21 / 32
真夜中の訪問者
しおりを挟む
「イーサンたちはいつまでここにいられるの?」
母が用意してくれた夕食を食べ、今日は家に泊まっていくというイーサンたち。
「明日の朝には出発するよ」
その言葉に淋しそうにするノアにイーサンは困った様に笑う。
「王都に戻る時にまた寄るから直ぐに会えるよ」
「直ぐってどのくらい?」
「ん~……七日程度かなぁ」
「わかった」
「そうだ縄結びとかはどう? ちゃんと練習してる?」
「してるよっ!」
大分上手くなったんだからねと胸を張るノアにイーサンはじゃあ腕前を見せて貰おうかなと、イーサンとノアは自室に、アイザックとアシェルは別室へとそれぞれ移動して夜を明かした。
翌朝ノアが起きるとイーサンは既に身支度を終えていて、ノアの視線に気付いたイーサンが「おはよう。まだ早いから寝ていて大丈夫だよ」と眠気の抜けないノアに小さく笑った。
「……もう……」
行くの? と寝ぼけ声のノアに「また直ぐ帰ってくるから」とその頬にキスをして、「いってきます」と部屋を後にした。
ぼんやりと窓に視線を移すと外はまだ暗い。こんなにも早く出発するのかと、ノアは改めてイーサンたちの調査というものの大変さを感じた。怪我をしないといいな、無事で帰ってきてくれることを願いなかまらノアは再び瞼を閉じて眠りについた。
次に目を覚ました時には太陽は何時もよりも高く、慌てて起きたノアに母は「夜更かししちゃった?」と笑った。
「イーサンたちは?」
「朝早く出発したわよ」
「……そっかぁ……」
いってらっしゃいくらい言いたかったなと一人呟くノアに母は「イーサンはノアに挨拶したって言ってたわよ?」と不思議そうにした。
「……あ、そうだ……」
そういえばとぼんやりとイーサンと話したことを思い出す。
「う~……でも寝ぼけてたし、ちゃんと言いたかったな……」
「それじゃあ次はそうしなさい」
「うん」
遅めの朝食をすまして父のもとへと向かい、いつもと同じ様に畑仕事を手伝う。いつもと変わらない日常をノアは黙々と過ごしていく。
「今日はやる気に満ちてるな」
どうしたんだ? と言う父にノアは「イーサンも頑張ってるからボクも頑張らないと」と誤魔化す様に笑った。
「そうだな。まさかイーサンがなぁ……」
父も昨日イーサンが調査隊であることを知ったのだ。きっとノアよりも複雑な気分だろう。
「ほらっ、早く終わらせちゃお?」
何やら考えて込みそうな父を促してノアも一心不乱に身体を動かした。でなければすぐディランのことを考えてしまいそうになるからだ。考えないようにしようとしても、そんな直ぐに忘れることも出来ない。
もう会えるか会えないかもわからない。きっと会えないのだろうけど、ノアはどうしてもそれが受け入れられなかった。魔物だと、騙されていてもできるならもう一度会いたい。この気持ちは変わらない。けれどもノアはどうやってディランに会えばいいのか分からなかった。
父の手伝いの後、ノアはこっそりディランの名前を呼んだ。当たり前だけどディランがノアの前に現れることはなく、ただそれが凄く悲しくて、やっぱり騙されていたのかなぁ……と、ノアは涙が込み上げてくるのを腕で擦って家へとゆっくり帰い、昼間いつも以上に働いた身体は昨日の出来事も相まってノアは早々に眠りについた。
ふと、意識が浮上する。
「……ん……」
暗く静まり返っている部屋はまだ夜を告げていて、ノアはごろりと寝返りを打ちもう一度眠ろうと瞼を閉じるもなかなか寝付けなかった。
疲れていたとはいえ寝るのが早すぎたのだろうか。もう一度寝返りを打とうとして、ノアの身体がぴたりと止まる。
「……っ」
何故だろう、誰もいない筈なのに人の気配を感じて動けなかった。どくどくと早鳴る心臓に背中に冷や汗が流れる。
ふいに風がノアの髪を揺らす。窓も扉も閉めている部屋で風が吹くなどおかしい。だがそれが確信に変わる。この部屋にはノア以外の誰かがいる。
ノアはどうしたらいいのだろうかと考える。もし強盗などとしたら両親が危ない。かといって自分自身一人で立ち向かえる程の強さもない。とりあえず寝たふりをして様子を伺おうとすると、人影が動いた。
「そこの子よ」
「っ、」
まさか声をかけられるとは思ってもおらず、ノアは混乱した。返事をすべきか、それとも寝たふりを続けた方がよいのか。
「起きているのだろう?」
バレてた。
ノアは観念して寝床から起き上がると侵入者の方を見たが、暗くて姿はよく見えなかった。
何が目的なのだろう。殺されるのかなと恐る恐る侵入者を窺う。
「確認だが……ノア、であってるな?」
まさか名前を知られているなど思ってもおらず、予想外の展開にノアは素直に頷いてしまった。
「あっ……」
何が目的かもわからないのに自分がノアだと認めてよかったのだろうか。しまったと思えども今更違うと言えるはずもなく。ノアはじっと侵入者の出方を窺う。
「ふむ……」
侵入者は何やらひとり納得した様子で「俺と来てもらおうか」とノアに近寄った。
母が用意してくれた夕食を食べ、今日は家に泊まっていくというイーサンたち。
「明日の朝には出発するよ」
その言葉に淋しそうにするノアにイーサンは困った様に笑う。
「王都に戻る時にまた寄るから直ぐに会えるよ」
「直ぐってどのくらい?」
「ん~……七日程度かなぁ」
「わかった」
「そうだ縄結びとかはどう? ちゃんと練習してる?」
「してるよっ!」
大分上手くなったんだからねと胸を張るノアにイーサンはじゃあ腕前を見せて貰おうかなと、イーサンとノアは自室に、アイザックとアシェルは別室へとそれぞれ移動して夜を明かした。
翌朝ノアが起きるとイーサンは既に身支度を終えていて、ノアの視線に気付いたイーサンが「おはよう。まだ早いから寝ていて大丈夫だよ」と眠気の抜けないノアに小さく笑った。
「……もう……」
行くの? と寝ぼけ声のノアに「また直ぐ帰ってくるから」とその頬にキスをして、「いってきます」と部屋を後にした。
ぼんやりと窓に視線を移すと外はまだ暗い。こんなにも早く出発するのかと、ノアは改めてイーサンたちの調査というものの大変さを感じた。怪我をしないといいな、無事で帰ってきてくれることを願いなかまらノアは再び瞼を閉じて眠りについた。
次に目を覚ました時には太陽は何時もよりも高く、慌てて起きたノアに母は「夜更かししちゃった?」と笑った。
「イーサンたちは?」
「朝早く出発したわよ」
「……そっかぁ……」
いってらっしゃいくらい言いたかったなと一人呟くノアに母は「イーサンはノアに挨拶したって言ってたわよ?」と不思議そうにした。
