「気になる人」

第２７話「京都へ」

　上野課長から出向を告げられた週の土曜日、雪人さんがデートに誘ってくれたので、私はその時に上野課長から言われた出向の話を雪人さんに話すことにした。
　そして、今日はその土曜日で私と雪人さんは今、映画を見終わり、映画館が入っているビルにあるレストランでランチをしていた。
　私は今日、中々、雪人さんに出向の話ができないでいた。
　だけど、雪人さんが、
「美春、何か今日、変じゃない？　どうかした？」
　そう言ってくれたので、私は出向を告げられたことを話すことにした。
「実はこの間、上野課長から京都にある、うちのグループ会社に出向を命じられたの」
「え？」
　雪人さんは凄く驚いたような表情をした。
　だけど、すぐに悔しそうな表情になり、
「あのメールのせいだよな」
　そう言った。
「まあ、そうなるんですけど。でも、上野課長は左遷じゃなくて、１年経ったら、また今の職場に呼び戻してくれるって言ってくれていて」
「上野課長の人柄なら、そうしてくれるだろうけど、美春が京都にあるグループ会社に出向している間に上野課長が何処かに行くかもしれない。そうしたら、戻ってこれる保証はないと思う」
「え」
「美春はこの会社にまだ１年も勤めてないし、社会人もまだ１年も経験してない。だから、美春のように仕事を真面目に頑張ってる子には言いにくいけど、会社なんて、だいたい非常なところが多いんだ」
「雪人さん」
「言いたくないけど、今まで俺は何人も今の会社で非常な扱い受けてきた人を見てきたよ。大手だから、人が多い分、そういう人がたくさん出てしまうんだとは思うけど」
「雪人さん」
「もう１度、俺が上野課長に話してみるよ」
　私は雪人さんのその言葉に首を左右に振った。
　正直、上野課長に出向の話をされた時は雪人さんと離れ離れになるのが怖くて、それが嫌で京都へ行くのをどうしようか迷った。
　だけど、今、雪人さんと話して、もしかすると雪人さんの性格なら、自分が何処かへ行くと言うかもしれない。
　それも何もかも自分のせいだからと正直に話して。
　そう思い、勿論、雪人さんと離れるのは寂しいし、さっき雪人さんが言ったように１年間くらい経ったら、こっちに戻れるっていう話もどうなるか解らないかもしれない。
　だけど、私は雪人さんが職場でいきいきと仕事をしているのを見てきたし、会社にとってもきっと今、凄く必要な人だとも思うから。
「雪人さん、そんな風に私のこと思ってくれてありがとうございます。でも、私、京都にあるグループ会社に行きます」
　そう言った。