七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚

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序章

6 魔物の力を取り込む

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 先程の戦いで辺りに散らばった武器とサイクロプスの死体を道具袋に収納し、すぐさまこの場を離れる。辺りに散らばったサイクロプスの血の匂いに反応して他の魔物が近づいてくるかもしれない。
 このまま探索を続けるが、一向に出口らしきものは見つからない。今日の探索を切り上げ、道具袋からテントを取り出し開いた。このテントも、周囲の魔物が寄ってこない様に処理が施されていた。何故これほどの物資を支給されながら聖騎士部隊は全滅してしまったのか、という疑問を持ったが、それに答えてくれる者など居る筈が無かった。
 それは兎も角、早速テントの中に入り、サイクロプスの死体を取り出した。

「さて、これをどうするべきか……」

 目の前の問題に思わず呟いてしまう。問題とは取り出したサイクロプスの死体の事だ。先程の戦いで逃げ様としなかったのは、これが欲しかったから、という理由も大きい。
 魔物の肉、人間がこれを食らうとその魔物の力を取り込む事が出来る。だが、それと同時に、その魔物が持っていた魔力によって肉体が汚染されるため、魔物の肉をそのまま食らう事は、教会は禁忌の一つとして、各国は法によって、禁止している。
 稀に、貧困に喘ぐ農村が飢えでどうしようもなくなり、その村の村民が魔物の肉を食らい、後日その事が国に発覚、その後に魔物の肉を食べた村民は処刑、村全体も厳しく処罰された、という話を聞く。

 ともかくだ、今のままでは奈落を脱出することもままならない。サイクロプスの肉を食べれば、身体能力、特に腕力が上昇するだろう。先程のサイクロプスとの戦いで勝てたのは偶然や一対一と言う状況が大きな要素となっているのは間違いない。もし一対多の戦い、そして囲い込まれれば、逃げる事も出来ずに呆気なく殺されるだろう。

「……仕方がない。このままじゃどうしようもないんだ。覚悟を決めよう」

 一度深呼吸をし覚悟を決めた。火種すらもこの場には無い為サイクロプスの肉を生のまま食していくしかない。

「あぐっ」

 サイクロプスの生肉を噛みちぎり、嚥下する。
 そして、少しすると体の内部から魔力が根を張る様に全身に行き渡る様な感覚があった。それが終わったと思えば今度は全身が今まで感じた事が無い感覚に襲われた。自分の存在そのものが別種の存在へと変わろうとしているとしか表現できない奇妙な感覚。これが魔力に汚染されるという事なのだろうか。

「ガアアアアアアア!!」

 そんな急激な変化に体が耐えられる筈も無く、突如として全身に痛みが襲ってくる。思わず叫び声を上げてしまった。だが痛みは時と共に酷くなる一方だ。 

「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 全身に動くことすらままならない程の酷い痛み。こんなもの声を上げなければとてもじゃないが痛みに耐えられない。せめてこの痛みが和らぐようにと道具袋からエリクサーを取り出し慌てて飲み干す。普通ならエリクサーをこんな所で使うなどあり得ないだろうが、この時の俺はそんな事を考える余裕すらなくなっていた。
 エリクサーのおかげか、痛みはそれ以上酷くなることは無かったが、それでも今の痛みは途切れることなく続いていた。その痛みにとうとう耐え切れなくなり意識を失ってしまうのだった。








「うっ、ここは……、そうか……」

 目が覚め、意識がはっきりしてくると、段々と先程までの記憶が蘇ってくる。意識を失う前までの痛みは嘘のように引いていた。
 だが、体には変革が起きたかのような、劇的な変化を遂げていた。目は今迄より遠くまで、しかもはっきりと見る事が出来る。耳もより遠くの音を拾うことが出来る。足もこれまでより速く走ることが出来るはずだ。そして、一番の変化が腕力だろう。試してはいないが感覚的に分かる、先程までよりも腕力が上昇しているだろう。

「は、ははは……」

 それを理解した時俺は妙な笑いが込み上げてきた。これなら禁止される理由がはっきりとわかる。魔に染まる事を恐れず、痛みに耐えさえすればこれほどまでに簡単に力が手に入るのだから。

「だけど、これなら……」

 この力があればこの奈落の脱出にまた一歩近づくことが出来る。しかも、今後も魔物を喰らいさえすればもっと力が手に入る。
 俺は新たな決意を固め探索を再開する。その途中で再び魔物に見つかってしまう。今回はコボルト八体であった。今回は数が多いが、コボルトの強さそのものはサイクロプスには劣る。力を試すにはちょうどいい相手だろう。早速とばかりに、剣を鞘から抜き、そのまま斬りかかる。先頭の一体に袈裟斬り、一撃で斬り殺すことが出来た。そして、そのまま二撃目横薙ぎ、三撃目逆袈裟、四撃目、と続けてコボルトに放っていく。上昇した身体能力のおかげか、特に苦戦することも無く、全滅させる事が出来た。全滅させたコボルトの死体を収納し、その場をすぐに立ち去る。
 試した力に興奮、そして奈落脱出への確信を覚えながら探索を続けていると、下に続く階段を発見した。

「このままじゃ、どうしようもない。なら……」

 奈落脱出が目的なのに上に昇る階段ならまだしも、下に降りる階段というのはあまり進む気にはなれない。だが、他にどれだけ探してもここ以外に階段は無く、出口らしきものも一向に見えない。ならこの階段を降りるのも一つの手だろう。そう判断した俺は階段で下の階層まで降るのだった。
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