「気になる人」

愛理

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第13話「告白されて」

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 私は金曜日に倉崎さんとあの女性が一緒にいるところを目撃して、あの女性が倉崎さんの特別な存在なんだと解ってから、今度こそ本当に倉崎さんへの想いを断ち切ることを決めた。
 勿論、倉崎さんに対して抱いているこの特別な感情がすぐに消せるわけではないけど。
 だけど、そうしないと私は前に進めないと思うから。
 だから、今日は倉崎さんに必要なこと以外はあまり話しかけないようにしていた。
 ただ、倉崎さんはいつも通りの感じだったけれど。
 そして、そんな時、私が今日の仕事を終えて帰り支度していると、
「野中さん話があるんだけど、今日、一緒に帰ってくれないかな?」
 と同じ職場の確か倉崎さんと同期の高瀬さんという、倉崎さんのようにイケメンで背が高くて、モテると評判の男性から声をかけられた。
 また、倉崎さんと違うのは誰に対しても人当たりが良くて、倉崎さんみたいに1人でいることは滅多になく、いつも何人かの人に囲まれていることだった。
 でも、私は課が違うこともあり、同じ職場ではあるけれど、まだ数回しか高瀬さんと言葉を交わしたことはなかった。
 そんな高瀬さんが私に何の話があるんだろう?
 そう思いながらも私は同じ職場の人だから、無下にもできず、
「え? はい、別にいいですけど」
 そう返事をした。
「本当? やった。ありがとう。じゃあ、俺、帰り支度してここに来るからちょっと待っててくれるかな」
 高瀬さんは嬉しそうにそう言い自分の席へと戻っていった。
 
 そして、私は高瀬さんと一緒に会社を出た。
 高瀬さんはやっぱり人気があって、会社の門を出るまでに何人もの男性と女性に声をかけられていて、高瀬さんも気さくに返事をしていた。
「高瀬さんて評判通り、人気があるんですね」
 会社の門から出てすぐに私はそう言った。
「え? 何その評判通りって」
「高瀬さんはモテるって同期の子から聞きました。そして、今日、会社の門を出る短い間に何人もに声かけられてて。男性女性問わずに人気があると思いますけど、女性はきっと高瀬さんのこと好きなんだろうなって」
「色んな人が気軽に声をかけてくれるのは本当だけど、俺の場合は本気で好きでなってくれる人は少ないよ。友達感覚みたいになっちゃって」
「え? 絶対にモテますよ」
「だから、そんなことないって。それにきっと本当は倉崎の方がモテるよ」
 倉崎さんの名前が突然出て、私はドキッとした。
「そうなんですか?」
「ああ、あいつさ、無愛想な感じにしてるけど、本当は凄く優しいからさ。野中さんも倉崎に教わってるんだから、解るだろ? 面倒見もいいし」
「え? それは確かに。最初は本当に無愛想で私、やっていけるかなと思ったんですけど、でも、今、思えば最初から仕事も丁寧に教えてくれました」
「そうだろ。まあ、あいつさ、昔からあんな風だったわけじゃないんだ。もっと明るくて、愛想よくて、優しくて、誰から見てもいい奴だったんだよ。でも、あることがあって、あいつ、あんな感じになったんだ」
「あること?」
「あ、ごめん、余計なこと話しすぎたね」
 あることって何だろう。
 別に全然、私にとっては余計なことじゃないんだけど、倉崎さんへの想いを断ち切るって決めた以上、余計なことは聞かない方がいい気もする。
 そんなことを思っていると、
「それより野中さん」
 高瀬さんがいきなり大真面目な顔をして私の方を見た。
「はい」
 だから、私も畏まってしまった。
「突然、こんなこと言って驚かせるかもしれないけど、俺とつきあってくれないかな?」
「え?」
 私は全然、思ってもいなかった展開に戸惑う。
「実はさ俺、野中さんのこと入ってきた時からいいなって思ってて。でも、中々、まともに話したりする機会もなくて。でも、やっぱりずっといいなって思ってて。で、OKでもふられてもやっぱり想いは俺、伝えておきたいタイプだから、思い切って告白してみようって決めて。でも、本当に突然だし、つきあってくれないかなって言ったものの、野中さんが嫌ならはっきりふってくれていいいから。俺、別にそれで職場で野中さんに対して態度変えるつもりもないし」
 高瀬さんはまだ凄く真面目な顔をして私にそう言った。
 その顔を見ているだけで、高瀬さんが私のことを本気で想ってくれているんだろうっていうことが伝わってくる。
 そして、私は倉崎さんへの想いは断ち切ると決めた。
 だから―。
「高瀬さんがそう言ってくださるの凄く嬉しいです。私でいいなら、ぜひ、高瀬さんの彼女にならせてください」
 私は新しい恋へのチャンスを受け取ることに決めた。
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