タイムスリップのスニーカー

O.K

文字の大きさ
上 下
1 / 2

戻るスニーカー

しおりを挟む
 翌日、キースはキラを胸に抱き、イオと共にワイトデ自治区へと向かった。
 『移動』してしまうので、時間はかからない。
 イオの屋敷の敷地内に『移動』してきて辺りを見回した。
 数日前までは灰色に染まっていた町も、色を取り戻していた。
 イオに聞くと、町中の灰は、風を扱える者が集めて袋に入れ、町外れに回収しているらしい。
 そこから必要な分だけもらっていって、水捌けの悪い土地の土に混ぜて作物を作ったり、土嚢として使うらしい。
 過去にもそうやって灰を利用して来たそうだ。
 屋敷の中には入ると、領主、イオの両親がいて、お礼を言われた。
 ここへ来てくれたおかげで、長引かず住民達も早く家に帰れる事になって、喜んでいると。
 そしてチハヤに服を着替えされされ、彼らに連れられて、近くのやしろに来ていた。
 そこはワイトデ自治区のアリミネ火山を祀るやしろ
 そして、多くの人が集まりザワザワとしていたが、キースがキラを連れて姿を現すと、辺りはシーンと静まり返る。
 キラは驚いたのか、キースの服にしがみついて離そうとはしない。
 そんなところも可愛い…などと思っていると、イオにやしろの前に立つように言われ、こっそりと耳打ちされる。
「炎の結晶石をここで作って見せれるか?」
「…う~ん。どうだろう…」
 キースは抱えていたキラを地面に降ろし、隣に座り込む。
「キラ、ギュウッて、熱を集めれる?」
 キースが聞くとキラはじっとキースを見て、空を見上げた。
 風が吹き始め、キラの頭上に集まり始める。
 …始まった。
「イオ。炎の結晶石を冷やす場所はある?」
やしろの池を使うと良い」
 そう言って、イオは隣に有る池を視線で示す。
「お湯が涌き出ている池だから、冷たくはないが…」
 無いよりはましだろう。
 そんな会話をしているうちに、キラの頭上に炎の結晶石が赤くキラキラと輝いていた。
 回りにいるもの達は、その美しさに見惚れている。
 風が収まり、落ちてくる炎の結晶石をキースは風で包み込み、落下する場所をイオが言った池へと誘導する。
 ポトンと音がして、水蒸気が舞い上がった。
 辺り一面、真っ白な水蒸気に包まれ、しばらくすると次第に収まり、視界がもとに戻っていく。
 イオが池に入り、炎の結晶石を拾ってきて、キラのもとへ持って来た。
 そしてキラの前に膝を付いて、炎の結晶石を掲げた。
「キラ様。我らワイトデ自治区は、キラ様をアリミネ火山の守護竜としてお慕いいたします。どうぞ、お守りください」
 イオがそう言うと、回りにいた人々も膝を付いて座り込み、頭を下げた。
 ギュウッ!
 キラがそう鳴くと、イオは微笑みキラの頭を撫でる。
「よろしく。キラ様」
 キラは撫でられて気持ち良さそうに目を細める。
 そして、やしろで宴会が始まった。
 
 キラの前にいろんな食べ物が運ばれてきて、キラは興味深々に覗き込み、キースが食べるとキラも口を開けて催促する。
 キースは少量づつ手のひらに乗せて、キラに食べさせていた。
 …何でも食べるんだ。
 そこへチハヤが近づいてくる。
「キラちゃん。美味しい?」
 ギュウッ!
 チハヤはニコニコ微笑んで、手のひらに果物を乗せてキラに食べさせてあげる。
「…お祭り騒ぎになっちゃったね」
 ぽそりとチハヤが言ってくる。
「キラが認めてもらえれば良いよ。…でもこれが、後三回続くと思うと、そっちの方が気が重い…」
 キースが苦笑いすると、その言葉にチハヤは笑った。

 
 キラが炎の結晶石を作れるのは一日一個までだ。
 その日の気温と、お腹の減り具合にもよる。
 初めて炎の結晶石を作ったときは、お腹が減りすぎて貪るように作って食べていたらしい。
 魔力の制御をするようになって、人族と同じ食べ物を食べるようになって、身体と魔力のバランスが取れるようになってきたようだ。
 明日は熊族の町に行く。
 賑やかな宴が終わり、イオの屋敷の客室でキラと一緒の部屋で眠った。
 夜中に重くて目が覚めると、キースが眠るベッドの掛け布団の上に丸くなって、キラが眠っていた。
 …キラは良い子だ。
 キースは微笑みを浮かべて再び眠りについた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守り神のアボカド

