「気になる人」

愛理

文字の大きさ
上 下
29 / 80

第29話「約束」

しおりを挟む
 私は京都では会社が借りてくれたマンションに1人暮らしをすることになっていた。
 マンションは会社の最寄駅から大阪方面に3つ行ったところにあり、近くにスーパーやコンビニがあって、わりと便利そうなところだった。
 仕事の関係などで私は手が回らず、事前に必要な荷物などの手配は両親に頼んでいたので、私はマンションに来るのは初めてだった。
「へー、結構いいマンションだな」
 雪人さんが部屋の中に入って言った。
「ええ、本当。ちょっとほっとしました」
「ああ、会社が借りるマンションってどんなんだろうって思ったりするよな」
「はい、それに私、前もって見に来れてなかったんで。お母さんからは綺麗なマンションだったわよとは聞いてはいたんですが。でも、本当にそのとおりで良かったです」
「そうだな。俺もちょっとほっとしたよ。あまり寂し気なところでもないみたいだし。でも、女性の1人暮らしだから十分に気をつけてな」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、必要な荷物だけ出して、整理して、その後は少しゆっくりしようか」
「はい」
 そして、私達は段ボールに入ったままの荷物を開けて、まずは毎日、使いそうなものを整理した。
 それから雪人さんが言ったとおり、さっきスーパーで雪人さんが買ってくれたシュークリームと私がこのマンションで初めて淹れたコーヒーを食べて飲んで、くつろいだ。
「美春、もし明日、美春が良かったらなんだけど、せっかくだから、京都の有名な場所でも行かないか」
「雪人さん」
「暫くは会えないと思うから、まずは楽しい思い出をつくって、会えない間、そのこと思い出して、美春に会えるまで頑張りたいなと思って」
 私は雪人さんのその言葉が凄く嬉しくて、はいっ、勿論ですと強い口調で返事をした。

 次の日、私と雪人さんはこれから私が暫くの間、住むマンションからわりと近いところにある、八坂神社に行くことにした。
 八坂神社があるところは個人のお店が電車の駅から行く道に沢山あり、また、商店街もあった。
 京都なので、和を感じるお店もたくさんあった。
「何かやっぱり、この道の雰囲気とか京都って感じがするな」
 雪人さんが言った。
「本当ですね。でも、何かお店とか見てると楽しいです。私、結構、和を感じるような可愛い小物とか好きなんです」
「じゃあ、後で何か買ってあげるよ」
「え? そんな悪いです」
「いいの。でも、それを見て、会えない間、俺のこと思い出してくれたら嬉しいかな」
「雪人さん」
  それから、私達は八坂神社に行き、お参りをして、その後、歩いている時に偶然見つけた、和食のお店に入って、昼食をとり、そして、今、雪人さんが言ってくれたように和を感じられる可愛い小物などがたくさん売っているお土産屋さんに入り、私は雪人さんに買ってもらう小物を選んでいた。
「色々可愛いものがあって迷います」
 私は今、小銭入れを見ていた。
 ちりめんでできていて、このお店には10種類以上の模様のものがあり、小銭入れなら、普段も持ち歩けていいなと思うものの、どの模様のものにするか決められないでいた。
 だけど、雪人さんをあんまり長く待たせるわけにもいかないので、全体的にはピンクで、そこに鳥居ときつねが描いてあるものが珍しい模様だと思ったので、それにすることにした。
 雪人さんに言うとすぐに買ってくれて、プレゼント用にもしてくれて、お店を出た後すぐに私にプレゼントしてくれた。
「ありがとうございます。絶対に大切にします」
 私がそう言うと雪人さんは優しい笑顔を私に向けてくれた。
 私は雪人さんと今日、ずっと一緒に過ごしながら、ああ、雪人さんとのお別れの時間がいつまでも来なければいいのになと思っていた。

 だけど、勿論、時間は止まってはくれず、とうとう雪人さんともうすぐでお別れの時間になった、
 だから、私達は京都駅の東京行きの新幹線などが来るホームにいた。
「雪人さん、わざわざ京都まで一緒に来てくれて本当にありがとうございました」
 私がそう言うと雪人さんは他にたくさんこのホームには人がいるにも関わらず、私を抱きしめた。
「雪人さん?」
「絶対に美春が1年後には東京の本社に戻れるようにするために俺も頑張るから」
「雪人さん」
「だから、美春も頑張ってな。後、来月、クリスマスあるだろ」
 そう、今は11月の中旬で、少しずつクリスマスを感じるようなライトアップだったりが、東京でも、この京都でも出てきていた。
「はい、あります」
「美春と初めてのクリスマス、今年、一緒に過ごしたいから、その時、俺がこっちに来るよ」
「雪人さ
「その時は俺がちゃんといいホテルも予約するから、そこに泊って、恋人同士らしいクリスマスを過ごそう。約束な」
 そう言い雪人さんは更に強く私を抱きしめた。
 そして、その数分後に雪人さんが乗る東京行きの新幹線が来て、雪人さんは東京へ帰ってしまった。
 私は雪人さんが東京へ帰ってしまった後、寂しい気持ちが勿論、強かったし、明日から勤務する職場への不安も正直あった。
 だけど、雪人さんが東京へ帰る直前に京都駅のホームでクリスマスの約束のことを思い出し、クリスマスにはいい報告をできるように頑張ろうとも思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

処理中です...