七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚

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第一章 【七罪の魔王】 カイン・エレイン編

18 災害級の魔物

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 災害級、それは魔物の中でも最悪に分類される魔物である。
 災害級の魔物を相手にするには、それこそ熟練の聖騎士の大部隊、或いは神聖騎士と彼らが率いる近衛部隊が必要になると言われている。
 災害級と分類される魔物はその個体の強さも普通の魔物を遥かに上回るが、その最大の特徴は、自身の持つ魔力を放出する事によって、配下を生み出し、それらを率いる事だ。統率者がいるというだけで、魔物の群れの厄介さは格段に増す。更に配下の魔物も、普通よりも数段強化されている。そして、時間が経てば経つほどその群れは数を増していくのだ。
 だからこそ災害級の魔物は、出現するだけで多数の都市の壊滅を考えなければならないとまで言われており、魔人等の例外を除けばこの世界で最大級の災厄であるとされる。
 そして、俺達の目の前にいるオークキングもそんな災害級に分類される魔物なのだった。



 オークキングの出現と共に俺達を取り囲んでいたコボルト達は一目散に逃げだしていた。だが、そうなった所で状況は変わることは無い。

「なんで、なんでこんな所にオークキングがいるんだよ!!」

 災害級の魔物の出現頻度は数十年に一度と言われている。更には、そこまで成長するのにも多大な魔力を必要とする為、それこそ魔境の様な環境でないと出現するはずがない。
 だが、この森にこれ程の魔力があるのはオークキングが原因とみて間違いがない。災害級の魔物は存在するだけで周囲に魔力をばら撒くからだ。

「カイン。俺達、ここで終わりかもな……」
「アルト……」
「だってさ、見てくれよ。さっきから震えが止まらねーんだ。足も震えて動けそうもない」

 剣を必死にオークたちに向けるアルトだが、その腕は震えている。俺も似たようなものだ。あの奈落でもこんな絶望的状況は無かった。今の状態では、恐らく剣を振るったところでオーク相手にすらまともに傷一つ与える事は出来ないだろう。

「い、いや。俺達はあのオークキングと戦う訳じゃない。逃げるだけならまだ何とかできるはずだ。さっきと同じように包囲に穴をあけるんだ」
「カイン……。ああ、分かったよ。最後までお前に付き合ってやるさ」

 そう決意した俺達の腕の震えは何時の間にか消えていた。

「行くぞ」
「ああ!!」

 そして、俺達はそのまま、この絶望的な状況から逃れる為にオークたちに特攻を仕掛けるのだった。

「ブモモモモモモモモモモモモォォォォォォォォォォ!!!」

 そんな俺達の様子に気が付いたのだろう。オークキングは叫び声を上げた。すると、俺達を取り囲んでいた配下のオークたちは、次々と俺達に襲い掛かってくる。

「くそがっ」
「後ろは俺がやる。アルトは前だけを!!」
「分かった!!」

 アルトに前を任せて、俺は周りから襲ってくるオーク達への迎撃に専念する事にしたのだった。



 あれから俺達はこの場から必死に逃れるべく奮戦を続けていた。今回持ってきたポーションやバーストジェム等の道具をフルに使い、何とか耐え忍んではいる。完全に赤字、居や大赤字と言っても過言ではないのだが、そんな事は言っていられない。だが、それも限界が近づいていた。

「アルト、そっちはどうだ!!」
「もうすぐだ!!」

 やっと光明が見えてきた。もう少しでこの絶望的状況から逃れることが出来る。この時の俺達はそんな甘い考えをしていた。

「よし、これで!!」

 アルトがそう言った直後、ゴン!! と言う鈍い音が後ろから響く。後ろを向くと、そこにアルトはいなかった。

「アルト!!」

 アルトはオークの一撃によって吹き飛ばされ、森の木に背中から衝突していた。俺は慌ててアルトの元に駆け寄る。

「アルト、大丈夫か!?」



 声を掛けても目が覚める気配は無い。だが、辛うじて息だけはある。どうやら気を失っただけの様だ。俺は急いで道具袋からポーションをアルトに掛ける。
 だけど、これで更に状況が悪くなった。アルトと二人でなんとかこの場を支えていたのだ。俺一人になれば、限界はすぐに来るだろう。
 ここでアルトを見捨てれば、もしかしたら、限界は遠くなるかもしれない。

「だけど、そんな事、俺には……」

 アルトを見捨てる、そんな選択肢、俺には選ぶ事が出来なかった。
 そんな、俺の前に更なる絶望が襲い掛かる。

「は、ははは……」

 森の奥からオークの増援が襲来したのだ。しかも、その増援は今この場にいるオークを上回る程の規模だ。もしかしたら百すら超えるかもしれない。

「無理だ……、こんなの……」

 そもそも、災害級の魔物に出会った時点でこの結果は決まっていたのだろう。俺達を取り囲むオーク達は、ゲラゲラと笑いながら、少しずつ近づいてくる。オーク達は俺が絶望している様子を楽しんでいるのかもしれない。

「アルト、ごめん。俺にもっと力があれば……」

 最後に俺はそう呟いていた。もっと力さえあれば、そう思った、狂おしいほどに。かつてない程に、これ以上ないほど願った。力があれば、と。

 俺に力があれば、もっと力があれば。

 こんな困難も簡単に吹き飛ばせる程の力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば、もっと力があれば

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 俺にもっと力があれば…































「ああ、あるじゃないか……」

 ああ、そうだ。ある、あるじゃないか、俺には力がある。こんな理不尽を軽く吹き飛ばせるだけの力が。

「ブモォォォォォォォォォ!!」

 オーク達はそんな希望を見出した俺の様子に気が付いたのだろう。絶望しない事に不満なのか。唸り声を上げながら、俺の周囲にいたオーク全てが一斉に襲い掛かってきた。

「無駄だ」

 俺は自分の中にある魔力を解き放った。そして、その魔力を剣に纏わせる。やっている事は教会で司祭が行っていた武器に聖気を纏わせる事を模倣しただけ。ただそれだけだ。

 そして、魔力を纏わせた剣を、回る様に振った。たったそれだけ。それだけだ。それだけで俺に襲い掛かろうとしていたオーク達は、全て上下真っ二つに分かれたのだった。
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