「……あ、そうだ……」
そういえばとぼんやりとイーサンと話したことを思い出す。
「う~……でも寝ぼけてたし、ちゃんと言いたかったな……」
「それじゃあ次はそうしなさい」
「うん」
遅めの朝食をすまして父のもとへと向かい、いつもと同じ様に畑仕事を手伝う。いつもと変わらない日常をノアは黙々と過ごしていく。
「今日はやる気に満ちてるな」
どうしたんだ? と言う父にノアは「イーサンも頑張ってるからボクも頑張らないと」と誤魔化す様に笑った。
「そうだな。まさかイーサンがなぁ……」
父も昨日イーサンが調査隊であることを知ったのだ。きっとノアよりも複雑な気分だろう。
「ほらっ、早く終わらせちゃお?」
何やら考えて込みそうな父を促してノアも一心不乱に身体を動かした。でなければすぐディランのことを考えてしまいそうになるからだ。考えないようにしようとしても、そんな直ぐに忘れることも出来ない。
もう会えるか会えないかもわからない。きっと会えないのだろうけど、ノアはどうしてもそれが受け入れられなかった。魔物だと、騙されていてもできるならもう一度会いたい。この気持ちは変わらない。けれどもノアはどうやってディランに会えばいいのか分からなかった。
父の手伝いの後、ノアはこっそりディランの名前を呼んだ。当たり前だけどディランがノアの前に現れることはなく、ただそれが凄く悲しくて、やっぱり騙されていたのかなぁ……と、ノアは涙が込み上げてくるのを腕で擦って家へとゆっくり帰い、昼間いつも以上に働いた身体は昨日の出来事も相まってノアは早々に眠りについた。
ふと、意識が浮上する。
「……ん……」
暗く静まり返っている部屋はまだ夜を告げていて、ノアはごろりと寝返りを打ちもう一度眠ろうと瞼を閉じるもなかなか寝付けなかった。
疲れていたとはいえ寝るのが早すぎたのだろうか。もう一度寝返りを打とうとして、ノアの身体がぴたりと止まる。
「……っ」
何故だろう、誰もいない筈なのに人の気配を感じて動けなかった。どくどくと早鳴る心臓に背中に冷や汗が流れる。
ふいに風がノアの髪を揺らす。窓も扉も閉めている部屋で風が吹くなどおかしい。だがそれが確信に変わる。この部屋にはノア以外の誰かがいる。
ノアはどうしたらいいのだろうかと考える。もし強盗などとしたら両親が危ない。かといって自分自身一人で立ち向かえる程の強さもない。とりあえず寝たふりをして様子を伺おうとすると、人影が動いた。
「そこの子よ」
「っ、」
まさか声をかけられるとは思ってもおらず、ノアは混乱した。返事をすべきか、それとも寝たふりを続けた方がよいのか。
「起きているのだろう?」
バレてた。
ノアは観念して寝床から起き上がると侵入者の方を見たが、暗くて姿はよく見えなかった。
何が目的なのだろう。殺されるのかなと恐る恐る侵入者を窺う。
「確認だが……ノア、であってるな?」
まさか名前を知られているなど思ってもおらず、予想外の展開にノアは素直に頷いてしまった。
「あっ……」
何が目的かもわからないのに自分がノアだと認めてよかったのだろうか。しまったと思えども今更違うと言えるはずもなく。ノアはじっと侵入者の出方を窺う。
「ふむ……」
侵入者は何やらひとり納得した様子で「俺と来てもらおうか」とノアに近寄った。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします
muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。
非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。
両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。
そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。
非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。
※全年齢向け作品です。
記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで
橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。
婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、
不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。
---
記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘!
次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。
---
記憶は戻りますが、パッピーエンドです!
⚠︎固定カプです
【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい
白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。
村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。
攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…
えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。
三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています
倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。
今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。
そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。
ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。
エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる