「気になる人」

第７５話「誓い」

　雪人 さんがバイクに惹かれて、その場は騒然となり、私達のすぐ近くにいた５０代半ばくらいの男性がすぐに救急車を呼んでくれて、また、この近くに交番があったため、警察官の人もすぐに来て、私ではなく、私達の周りにいた人達が湯野さんが私を突き飛ばそうとしていたところを目撃していたらしく、警察官に話して、警察官の人が私に事情を聞
き、とりあえず、私は救急車が来たので、雪人さんに付き添うことになり、警察官の人は後で詳しく話を聞かせてほしいと言ったので、名前と連絡先は伝えた。
　また、湯野さんは警察官に交番の方に連れて行かれたけれど、私はその後すぐに救急車に乗ったので、それからどうなったのかは解らなかった。

　病院に着くと雪人さんはすぐにオペ室に入った。
　手術に入る前に担当してくださる医師から、だいぶ出血もしているので、危ないかもしれませんと言われた。
　それを聞いた私は誰にも連絡することはせずにただ１人で雪人さんの手術が終わるのを待っていた。
　だけど、会社の近くで雪人さんが惹かれたということや、湯野さんが関わっていると何処からか情報がいったらしく、荒島部長や飯川課長、そして、大山さんが午後８時頃に３人で来てくれた。
「野中さん、倉崎さんは」
　大山さんが言った。
「夕方の６時半過ぎからオペ室に入ったままです。手術する前に担当の医師から、危ないかもしれないと言われました」
　私は震える声でそう言った。
「そんな」
　大山さんはそう言い私のことをぎゅっと抱きしめた。
「でも、大丈夫よ。絶対に」
　大山さんはそう言って、私の背中をぽんぽんと優しく叩いた。
　私は大山さんにそうされて、今まで張りつめていた糸がプツンッと切れて、大山さんの腕の中で静かに泣いてしまった。
　そして、午後１０時にやっと雪人さんの手術が終わり、担当医師から、手術は成功しました、後は意識が戻られるのを待つだけですと言われ、私は再び大山さんにぎゅっと抱きしめられ、また、大山さんの腕の中で泣いた。

　だけど、それから4日経っても、雪人さんの意識は戻らずにいた。
　私は仕事を何日も休むわけにはいかないので、今日から仕事に復帰して、仕事帰りに病院に来た。
　雪人さんのご両親や私の両親も土曜日にすぐに病院に駆けつけ、そして、皆、仕事があるので、日曜日の夜に戻っていった。
　雪人さんのご両親はどうか雪人のことをお願いしますと私にそう言って。
　そして、私は今、意識が戻らない雪人さんが寝ているベッドの横で椅子に座って、雪人さんを見ていた。
　そして、私は雪人さんを見つめながら、万が一、雪人さんがこのまま意識が戻らなくても、私は雪人さんが生きていてくれている限り、ずっと雪人さんの恋人でいようと心の中でそう勝手に誓った。