「気になる人」

第３話「解らない人」

　倉崎さんに仕事を教えてもらうようになって５日が経った。
　倉崎さんは常に無表情で声のトーンも全然変わることがないので、全然、感情が読めなかった。
　だけど、仕事に関しては凄く解りやすく教えてくれて、これだけ解りやすく人に教えることができるってことは倉崎さんが仕事ができるからなんだろうなとは思った。
　
「あー、やっと金曜日だね。明日と明後日の休みが凄く嬉しい」
　課は違うけど、同期の女子の長谷さんが言った。
　今は昼休みで私はこの会社に入ってから、この長谷さんと一緒に社内食堂に行くようになったので、今も社内食堂で向かい合わせになり一緒にお昼ご飯を食べていた。
　この会社の社内食堂はメニューも結構、豊富のうえにお値段も会社の福利厚生がいいからか、かなり安かった。また、味も結構、美味しいので、いつも食堂は賑わっていた。
　また、構内に人が多いから、昼休みは１１時４５分からと１２時からと１２時１５分からの休憩時間にグループ会社ごとに分けられていた。
「本当だね」
　私は今日のメインデッシュの鳥の唐揚げをお箸で取りながら言った。
　別に仕事内容は嫌ではないし、むしろ初めてのことばかりで新鮮さがあって、
私はいいと思うけど、倉崎さんとマンツーマンなのは正直少し疲れるところがあった。
　そして、私は未だに出勤の初日に見た笑顔の素敵だった人が本当に倉崎さんだったのかなとも思っていた。

　私がそんなことを思っていると後少しで定時の時間という時にもの凄い睡魔に襲われ危うく寝そうになってしまった。
「疲れたか」
　倉崎さんが言った。
　やばい。確かに今日は教えてもらうことが多すぎて疲れたけど。
　でも、こんなんじゃ絶対にだめなの解ってるし、いずれは１人立ちするんだから、気合入れないと。
「え、いえ、大丈夫です」
　だから、私は本当は凄く疲れているのにそんな風に返事をしてしまった。
「無理はしなくていいよ。疲れた顔してるし、今日はもうここまでにしよう。ちょっと席で定時までゆっくりしてて」
　倉崎さんはそう言い今まで座っていた椅子を元あった場所に戻して何処かに行ってしまった。
　もしかして私、呆れられたのかな。
　教えてもらっている立場で疲れを隠さないなんてと思って。
　私がそんなことを思っていると、
「ほら、これ飲んで、定時まで後６分くらいあるから、ゆっくりして。後、定時になったら、あがっていいから」
　と紙コップに入ったコーヒーを私に差し出してくれた。
「砂糖とミルクも入れたやつにしたけど大丈夫？」
　私は倉崎さんが渡してくれた紙コップに入ったコーヒーを受け取り、
「はい、むしろ、あるのは大歓迎です」
　そう言った。
　すると倉崎さんは、少しくすっと笑い、
「面白い言い方するね。じゃあ、これ飲んで。で、さっきも言ったけど、定時までごゆっくり」
　そう言い自分の席に戻っていってしまった。
　私は倉崎さんがくれたコーヒーを眺めながら、そういえば自動販売機はこの事務所からわりと近いところにあったな。
　でも、わざわざ事務所出てまで、私のためにこのコーヒーを買ってきてくれたんだ。
　そんなことを思った。
　私の今までの倉崎さんに対しての印象はいつもクールで感情の読めない人だった。
　だけど、本当はこんな優しさも持ち合わせている人。
　私は倉崎さんが優しくしてくれたことが嬉しいと思いながらも、でも、一体、倉崎さんて本当はどういう人なんだろうと思い始めていた。