秘宝の追跡者たち

O.K

文字の大きさ
上 下
1 / 2

宝の地図

しおりを挟む
 静寂を破るかのように、カチャカチャという金属の冷たい音が鳴っている。

「外れそうもないな……。それにこの首輪……んんんっ」

 ギルがベッドの上で足枷と首輪を手で確かめていた。力ずくで外そうとするも、勿論外れる訳もない。肩を落とし途方に暮れる。

「セイン様はご無事でしょうか……」

 気を取り直して辺りを見渡した。部屋の中はそれなりに豪華に見える。今いるベッドも側に置かれたソファーや家具も豪華な装飾が施されていた。
 ギルは立ち上がり、閉め切られていたカーテンを開ける。

「まだ暗い……」

 どれくらい眠らされていたのだろう。同じ日の夜なのか、それとも数日経っているのかも分からない。窓から見える景色は暗くてあまりよく見えなかった。
 直ぐに視線を入口であろう扉に移し、移動する。扉に手をかけ、押したり引いたりするもびくともしない。

「開くわけないか……わぁっ」

 ため息をつこうとしたところ、扉が勝手に開いた。

「起きられましたか。バルダス陛下の命により、本日よりそちらで過ごして頂くこととなりました。今夜のお相手をご用意いたしましたのでゆっくりお楽しみください」

 兵士がそう伝えると、真っ赤なドレスに身を包んだ赤髪の女性がおどおどしながら入ってくる。

「えっ? どういうことですか? あの、セイン様は? 他の皆さんはどこに?」
「皆様もゆっくり休まれております。では、失礼します」
「待ってください! それなら、セイン様に会わせっ……」

 兵士はそれ以上何も言わずに扉を閉めてしまった。扉の側で女性が俯いたままじっと立っている。

「……すみません、あなたは何か知ってらっしゃいますか? お相手とは何でしょう? 私は直ぐにでもセイン様の元に行きたいのですが」
「……お名前……」
「え?」
「あなたのお名前は?」

 顔も上げずに女性が尋ねてきた。

「ああ、失礼しました。私の名前はギル・クラークと申します」

 女性がバッと顔を上げ食い入るように見てきた。彼女は困惑しているようにも見える。



「……ま……さかとは思うけど……さっきからあんたが言ってるセイン様って、ローンズ王国の王子じゃないわよね?」

 おどおどした姿は影を潜め、睨むように視線を送ってきた。

「そうです。きっとこの城の何処かにいるはずなのですが……。えっと、ここはデール城ですよね?」
「ギル・クラーク……っ!」

 女性が突然、右手でギルの胸ぐらを掴んできた。

「えっ? えっ? えっ?」
「だからあんたみたいな弱いやつにセイン様をお任せするのが嫌だったのよ!」

 声を押し殺しながら怒りを露にする。

「あんた、側近としてセイン様をちゃんとお守りしなさいよ! 馬鹿じゃないの!? セイン様に何かあったらどーすんのよ!!」
「……す、すみません。本当に私が不甲斐ないばかりに……。えっと、あなたはいったい……」

 女性は睨んだまま、胸に置いていた手を突き放すように離した。

「私はアリス。ローンズの先鋭部隊、騎士アリスよ。一度挨拶したことあるけど?」

 ギルが首を傾げながらもアリスをよく見る。露出の高いドレスを着ていたため、鍛え抜かれた手足は隠せていない。また、赤い髪とエメラルドの瞳は見覚えがあった。

「ああ、そうですね! 確かにお会いしました。あまりにも美しいので分かりませんでした」
「なっ!」

 ギルが微笑むとアリスは顔を赤く染める。

「良かった、助けに来てくださったのですか? それにしては早すぎる気もしますが……。もしかしてあれから何日も過ぎたのでしょうか?」
「知らないわよ。とりあえず何があったか話して。私のことはそれから話すわ」
「はい、わかりました」

 アリスに促されるままに、デール王国に着いてからのことを話した。

「そう……分かったわ。話からすると今はセイン様が捕まった当日の夜よ。まだ三時間くらいしか経っていないわね。ギルのこの待遇からしてセイン様もそれなりの待遇を得ているとは思うけど、足枷とその首輪は付けられている可能性はありそうね」
「私もそう思います。何とかここから出て、皆さんを助けなければ……」
「アランとアルバートさんはちょっと心配ね……。アトラスの者だってバレてなければいいけど……。ちょっとその首輪、見せてくれる? ……あんた、背が高いわね。ベッドに座ってよ」

 ベッドに腰掛けるとアリスが後ろに回り、首輪を確認する。

「ふーん。これが魔力を消滅させる首輪なのね。噂には聞いてたけど凄いわね。でも、これなら焼き切れそう。ちょっと熱いけど我慢してね」
「え? あつ……っ!」

 焼かれるような熱さを感じた後、首輪の重みがなくなった。

「回復出来るんでしょ? 首、火傷させちゃったから自分で直してね」
「ありがとうございます。それで、アリスさんは何故ここに?」
「足枷も同じように焼き切るわね。私は調査で来ていたの。デールが特殊部隊を作っているって噂を聞いてね」

