ収集の為、野に放ちましたが、その後消失。二号、三号、四号は現在最終調整を終えており何時でも使用可能との事。五号以降は処置を終えてはおりますが、兆候は未だ見られない様です」
「ふむ……。一号の件はやはり?」
「はい、主様の推測通りでした。一号の消失は恐らく我らの様な魔人が関わっているのかと」
男が支配する組織は数多くの魔人が存在しているが、それが世にいる魔人の全てではない。同じ様に魔人が支配する組織は数多く存在している。更に裏の世界には名前どころか存在すら知られていない魔人が少なからず存在しているのだ。
彼等はそういった自分以外の組織が横槍を入れてきたのではないかと推測していた。実際、一号が消失した現場には膨大な魔力が存在していたからだ。
「面倒な事この上ないですね」
「だが、今更横槍を入れられたところで、最早我々を止める事は出来る筈も無い」
「そうですね」
そして、男は少し考え込んだ後、答えを出した。
「実験体二号、三号、四号は実戦に十分耐えうるのか?」
「はい。一号は消失してしまいましたが、完成度で言えば完璧と言えました。研究者の言によれば三体とも一号と同じ完成度と言っても過言ではないそうです」
「そうか。……そう言えば、連中が襲撃をかける拠点は三か所だったな」
「はい」
「では、襲撃予定になっている拠点に実験体を一体ずつ配置する。聖騎士達が襲撃する頃合いになれば丁度良い様に仕上がっているだろう」
「それは」
「面白いだろう」
「なるほど、ええ」
グレアムは主の言葉に賛同する。実験体は聖騎士達が拠点に襲撃すると同時に爆発する時限爆弾の様なものだ。しかも、その被害はどれほどのものになるか彼等ですら想像も出来ない。
「私も今回ばかりは表に出ようか」
「主様!?」
自らの主のその言葉にグレアムは諫めようとするが、それでもグレアムの主は意思を変える事は無かった。
「なに、計画が最終段階に入る前の余興みたいなものだ。計画の為、今迄コソコソと隠れていたのだ。最後くらいは大きく暴れるのも良いだろう?」
「では……」
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