「君としか恋はしたくない」

愛理

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番外編「何処にいても、どんなに時が経ったとしても」― side凉一 ―

第4話「傷つけたくないのに」

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  それから数日後のことだった。
  俺はサッカー部は夏休みの試合で引退したので、今は学校の全ての授業が終わるとすぐに綾香と一緒に帰ってるんだけど、今日は綾香が用事があるので、先に帰ってほしいと言ってきた。
  別に今までもこんなことはたまにあった。
  だけど、今の俺はやっぱり、綾香の大学のことでもやもやした気持ちを引きずったままで……。
  何となく優しくなれなくて……。
「何で? 何の用事?」
  思わず怒ったような口調で綾香にそう聞いてしまった。
  だからか、綾香は少し怯んだような表情で、
「うん、ごめんなさい。ちょっとA大学のことについて進路指導の先生に聞きにいこうと思ってて……」
「じゃあ、俺も行くよ」
「でも、涼一はA大学には行かないでしょ? 行かないのに話を聞くのつきあってもらうなんて悪いよ」
  綾香がそう言った時、
「相田さん、そろそろ進路指導室に行かないとまずいんじゃない?」 
  と同じクラスの滝山という男子が俺達のところに来てそう言った。
  滝山は運動神経はそんなによくないみたいだけど、勉強はかなりできる奴だった。
  え? 何? 何で滝山?
  俺と綾香はそりゃ同じクラスだから、たまに滝山と会話をすることもあるけど、あまり接点がない奴のはずだった。
  なのに何で綾香が今日、放課後、進路指導室に行くことをこいつが知っているんだろう?
  俺がそう思っていると、
「あ、里川、俺、A大学に行こうと思ってるんだけどさ、たまたま、今日、俺達の担任の長谷川先生とその話をしてて、そこに偶然、相田さんが来てさ、で、長谷川先生が相田さんに俺もA大学希望で、今、今日、今のA大学についての詳しい情報を進路指導室の先生が聞いて、放課後にはもうA大学の詳しいことが解っているはずだから、2人で話を聞きにいったらどうだって言ってさ。だから、今から相田さんと2人で進路指導室に行くんだけど、決して、俺、相田さん狙いとかじゃないから、変な誤解しないでくれよ」
  滝山がそう言った。
  何それ。
  俺、今日、綾香からそんなこと一言も聞いてないんだけど……。
  勿論、滝山の言うとおり、偶然になったことなんだろうけど……。
  でも、それなら、何で俺にそうなった時点で言わなかったわけ?
  それに今だって、ただA大学のことについて進路指導の先生に聞きにいこうと思っててと言っただけで、滝山の名前を出さなかったのは何で?
  綾香が滝山のことを何とも思ってないのは解っているつもりだけど……。
  でも……。
  俺はこの間からのもやもやした気持ちとそれに加えて、滝山が綾香と一緒のA大学に進むということにも嫉妬してしまい、
「でも、もし、一緒の大学に行ったら、凄く仲良くなるかもな」
  そんなことを口走ってしまった。
  そして、俺は鞄を持ち、教室から出ていった。
  でも、俺は綾香と滝山のところから去る時に見えた綾香の傷ついた表情を見て、自分が言ったことと取ってしまった行動をすぐに後悔したんだけど……。
  だって、俺は本当は綾香を傷つけたくなんかないから。
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