闇の契約:深夜のトンネルの秘密

O.K

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深夜のトンネル

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深夜の闇が街を覆い、ひときわ静まり返った時間。ある男性はその静けさを背に、タクシードライバーとして一晩の仕事をこなしていました。彼は数々の夜を通り抜けてきたトンネルを、いつものように進んでいました。そのトンネルは、街を貫く古びたもので、長い間人々の間で不気味な噂が囁かれてきました。

しかし、男性はそんな噂を信じず、ただ深夜の時間帯だけがもたらす静寂と、ひとときの安らぎを楽しんでいました。トンネルの入り口に差し掛かると、彼はいつものようにラジオから静かなメロディを流し、運転に集中しました。しかし、トンネルの中に入ると、ラジオの電波は途切れ途切れになり、不気味な静寂が車内に広がりました。

男性は少し不安を感じながらも、そのまま進むことに決めました。すると、トンネルの先には薄暗い光が見え隠れし始めました。それはまるで、何かが影を潜めているかのような気配でした。男性は思わず速度を上げようとしましたが、車はなぜか徐々にスピードを落としていき、彼の意志とは逆に動いているような錯覚を覚えました。

すると、突如として男性の前には見知らぬ少女が現れました。彼女は白いドレスを着ており、その透き通るような美しさとは裏腹に、目は深い闇を湛えているように見えました。男性は急ブレーキを踏み、恐る恐る窓を開けて声をかけました。「大丈夫ですか? どうしてこんな深夜にここにいるんです?」と尋ねると、少女はゆっくりと口を開きました。

「私はここでずっと待っていました。あなたを助けるためにね。でも、私の助けを受けるなら…代償が必要です。」

男性は彼女の言葉に戸惑いましたが、同時に彼女の目に宿る深い闇に引かれるような感覚がありました。彼は代償に何を求められるのか尋ねると、少女は微笑みながら「あなたの最も大切なもの」と答えました。

男性はその言葉に一瞬たじろぎましたが、なぜか心の奥底から彼女に惹かれるような感情が湧いてきました。彼は家族や友人、そして自分自身のことを考えました。最終的に、彼は少女に向かって代償を払う覚悟を決めました。

すると、少女の目が一層深い闇で満たされ、彼女の手の中には光るペンダントが現れました。男性はそれを受け取ると、瞬間的に強烈な痛みが彼の体を襲いました。彼は悲鳴を上げながら、自分の最も大切な思い出や感情が次々と奪われていくのを感じました。

そして、痛みが収まると同時に、少女は消え去り、車はトンネルの出口に姿を現しました。男性は何が起こったのかを理解し、車を停めて後部座席を見ると、そこには誰もいない空っぽの席が広がっていました。彼の最も大切なものは、少女との取引の中で失われてしまったのです。

以降、男性は夜毎に同じトンネルを通る度に、その不気味な光景を思い出しました。彼の心は常に虚無感と後悔に満たされ、深夜のトンネルは彼にとって永遠の苦悩の場所となってしまったのでした。
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