2 / 33
序章
2 追放
しおりを挟む
翌日、俺は学園に向かう。学園に行くことができるのは、今日までだろう。王立学園、このメルクリア王国最大の教育機関である。
俺が歩いていると、校門の前では数人の男達が待ち構えていた。
「おい、落ちこぼれが来たぜ」
「聞いたぞ。聖種の儀、駄目だったそうじゃないか」
貴族社会の噂は早い、こういったことはすぐに噂になる。元々、俺には才能というものもそれほど無く、ただでさえ落ちこぼれと言われているのに、その上昨日の出来事ともなると最底辺にも等しいだろう。
そして今、目の前にいる連中は俺に対していじめを行ってきた連中なのだ。俺が公爵家の庶子である事は、学園内では知られている。連中にとって俺のような、半分とは言え自分たちより上位の貴族の血を引きながらも家庭での地位は最底辺の存在は都合がいいのだろう、よく殴る蹴るの暴行から、授業に必要な教本を破かれたこともあった。
俺は連中から逃げるように、学園に入ろうとするが、肩をつかまれる。
「おい! 無視するんじゃねーよ!」
彼等は既に聖種の儀で聖種をその身に宿している。聖種を持つ者と持たざるものでは身体能力にも差が出るのだ。故に肩をつかまれた程度でも動けなくなる。
「わざわざ、俺達が声をかけてやったのに無視するとはいい度胸だ。ちょっと付き合えよ」
この後、どうなったかなど言うまでもないだろう。
学園から帰ってくると屋敷を出る最後の準備を始める。といっても昨日の内にほとんどの準備は済ませてある。そもそも、物を貰った事など殆どないので自分の部屋には私物と呼べるものは殆ど無い。せいぜい古着が何着か程度と俺がずっと愛用していた長剣一本だけだ。この剣はこの公爵邸の倉庫に眠っていた物で、錆びついていたため、捨てられる所を捨てるならと貰っただけだ。だが、流石公爵家の倉庫に眠っていただけあって、質が良い物だった。
部屋にある物を道具袋に入れて剣を背負う。そしてそのまま屋敷を出ようとすると、屋敷で働くメイドの女性が声をかけてきた。
「話は聞いています、出ていくのですね。なら、せめてこれを持って行ってください」
そう言って、メイドの女性は俺に干し肉やパン、そして幾らかのお金を手渡してきた。この人はこの屋敷で俺の味方だった人だ。こっそり余った料理を持ってきてくれたのは一度や二度ではない。
何故、そんな事をしてくれるのか聞くと死んだ俺の生みの母に大きな恩があったらしい。母が俺を産むと同時に亡くなった事を教えてくれたのもこの人だ。母に返せなかった恩の代わりに、という事で俺に良くしてくれているとよく言っていた。
「いいのですか?」
「私にはこれぐらいしかできませんから」
そう言って彼女は悲しみの表情を浮かべた。それを受け取ると俺は今度こそ俺は屋敷を出た。もう、このエレイン公爵家の人間とは関わることは無いだろう。それほどまでに今の彼等と俺では住む世界が違うのだ。俺は、これからはただのカインとして生きていくのだ、最後に屋敷を眺めながらこの時の俺はそう思っていたのだった。
屋敷を追い出された俺は王都サリアを出ていこうと考えていた。だがいまだに目的地はある訳でも無い。
俺は王都の外にある隣の街行きの馬車に乗り込む。これからは行く先も決まっていない旅の始まりである、などとこの時は考えていた。
しかし、そんな考えは脆くも崩れ去った。俺が乗った隣街行き馬車が山賊に襲われたのだ。応戦するが山賊の数は一向に減らない。山賊達の強さは俺達よりはるか格上だった。後から知る話だがこの山賊はこの辺り一帯では有名な武闘派揃いの山賊だったらしい。
結局、俺は山賊に捕まり、その後は殺されずには済んだが、奴隷として売られてしまったのだった。
俺が歩いていると、校門の前では数人の男達が待ち構えていた。
「おい、落ちこぼれが来たぜ」
「聞いたぞ。聖種の儀、駄目だったそうじゃないか」
貴族社会の噂は早い、こういったことはすぐに噂になる。元々、俺には才能というものもそれほど無く、ただでさえ落ちこぼれと言われているのに、その上昨日の出来事ともなると最底辺にも等しいだろう。
