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第6話「再燃しそうなこの想いは」

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 私が橋川さんに私の恋人だった山岸くんなのかを聞いた後、橋川さんは暫く私をじっと見ていた。
 その後、橋川さんは口角をあげて、ふっと笑い、
「そうだよ。俺は高校生の時、お前とつきあってた山岸郁人だよ。さっきの場で、俺の旧姓聞いて、思い出したわけ?」
 そう言った。
「!」
 私は今、この目の前にいる橋川さんが本当に私の恋人だった山岸くんなのだと解って、一気に胸の鼓動が早くなった。
 そして、今でも思い出すと胸がしめつけられそうな、2人にとって切なく悲しい思い出、ううん、きっと私なんかより、きっとずっと橋川さんの方が傷ついたはずの出来事が鮮明に頭をよぎった。
「やっぱり、そうだったんだ」
 私は若干、震える声で言った。
「俺もまさか入社した会社にお前がいるなんて、思わなかったよ。入社式の時にお前を見て、すぐに戸田だと解ったよ。お前は本当に今まで全く気付いてなかったから、言う必要もないと思って言わなかったけどな」
「ごめんなさい。だって、今の橋川さん、私が知っていた山岸くんとは全然、容姿も違うし、声もかなり低くなってるし。だけど、本当はずっと会社で橋川さんと会話した時から、何処かで会ったことのあるような気がしてたの」
 私がそう言うと橋川さんは黙ってしまった。
だけど、暫くして、
「駅まで行くんだろ」
 そう言った。
「えっ?」
 私は予想外の言葉に思わず聞き返した。
「お前も帰るんだろ。この前、迷子になってたし、駅まで一緒に行ってやるよ」
 そう言い橋川さんは歩き出した。
 だから、私も慌てて橋川さんの隣に追いついて、一緒に歩き出した。
 橋川さんはこの前と同様、私に歩くペースを合わせて歩いてくれた。
 駅まではこの間と同様、またほぼ会話はなかった。
 だから、私は橋川さんと一緒に歩いている間、私がまた迷子になるかもしれないから、駅まで一緒に行ってくれてるんだよね?
 だけど、橋川さんが私の恋人だった山岸くんなら、本当は私のこと嫌ってるはずだよね?
 それに入社してから、私にあたりがキツかったのも、私が高校生の時の恋人だって、解ってたからだよね?
 それなら、ずっと私にあたりがキツかったのも納得いくし。
 そんなことを思っていた。
 
 だけど、駅に着いて、橋川さんは、
「駅まで着いたら、もう大丈夫だろ? 気をつけて帰れよ」
 とこの会社に入社して以来、初めてそんな優しい言葉を私にかけてくれた。
 だから、私は驚いて橋川さんを見た。
「後、お互い、高校生の時からよく知ってる仲って解ったんだから、お前も俺のこと呼び捨てにしていいし、タメ口でいいから。じゃあな」
 その言葉に私はますます驚き、橋川さんに本当にいいのと言おうとしたけど、橋川さんはすっと私の隣からいなくなり、改札をくぐり抜けて行ってしまった。
 私はそんな橋川さんの後姿を見ながら、いきなり、私に対して、態度が変わった橋川さんに戸惑い、また、橋川さんにもう抱いてはいけない想いが再燃しそうで、困惑していた。
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