微笑みのコミュニケーション

O.K

文字の大きさ
上 下
1 / 2

喋る歯磨き粉との出会い

しおりを挟む
「メンテちゃ~ん。こっち向いて」
「うぐぅ?」チラッ
「はっはっは。メンテ、パパを見て御覧」
「あぐぅ?」チラッ
「メンテちゃん」「メンテー」


 両親が僕を呼んでいます。ハイハイで近づきましょう。


「はっはっは、間違いないな」
「フフッ、そうね」
「あぐ~?」


 二人で何を話しているのでしょう?


「メンテって自分のこと呼ばれると反応するようになったな」
「最近は名前を呼ぶだけでこっちに来るわよ」
「言葉を理解してきたんだな」
「体は小さいけど成長してきたわね」


 おっと、どうやら僕が言葉を分かってきたと思っているようです。実際は生まれてからすぐに理解していましたよ。これは秘密です。

 ここは成長してきたと思わせましょう。自然に覚えたんだよとすれば普通の赤ちゃんですよね。


「最初にしゃべる言葉は何かしらね。きっと”ママ”よね」
「いやいや、そこは”パパ”だと思うな」
「何を言っているのかしらね。アニーキ―もアーネもママが最初だったわよ」
「今度こそパパになるよ。何しろメンテはパパっ子だからな」
「はっはっはっはっは!」「フフフフフッ」
「……んぐぅ」


 お、おう。これは大変なことになりましたよ。

 ”こんにちは”とか”おはよう”みたいに挨拶を言えばいいやと思っていました。僕のはじめての言葉は慎重に選ばなければなりませんね。う~ん、困りました。


 ◆


 次の日。僕と兄貴ことアニーキ―はお互いにお座りをしながら向かい合っていた。


「アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―」
「……うぐぅ」


 兄貴は僕に向かって自分の名前を連呼します。頭がおかしくなったのでしょうか?


「”うぐぅ”じゃないよ。アニーキ―だよ!」
「あうー」
「違うよ。アニーキ―!」
「……えぐぅ」


 ちょっとスパルタ気味なところは母にそっくりです。


「お兄ちゃん何してるのー?」
「メンテが名前を理解出来てるって父さんと母さんが言ってたんだ。だから俺の名前を覚えて欲しいから覚えさせているんだよ」
「へえ~、そうなんだ」


 そうなんですか。昨日の出来事を兄貴が知ってしまったようです。初めての言葉をどうしようか悩んでいたら噂も広まっていたのですね。僕は兄貴の頭が大丈夫かと心配してしまいましたよ。ちょっと損した気分だね。


「わたしもやっていいー?」
「いいよ」
「えへへ、メンテ覚えてね。アーネ、アーネ、アーネ、アーネ、アーネ」
「俺も続けるよ。アニーキ―、アニーキ―、アニーキ―」
「あぐぅ……」


 二人ともごめんね。僕は九官鳥じゃないの。どうすればいいのかわからないので様子をじっと窺います。


「わたしはアーネ。あなたもアーネよ。いい? あなたはアーネなの」
「えぐぅ?」


 だんだんとアーネが、お人形遊びで僕を叱っているときのしゃべり方になっていきます。いつも人形で遊ぶたびに僕役の人が怒られるのですよ。それと理由は分かりませんが、僕はアーネらしいです。あきらかに僕に嘘を教えていますね。僕赤ちゃんだけど言葉分かるんですよ。


「アーネ様、さすがに嘘は良ろしくないですよ」


 僕の言いたいことがカフェさんが伝えてくれました。さっきからずっとこちらの様子を見てたのですよ。彼女に任せましょう。


「えー? でも言葉覚えてほしいの」
「メンテ様にアーネと教えると、今後良くないことが起きるかもしれません」
「どうなるの?」
「メンテ様が大きくなったら、アーネ様の大好きなおやつを自分のだと勘違いして食べてしまいます」
「うん、わかったー。やめる」
「そ、そうだね。俺も嘘はダメだと思うなあ~」


 アーネはすぐにカフェさんの言うことを聞きましたね。食べ物の効果恐るべし。兄貴はアーネに名前を覚えさせたらと賛成した側なのでぎこちない感じの返事です。半分は俺のせいって分かっているようだ。僕は兄貴も止めて欲しいんだけどねえ。カフェさんが見えなくなったらまた再開しそう。子供ってそういうもんでしょ。


「あはっはははは、面白いこと考えたのね。そんなことしなくても勝手に覚えるわよ」


 たまたま様子を見ていたキッサさんが爆笑です。今日は、キッサさんとカフェさんの二人で僕たち兄弟の面倒を見てくれているのです。


「そうなの?」「本当に~?」
「赤ちゃんは言葉を自然に覚えるものよ。話しかけるのも大事だけど、しゃべれるようになるのはまだまだね」


 いや~、その通りだと思います。僕自然に覚えてないけどね!