O.K
エッセイ・ノンフィクション
「守り神のアボカド」という物語は、学校帰りの道で発見された特別なアボカドの木を中心に展開されます。主人公はその木を大切にし、毎日のように実を収穫して家族と楽しむが、奇怪な夢に悩まされます。アボカドの木が「子供を返せ」と夢の中で訴えてきたことに混乱する主人公。しかし、村の長老からアボカドの木の伝説を聞き、その木が村の未来に重要な使命を担っていることを理解します。主人公はアボカドの木との特別な結びつきを大切にし、その木の実が村の未来に貢献する一部として誇りを感じることになります。物語は、夢や神話が現実に影響を与え、家族やコミュニティとの結びつきが何よりも大切であることを示唆しています。

押し入れアパートの奇妙な生活

O.K
エッセイ・ノンフィクション
主人公ユウキは普通の生活に疲れ、押し入れアパートという斬新なアイデアに惹かれて引っ越す。そこで他の住人たちと出会い、彼らと共同生活を始める。彼らは困難を乗り越えながら押し入れアパートを改善し、広く理解されるよう努力する。その結果、彼らの生活はメディアの注目を集め、支援やボランティアの力を得て成長する。最終的には、新たな押し入れアパートを作り出す計画を持つ彼らは、希望と共同体の力を信じながら前進していく。

味覚の旅:辛さからバランスへ

O.K
エッセイ・ノンフィクション
物語は、激辛料理が大好きな主人公・太郎が、毎日の辛い食生活が彼の性格にも影響を与え始めることに気づきます。自己反省の後、彼はバランスの取れた食事と生活の重要性を理解し、自分の改善のためにそれを実践します。そして、変化を経て彼の新しい食事観が人々にインスピレーションを与え、料理教室を開き、バランスの大切さを教えることで他人の人生にポジティブな影響を与えるようになります。

内なる輝きの秘訣 ― おばあさん綾子の物語

O.K
エッセイ・ノンフィクション
小さな町に住むおばあさん綾子が、若返る化粧水を手に入れる。しかし、彼女は美しさを大切にしつつも、内面からの輝きや笑顔の大切さを信じている。化粧水の効果よりも、健康的な生活習慣と自己愛を重視。 綾子の影響で町の人々も美しさに執着しない考え方を学び、総合的なアプローチで健康と自信を築くようになる。町全体が結束し、共に成長し合うコミュニティへと変わっていく。 綾子は年を重ねるが、笑顔と内面の輝きは衰えず、人々に美しさの真実を示し続ける。その物語は町の歴史に刻まれ、人々の心に永遠に生き続ける。

時を超えたプライバシーの発見

O.K
エッセイ・ノンフィクション
この物語は、主人公が30年もの間盗聴器の存在に気付かずにスマートフォンを使い続け、偶然にその存在を発見するという出来事を描いています。友人によって仕掛けられた盗聴器が長い年月を経て発覚し、主人公はプライバシーの尊重と新たな始まりに向けた決意を持つようになります。この出来事を通じて、彼はプライバシー保護と信頼の重要性を理解し、新しいスタートを切ります。物語は友人との過去の出来事から学び、未来に向かって前向きに進む主人公の成長を描いています。

スニーカーの夢

O.K
エッセイ・ノンフィクション
「スニーカーの夢」は、貧しい少年大志が安いスニーカーを手に入れ、それを履いてスポーツ選手になるという夢を叶える感動的な物語です。スニーカーは大志の人生を変え、彼の成功への道を切り拓き、彼はスポーツ選手として成功を収めた後も、夢を追いかけることと社会貢献を大切にしました。彼の物語は希望と努力の力を讃え、他の人々にも夢を追求し、善意の行動を積極的に行う勇気を与えました。

おでんの贈り物:太郎の愛と健康の物語

O.K
エッセイ・ノンフィクション
「おでんの贈り物:太郎の愛と健康の物語」は、おでんが大好きな少年太郎が、おでんに囲まれた生活を送りながら健康で幸せな人生を歩む物語です。太郎は町のおでんマスターとして知られ、新しいおでんのバリエーションを考案し、町に幸福と温かさをもたらします。彼のおでんは地元の特産品や季節の食材を使い、町を繁栄させ、太郎の家族や子孫たちにも幸せをもたらします。太郎の死後も彼のおでんの伝統は受け継がれ、町には太郎の愛と健康を象徴する存在として残りました。

誤解と再生

O.K
エッセイ・ノンフィクション
物語「誤解と再生」は、盗聴器を趣味とする男性、東郷健太が警察に誤って逮捕される出来事から始まります。彼は無実であるにもかかわらず、証拠として収集した盗聴器が使用され、有罪判決を受けます。刑務所での苦しい経験を経て、新たな証拠が浮上し、彼の無実が証明されます。再び自由になった東郷は、盗聴器の趣味を放棄し、誤解を避け、新しい人生を築くことを決意します。物語は、誤解と再生、信頼の大切さをテーマにしています。

処理中です...