 アリスは、ギルの足枷に魔法を注ぎ始める。

「あっつ……。えっと、特殊部隊?」
「そう。魔力を持つ者をこうやって閉じ込めて、女を送り込むの。そうやって魔力を持つ子供を作らせているみたいね」
「子供を!? 人間を家畜かなんかだと思っているんですか!?」

 ギルが立ち上がり、足元にいるアリスを見下ろした。

「知らないわよ! でも魔法が使える人間が国に多くいれば、戦争にも魔法薬研究にも有利なのは間違いないわ。今回の戦争にも恐らく多くの魔法使いが参戦するんじゃないかしら。じゃなきゃ、戦争を起こそうなんて気になるわけないもの。ただ、私がここに来たのは昨日なんだけど、そいつらの気配がないのよね……。ぎりぎりまで魔力を封じるつもりなのかしら?」
「陛下に報告は?」
「勿論しているわ。さ、セイン様を助けに行くわよ」

 足枷を外したアリスも立ち上がり、ギルの腕を叩く。

「はい! アランさんとアルバートさんも見つけます!」
「わかってるわよ。急ぎましょう」

 先ずはこの部屋から上手く抜け出さなければならない。不安そうなギルとは対照的に、アリスは当たり前のように扉に向かって歩いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遅れた電車の冒険:新しい街との出会い

O.K
エッセイ・ノンフィクション
駅で待っていた主人公は、電車の遅れをきっかけに歩いて帰ることを決意。未知の街で様々な出会いや発見が待ち受け、冒険心をくすぐられる。その経験から、毎日の遅れた電車が新たな冒険への扉となり、主人公の日常は豊かなものに変わっていく。

困難に立ち向かう:引っ越しの荷物と道路崩落の物語

O.K
エッセイ・ノンフィクション
引っ越しの日、晴天のもと、準備を整えて新居に向かっていたが、途中で予期せぬ渋滞に遭遇。時間が経つにつれて渋滞は悪化し、道路崩落に巻き込まれてしまった。数時間後、道路崩落が解消されるまで混乱が続き、新居にたどり着くことができたものの、地域全体に影響を与えた。その後、地域の人々が協力し合い、復旧作業が進められた。この経験から、困難に立ち向かうことの重要性と、協力と支援の大切さを学んだ。

孤独な男性とミッキー: 小さなネズミとの特別な友情

O.K
エッセイ・ノンフィクション
孤独な大学教授のジョンは、孤独な生活を送っていたが、ある日家にネズミが現れた。最初は驚きと拒絶感を抱いていたが、次第にネズミとの共同生活に慣れ、彼を「ミッキー」と名付けて友達として受け入れるようになる。ミッキーとの交流を通じて、ジョンは孤独を感じなくなり、互いに支え合う友情を築いた。しかし、ミッキーが病気になり、ジョンは彼の治療に全力を尽くす。その経験を通じて、二人の絆はより強固になり、ミッキーの回復は彼らの友情をさらに深めた。最終的に、ジョンはミッキーとの絆から多くのことを学び、彼らの友情はお互いの人生に意味と喜びをもたらした。

バランスの重要性: パスタからの教訓

O.K
エッセイ・ノンフィクション
ある主人公が毎日パスタを食べていたが、栄養不足で倒れる。医師から、単一の食品では健康に悪影響があることを学び、食事の多様性と栄養バランスの重要性を知る。栄養士のアドバイスを受け、多様な食材を取り入れる新たな食事を始め、体調が回復。経験を通じて、健康維持のための食事バランスの重要性を理解し、健康的で多様な食事を楽しむようになる。

未知の風味ラーメンの冒険

O.K
エッセイ・ノンフィクション
主人公は珍しいラーメン屋に訪れ、変わった料理「未知の風味ラーメン」を注文するが、出てきたのはカップラーメン。しかし、驚くほど美味しく、1000円支払う価値を感じる。友人たちも同じ経験をし、彼らとの共有が冒険を特別なものに。主人公は新たな可能性を求める大切さを学び、未知への扉を開き続けることを決意する。

クリスマスの温かな誓い

O.K
エッセイ・ノンフィクション
「クリスマスの温かな誓い」は、主人公太郎がクリスマスのおでんを楽しみにしていたが、忙しさから忘れてしまい、パニックに陥る。友達や家族の励ましを受け、去年の経験を生かして翌年は計画的に準備。おでんを楽しむことで大切な人たちとの絆を再確認し、クリスマスの特別な瞬間を満喫する。

黄金のサラダ: 食の冒険と新たな視点

O.K
エッセイ・ノンフィクション
主人公は黄金のサラダを食べるために貯金し、ついに全財産を使ってその高価な料理を楽しんだ。その経験から、お金では買えない豊かな食の経験を見出し、自ら料理を始め、世界中の料理や文化に興味を持つようになった。最終的には黄金のサラダの経験が新たな食の冒険へのきっかけとなった。

時を超える香り:変化と自己受容の物語

O.K
エッセイ・ノンフィクション
ある男性、悠斗がネットショップで買った怪しい香水。香水を使うと1時間後に老人になり、1週間後に元に戻る効果があるとされる。悠斗は試し、若返った姿を楽しむが、老人になることも経験。若さと経験の大切さを学び、健康や人間関係の重要性に気づく。変化を受け入れ、前向きな態度で未来に向き合う決意をする。

処理中です...