「君としか恋はしたくない」

愛理

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第9話「やっぱり、ファーストキスは」

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    白雪姫役をすることになった綾香は、最初は、おろおろしていたけど、白雪姫の格好をするともう、頑張らないといけないと心を決めたようだった。
 実は綾香は凄く人見知りで引っ込み思案ではあるけれど、勉強も運動もできるし、わりと何でもすぐにこなせるタイプだった。
 だから、実は俺は綾香の演技に対しては全然、不安を抱いてなかった。
 そして、白雪姫の劇の本番が始まった。
 ちなみに綾香がやる予定だった小人役は裏方に回っていた実が代役をすることになった。
 実が自分からやると引き受けてくれたのだ。
 やっぱり実には感謝しかないと俺は実が自分から綾香の小人役の代役をすると言ってくれた時に強く思った。
 白雪姫の劇は練習通りにスムーズに進んでいった。
 俺が王子様役で現れると自分で言うのもなんだけど1年生の女子からかなりの人数の歓声があがった。
 はあっ。悪いとは思うけどやめてほしい。
 だって、俺が出る度に歓声があがったら、綾香がやりにくいと思うから。
 そう。本当に俺に好意をもってくれてる人達には悪いとは思うけど、俺は何よりも綾香なんだ。
 そして、俺は台の上に寝ている綾香を目の前にすると、もうそんなことを考える余裕はなくなってしまった。
 だって、この場面はもう嫌になるほど(笹原が相手だった時は本当に嫌だったんだけど)練習した王子様が白雪姫にキスをして、白雪姫を目覚めさせるところだから。
 俺はそっと綾香に手を添える。
 この時、さっきまであがっていた歓声はすっかり消えていた。
 そして、俺はゆっくりと綾香の顔に自分の顔を近づける。
 俺と綾香は赤ちゃんの頃からずっと一緒に過ごしてきたということもあって、俺が綾香のおでこや頬に軽くキスをするということは何度かあった。
 でも、さすがに唇と唇はまだなかった。
 勿論、笹原とだったらこの場面は唇と唇でもしたふりしかしないことになっていた。
 だけど―。
 俺は今、綾香に本当にキスしようかと思ってしまっていた。
 好きという気持ちが凄く溢れてしまって。
 綾香……。
 今、綾香は芝居の上、目を綴じている。
 なあ、綾香、ここで俺がお前に本当にキスしたらどうする―?
 泣く? 怒る? それとも……。
 そんな想いが頭の中を色々と駆け巡ったけれど、俺は綾香の唇がある、すれすれの場所にキスをした。
 もの凄く本当にしたい気持ちはあったけど、でも、やっぱり、綾香とのファーストキスはこんな芝居の上ではなくて、涼一と綾香の時のままでしたいから。
 そして、綾香は目を覚まして、そのまま劇はエンディングへと進んでいった。
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