そして今、目の前にいる連中は俺に対していじめを行ってきた連中なのだ。俺が公爵家の庶子である事は、学園内では知られている。連中にとって俺のような、半分とは言え自分たちより上位の貴族の血を引きながらも家庭での地位は最底辺の存在は都合がいいのだろう、よく殴る蹴るの暴行から、授業に必要な教本を破かれたこともあった。
俺は連中から逃げるように、学園に入ろうとするが、肩をつかまれる。
「おい! 無視するんじゃねーよ!」
彼等は既に聖種の儀で聖種をその身に宿している。聖種を持つ者と持たざるものでは身体能力にも差が出るのだ。故に肩をつかまれた程度でも動けなくなる。
「わざわざ、俺達が声をかけてやったのに無視するとはいい度胸だ。ちょっと付き合えよ」
この後、どうなったかなど言うまでもないだろう。
学園から帰ってくると屋敷を出る最後の準備を始める。といっても昨日の内にほとんどの準備は済ませてある。そもそも、物を貰った事など殆どないので自分の部屋には私物と呼べるものは殆ど無い。せいぜい古着が何着か程度と俺がずっと愛用していた長剣一本だけだ。この剣はこの公爵邸の倉庫に眠っていた物で、錆びついていたため、捨てられる所を捨てるならと貰っただけだ。だが、流石公爵家の倉庫に眠っていただけあって、質が良い物だった。
部屋にある物を道具袋に入れて剣を背負う。そしてそのまま屋敷を出ようとすると、屋敷で働くメイドの女性が声をかけてきた。
「話は聞いています、出ていくのですね。なら、せめてこれを持って行ってください」
そう言って、メイドの女性は俺に干し肉やパン、そして幾らかのお金を手渡してきた。この人はこの屋敷で俺の味方だった人だ。こっそり余った料理を持ってきてくれたのは一度や二度ではない。
何故、そんな事をしてくれるのか聞くと死んだ俺の生みの母に大きな恩があったらしい。母が俺を産むと同時に亡くなった事を教えてくれたのもこの人だ。母に返せなかった恩の代わりに、という事で俺に良くしてくれているとよく言っていた。
「いいのですか?」
「私にはこれぐらいしかできませんから」
そう言って彼女は悲しみの表情を浮かべた。それを受け取ると俺は今度こそ俺は屋敷を出た。もう、このエレイン公爵家の人間とは関わることは無いだろう。それほどまでに今の彼等と俺では住む世界が違うのだ。俺は、これからはただのカインとして生きていくのだ、最後に屋敷を眺めながらこの時の俺はそう思っていたのだった。
屋敷を追い出された俺は王都サリアを出ていこうと考えていた。だがいまだに目的地はある訳でも無い。
俺は王都の外にある隣の街行きの馬車に乗り込む。これからは行く先も決まっていない旅の始まりである、などとこの時は考えていた。
しかし、そんな考えは脆くも崩れ去った。俺が乗った隣街行き馬車が山賊に襲われたのだ。応戦するが山賊の数は一向に減らない。山賊達の強さは俺達よりはるか格上だった。後から知る話だがこの山賊はこの辺り一帯では有名な武闘派揃いの山賊だったらしい。
結局、俺は山賊に捕まり、その後は殺されずには済んだが、奴隷として売られてしまったのだった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

家族もチート!?な貴族に転生しました。
夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった…
そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。
詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。
※※※※※※※※※
チート過ぎる転生貴族の改訂版です。
内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております
※※※※※※※※※

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる