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それは突然に2

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 騒がしかった室内が一瞬で静まり返る。ノアの小さな一言はディランたちの耳に確りと届いてようでルークとキアーラはディランを、ディランは俯くノアに視線を向けた。
「ノアちゃんが謝ることなんてなんっにもないよっ!?」
 最初に口を開いたのはキアーラで、今にも泣き出しそうなノアに慌てた。ノアがここにいるのはルークが連れ去ってきたからでありノアは何も悪いことはない。寧ろ被害者だろう、完全にルークがいけない。けれどもノアは「帰らます……ケーキ、ごちそうさまでした」と喋るのも辛いだろうに無理やり笑顔を浮かべてルークとキアーラにお礼を述べた。
「ノアッ!」
 ディランの声にノアの肩が震える。大声をだすディランなんてノアは初めてだ。声の大きさがディランの怒りの大きさの様な気がして頭の中が真っ白になる。だけども名前を呼ばれて無視することもできなくて、返事をしなければと口を挟む開くも喉が震えて思うように声が出なかった。
「……っ、な、なん……」
 なんですかと言いたいのにそれさえも言葉にならない。会いたかった。話しが聞きたかった。だけど目の前のディランの態度にノアの気持ちがぐちゃぐちゃになる。迷惑をかけたいわけじゃない。ルークやキアーラと接してディランのことも騙されてたわけではないのかもと希望が湧いたのだ。だけども目の前のディランの様子を見ると自分はやはり迷惑で、騙してからかう程度の存在なのだと思い知る。それならばもう会わずに騙されていたわけではないのかも……と僅かな希望を持ったままでいたかった。だって好きなのだ。優しい瞳が、穏やかな声がノアの名前を読んでくれるのが心地良くて、その優しい思い出を抱えていたかったのに。
「……もう、わかんない……っ」
 ぼろり、ノアの瞳から大きな涙が溢れた。歪む視界では皆の表情が見えなくて、だけども突然泣いたりして困らせてしまっただろう。周囲の様子が分からずとも部屋を流れる空気が穏やかなものではないことは理解できる。
「ごめ、ごめんなさい……」
 泣いてごめんなさいと、気にしないで下さいと必死に訴えるノアにルークとキアーラは視線を合わせた。
「ノアちゃん帰ろっか」
 キアーラの言葉にノアが腕で涙を拭いながら頷く。
「ルークが責任持ってお家まで送るから安心してね」
 こくり、もう一度頷いてディランの顔が見れずにそのまま俯く。
「……ノア」
 心配そうにノアの名前を呼ぶディランに、だけどもノアは目を合わせられなかった。
「……はい」
「ノアちゃん眠たいから今日はもうおしまいっ!!」
 だけども矢張り無視することは出来なくて俯いたまま返事をするも、キアーラの快活な声にかき消された。
「ディランもっ!」
 突然部屋にやってきて大きな声だされたら誰だって驚くでしょ? とキアーラはノアの肩をぎゅと抱き締める。
「良く寝て落ち着いたらもう一回お話ししよ?」
 小さな子供に言い聞かせる様な優しい声でノアの肩にキアーラは頭を寄せる。触れた部分が温かくて、キアーラの優しさにノアの気持ちも僅かながらも落ち着いてくる。
「昨日も夜更かししてるし、そんな状態じゃまとまる話もまとまらないでしょ」
 キアーラがルークにノアを渡そうとするのにディランが焦った様子で手を伸ばしたが、俯いたままのノアは気付かない。
「ルークちゃんとお家まで届けるんだよー」
「わかっている」
 ルークの腕がノアを抱えるようにしてまわされる。
「ノア」
「……はい」
 ルークの呼び掛けに掠れた声で返事をすると、ルークは頷いて「また誘ってもいいだろうか?」と言うのにノアは小さく頷いてから「あ、でも……」と言葉を濁す。
「なんだ?」
「あ……な、なんでもありません……」
 自分がどうしたいのかわからないまま返事をしてしまった。ディランはきっと自分がここにいるのが嫌なのだと知っているのにまた来る約束をするのは如何なものなのだろう。だけども考えるのも少しだけ疲れた。
「……また、ケーキ食べたいです」
 誤魔化すように言うとルークはわかったとだけ返事をした。
「ノア」
 ここに来てディランに名前を呼ばれるのは何度目だろうか。気持ちが落ち着いてきたかわりに段々と瞼が重くなってきているのを感じる。
「はい」
 今度は震えることなくちゃんと返事が出来た気がした。
「ケーキ、美味しかった?」
 ディランが以前と同じような、ノアの好きな声で問いかけるのにノアは素直に頷いた。
「また食べにおいで」
 ディランが何か言っている。だけども完全に瞼が降りてしまったノアはその言葉の意味を理解することは出来なくて、そのままルークの腕の中で眠りについていった。
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