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第52話「痛いくらい抱きしめるのに」
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橋野さんが雪人さんだと確信して、また、早苗さんが病気で記憶をなくしてしまった雪人さんを昔、婚約者だった人の代わりにしているということが解り、何とかしたいと思っているものの、雪人さんが今、何処に住んでいるのか、早苗さんも何処に住んでいるのかさえ解らないままで、私は早速、途方に暮れてしまっていた。
この間、雪人さんと会った時に連絡先、聞いておくんだった。
私はそう思いながら、いちかばちかで、土曜日にまた雪人さんと再会したイタリアンのお店のところに行ってみることにした。
だって、もう、そこでしか雪人さんとまた会える気がしなかったから。
そして、土曜日、私はイタリアンのお店が始まる午前11時半の少し前にお店の前に来てみた。
するとそこに雪人さんが立っていた。
私は雪人さんの姿を見て、嬉しくて、
「雪人さん」
思わずそう声をかけてしまった。
すると雪人さんは驚いた顔をした後、私のところまで来てくれた。
「野中さん」
この間、名前は伝えておいたから、雪人さんは私のことをそう呼んだ。
だけど、雪人さんにはもう美春って数えきれない程、呼ばれていたから、今更、名字で呼ばれるのは何だか変な感じがしたし、寂しかった。
「良かった。雪人さんにもう1度、会いたくて、いちかばちかでここに来てみたんです。何となくここなら、もう1度、雪人さんに会えるような気がしたから」
私がそう言うと雪人さんは、
「美春」
と今度は私のことをそう呼んだ。
え?
今、美春って呼んだ?
私のことを美春って。
私はそう思い雪人さんの顔をじっと見つめた。
すると雪人さんも私のことをじっと見つめて、その後、いきなり私を抱きしめた。
「雪人さん?」
そういえば、今日は私がこんなに何度も雪人さんって呼んでるのにこの間、みたいに不思議そうにしないし、訂正もしない。
それって、もしかして。
「雪人さん、もしかして、記憶が戻ったんですか?」
私は雪人さんに抱きしめられながら、雪人さんの顔をじっと見つめてそう言った。
すると雪人さんは、
「そうだよ、美春」
そう言った。
だから、私は、
「良かった、雪人さん、嬉しい」
そう言い雪人さんの背中に両手を回して、そう言った。
だけど、雪人さんはその後、私をまた強く抱きしめた後、
「美春、凄く心配かけてごめん。俺、重病になって、その後、美春も解ってるように記憶をなくしてたんだ。で、早苗が俺を橋野郁美って人だと思わせて、今まで早苗とずっと一緒にいた」
そう言い、
「だから、本当なら、早苗に記憶が戻ったって言って、俺は橋野郁美じゃないって伝えるべきだと思う。でも、ごめん、今は俺にはそれができないんだ」
更にそう言った。
私は雪人さんのその言葉に目を見開いた。
「雪人さん、それはどういうことなんですか? 記憶が戻ったのに橋野郁美さんとして、まだ早苗さんのそばにいるってことなんですか?」
私がそう聞くと雪人さんは私をますます強く抱きしめて、
「ごめん、本当は美春にまた会えたら、俺は最初は橋野郁美だって貫き通すつもりだった。だけど、美春も俺と同じようにここに来たら、また俺に会えるような気がしたって言ったから、正直に言うことにしたんだ」
「雪人さん」
私は雪人さんが言いたいことがよく解らなくて、若干、混乱気味だった。
そして、雪人さんは私を離して、
「さっき言ったように俺は今は倉崎雪人には戻れないんだ。美春のことを傷つけてばかりで本当にごめん」
そう言いこの場を走って去ってしまった。
私はそんな雪人さんのことを追いかけることもできず、ただ、そこに立ちつくし、どうして、雪人さん、私のことを痛いくらいに抱きしめたくせに、どうして、そんなことを言うんですか?
そう思っていた。
この間、雪人さんと会った時に連絡先、聞いておくんだった。
私はそう思いながら、いちかばちかで、土曜日にまた雪人さんと再会したイタリアンのお店のところに行ってみることにした。
だって、もう、そこでしか雪人さんとまた会える気がしなかったから。
そして、土曜日、私はイタリアンのお店が始まる午前11時半の少し前にお店の前に来てみた。
するとそこに雪人さんが立っていた。
私は雪人さんの姿を見て、嬉しくて、
「雪人さん」
思わずそう声をかけてしまった。
すると雪人さんは驚いた顔をした後、私のところまで来てくれた。
「野中さん」
この間、名前は伝えておいたから、雪人さんは私のことをそう呼んだ。
だけど、雪人さんにはもう美春って数えきれない程、呼ばれていたから、今更、名字で呼ばれるのは何だか変な感じがしたし、寂しかった。
「良かった。雪人さんにもう1度、会いたくて、いちかばちかでここに来てみたんです。何となくここなら、もう1度、雪人さんに会えるような気がしたから」
私がそう言うと雪人さんは、
「美春」
と今度は私のことをそう呼んだ。
え?
今、美春って呼んだ?
私のことを美春って。
私はそう思い雪人さんの顔をじっと見つめた。
すると雪人さんも私のことをじっと見つめて、その後、いきなり私を抱きしめた。
「雪人さん?」
そういえば、今日は私がこんなに何度も雪人さんって呼んでるのにこの間、みたいに不思議そうにしないし、訂正もしない。
それって、もしかして。
「雪人さん、もしかして、記憶が戻ったんですか?」
私は雪人さんに抱きしめられながら、雪人さんの顔をじっと見つめてそう言った。
すると雪人さんは、
「そうだよ、美春」
そう言った。
だから、私は、
「良かった、雪人さん、嬉しい」
そう言い雪人さんの背中に両手を回して、そう言った。
だけど、雪人さんはその後、私をまた強く抱きしめた後、
「美春、凄く心配かけてごめん。俺、重病になって、その後、美春も解ってるように記憶をなくしてたんだ。で、早苗が俺を橋野郁美って人だと思わせて、今まで早苗とずっと一緒にいた」
そう言い、
「だから、本当なら、早苗に記憶が戻ったって言って、俺は橋野郁美じゃないって伝えるべきだと思う。でも、ごめん、今は俺にはそれができないんだ」
更にそう言った。
私は雪人さんのその言葉に目を見開いた。
「雪人さん、それはどういうことなんですか? 記憶が戻ったのに橋野郁美さんとして、まだ早苗さんのそばにいるってことなんですか?」
私がそう聞くと雪人さんは私をますます強く抱きしめて、
「ごめん、本当は美春にまた会えたら、俺は最初は橋野郁美だって貫き通すつもりだった。だけど、美春も俺と同じようにここに来たら、また俺に会えるような気がしたって言ったから、正直に言うことにしたんだ」
「雪人さん」
私は雪人さんが言いたいことがよく解らなくて、若干、混乱気味だった。
そして、雪人さんは私を離して、
「さっき言ったように俺は今は倉崎雪人には戻れないんだ。美春のことを傷つけてばかりで本当にごめん」
そう言いこの場を走って去ってしまった。
私はそんな雪人さんのことを追いかけることもできず、ただ、そこに立ちつくし、どうして、雪人さん、私のことを痛いくらいに抱きしめたくせに、どうして、そんなことを言うんですか?
そう思っていた。
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