「気になる人」

第77話「あなたといる、それだけで」

  雪人さんが退院した日、雪人さんのご両親も一緒に雪人さんのマンションで夕方まで過ごした。
  雪人さんのお父様が月曜日にどうしても抜けられない仕事があるから、今日は新大阪駅の近くに泊って、明日のお昼には東京へ帰るから、申し訳ないけれど、雪人のことを頼んでもいいかなと、ご両親が私に言って、このマンションを後にした。
　
  そして、今、私は雪人さんのマンションのリビングルームで２人で過ごしていた。
  雪人さんは怪我をしていて、普段通りには動けないので、このマンションに帰ってきてからは、このリビングルームにある長ソファーによく座っていた。
「美春、ごめんな、面倒かけて」
  雪人さんが本当に申し訳なさそうに言った。
  私達はさっき、私がつくった夕飯を食べ終わり、明日は日曜日で、私も仕事が休みなので、今はゆっくりしたい時間を過ごしたいと思い、私はテーブルを挟んで、雪人さんの向かい側に置いてある、１人掛けのソファーに座っていた。
「面倒なんて、全然、そんなことないよ。それに雪人さんは私のことを庇ってくれて、大怪我したんだから、そんな風に思わないで。むしろ、私は雪人さんの役に立てて嬉しいんだから」
  私がそう言うと、
「美春、こっちに来て」
  と雪人さんが言ったので、私はソファーから立ちあがり、雪人さんが座っている隣に座った。
  すると雪人さんは私を抱きしめた。
  そして、その後すぐに、
「でも、散々、美春を振り回して、傷つけてきたのは俺だよ」
  そう言った。
「雪人さん」
「だから、本当に美春には感謝してるんだ。それに今もこうして美春が俺のそばにいてくれることが本当に嬉しいんだ」
  雪人さんはそう言い、さらに強く私を抱きしめた。
  だから、私も人さんの背中に両手を回して、強く雪人さんを抱きしめ返した。
「それは私も同じだよ。勿論、雪人さんが言ったように私達には色々あったけど、でも、今、こうして、雪人さんと一緒にいれることが本当に嬉しいの」
  私がそう言うと雪人さんは、私が大好きな優しい笑顔で私を見た。
   そして、その後、
「美春、俺が仕事に復帰できるようになったら、美春にどうしても伝えたいことがあるんだ」
  そう言った。
  だから、私は思わず雪人さんの顔を見て、
「それは今じゃ駄目なの？」
  そう聞いた。
  すると雪人さんはまた、優しく笑って、
「うん、俺の我儘で悪いんだけど、俺の生活がほぼ普段通りになってから、伝えさせて。決して、悪いことじゃないから」
  そう言ったので、一体、何だろうと凄く気にはなったけど、雪人さんの言葉の強さに頷いた。