「じゃあどうすればいいの?」「いつしゃべるの?」
「覚えてないかもしれないけど、あなた達も急にママってしゃべったんだから。それから少しずつ言葉を言えるようになったのよ。あれは何歳ぐらいだったかな?」
「確かお二人とも誕生日が終わってからでした。まだメンテ様は10ヶ月ですのでしゃべるのは難しいと思われますね」
「そうそう、誕生日の後だったわ。メンテくんの年齢じゃ言葉を少し理解し始めたぐらいよ。まだ自分の名前しか分かってないんじゃないかしら。無理に言わせるのではなく、話しかけるようにしてみたらどうかしら? その方が覚えてくれるんじゃないかな」
「「へえ~」」


 キッサさんのアドバイスは分かりやすいですね。子どもたちも納得していますよ。


「それならばこうですね。メンテ様、私はカフェですよ。カフェと呼んでくださいね。カフェカフェ♪」
「あ、俺もやる。俺はアニーキ―だよ。アニーキ―はメンテの兄のアニーキ―なんだよ。アーネの兄も俺アニーキーだよ」
「みんなずるーい。わたしはアーネ。アーネだよ! メンテのお姉ちゃんだよ!」


 さっきと比べるとたいぶマイルドになりました。3人とも僕に話しかけるように優しく自分の名前を教え込んでいきます。この中だとカフェさんが一番ノリノリな気がします。そのときです。


「みんなごはんよー」
「……えっぐ!(まじで!)」ぐわっ、ダダダダダダダッ!


 母の声が聞こえたので猛スピードでハイハイします。わーい、今日は何を食べるんだろうね! おっぱいも楽しみだよ~。


「「「「……」」」」


 残された一同はメンテがすごい勢いで振り向き、めちゃくちゃ速いスピードのハイハイでレディーに突進していく姿を見ていた。そのままレディーに抱っこされて食堂に行ってしまった。

 無言のままアニーキ―、アーネ、カフェの3人の視線がキッサに集まった。


「……ん~、レディーが呼んだから反応したんじゃないかな?」
「「「……」」」


 3人とも腑に落ちない顔になった。本当は言葉を理解してるんじゃないのかと言いたいが、メンテの年齢を考えるとどうなんだろうと疑問が生まれたのだ。じゃあ今何が起きたの? レディーにだけ反応しすぎじゃないかと。


「えっと……そ、そうねえ。言葉じゃなくて”声”の違いが判別できるようになったんじゃないかしら? メンテくんにとって母親の声が一番慣れているだろうし」
「「「……そうだね」」」


 3人とも少しだけ納得したような顔になったという。だが、真実はメンテにしか分からないのであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

奇跡の輝き:髪の毛のない男性の変化と希望の物語

O.K
ファンタジー
「髪の毛のない男性がコンプレックスを抱える中、怪しい育毛剤を使ったところ、次の朝には10m以上の髪の毛が生えてきた」という驚きの出来事が起きます。男性はその効果を信じ、自信を取り戻し、他の人々と自身の物語を共有することを決意します。彼の物語は広がり、多くの人々に希望と勇気を与えることになり、彼は育毛剤の効果を証明するために情報を提供し、オンラインコミュニティを立ち上げます。彼の伝えたいメッセージは、外見の変化だけでなく自己受容や前向きな考え方の大切さを教えるものであり、彼は社会的な認識を変えるためにも活動します。彼の物語は多くの人々に勇気や希望を与え続け、奇跡を可能にする力を教える永遠のメッセージとなります。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

氷の世界からの贈り物:期間限定かき氷店の物語

O.K
ファンタジー
小さな町に現れた特別な冷蔵庫。開けると美しい氷の世界が広がり、町の人々はその氷を使って期間限定のかき氷店を開く。氷の美しさと不思議な世界に魅了され、町は観光地として発展。しかし、氷の資源の限界を知り、持続可能な方法を模索。地元の資源を活かし、環境保護への意識も高める。かき氷店は閉店するものの、町は氷の贈り物から得た価値観を胸に、未来を持続可能な方向に向かって歩み始める。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...