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真夜中の訪問者

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「イーサンたちはいつまでここにいられるの?」
 母が用意してくれた夕食を食べ、今日は家に泊まっていくというイーサンたち。
「明日の朝には出発するよ」
 その言葉に淋しそうにするノアにイーサンは困った様に笑う。
「王都に戻る時にまた寄るから直ぐに会えるよ」
「直ぐってどのくらい?」
「ん~……七日程度かなぁ」
「わかった」
「そうだ縄結びとかはどう? ちゃんと練習してる?」
「してるよっ!」
 大分上手くなったんだからねと胸を張るノアにイーサンはじゃあ腕前を見せて貰おうかなと、イーサンとノアは自室に、アイザックとアシェルは別室へとそれぞれ移動して夜を明かした。
 翌朝ノアが起きるとイーサンは既に身支度を終えていて、ノアの視線に気付いたイーサンが「おはよう。まだ早いから寝ていて大丈夫だよ」と眠気の抜けないノアに小さく笑った。
「……もう……」
 行くの? と寝ぼけ声のノアに「また直ぐ帰ってくるから」とその頬にキスをして、「いってきます」と部屋を後にした。
 ぼんやりと窓に視線を移すと外はまだ暗い。こんなにも早く出発するのかと、ノアは改めてイーサンたちの調査というものの大変さを感じた。怪我をしないといいな、無事で帰ってきてくれることを願いなかまらノアは再び瞼を閉じて眠りについた。
 次に目を覚ました時には太陽は何時もよりも高く、慌てて起きたノアに母は「夜更かししちゃった?」と笑った。
「イーサンたちは?」
「朝早く出発したわよ」
「……そっかぁ……」
 いってらっしゃいくらい言いたかったなと一人呟くノアに母は「イーサンはノアに挨拶したって言ってたわよ?」と不思議そうにした。
「……あ、そうだ……」
 そういえばとぼんやりとイーサンと話したことを思い出す。
「う~……でも寝ぼけてたし、ちゃんと言いたかったな……」
「それじゃあ次はそうしなさい」
「うん」
 遅めの朝食をすまして父のもとへと向かい、いつもと同じ様に畑仕事を手伝う。いつもと変わらない日常をノアは黙々と過ごしていく。
「今日はやる気に満ちてるな」
 どうしたんだ? と言う父にノアは「イーサンも頑張ってるからボクも頑張らないと」と誤魔化す様に笑った。
「そうだな。まさかイーサンがなぁ……」
 父も昨日イーサンが調査隊であることを知ったのだ。きっとノアよりも複雑な気分だろう。
「ほらっ、早く終わらせちゃお?」
 何やら考えて込みそうな父を促してノアも一心不乱に身体を動かした。でなければすぐディランのことを考えてしまいそうになるからだ。考えないようにしようとしても、そんな直ぐに忘れることも出来ない。
 もう会えるか会えないかもわからない。きっと会えないのだろうけど、ノアはどうしてもそれが受け入れられなかった。魔物だと、騙されていてもできるならもう一度会いたい。この気持ちは変わらない。けれどもノアはどうやってディランに会えばいいのか分からなかった。
 父の手伝いの後、ノアはこっそりディランの名前を呼んだ。当たり前だけどディランがノアの前に現れることはなく、ただそれが凄く悲しくて、やっぱり騙されていたのかなぁ……と、ノアは涙が込み上げてくるのを腕で擦って家へとゆっくり帰い、昼間いつも以上に働いた身体は昨日の出来事も相まってノアは早々に眠りについた。
 ふと、意識が浮上する。
「……ん……」
 暗く静まり返っている部屋はまだ夜を告げていて、ノアはごろりと寝返りを打ちもう一度眠ろうと瞼を閉じるもなかなか寝付けなかった。
 疲れていたとはいえ寝るのが早すぎたのだろうか。もう一度寝返りを打とうとして、ノアの身体がぴたりと止まる。
「……っ」
 何故だろう、誰もいない筈なのに人の気配を感じて動けなかった。どくどくと早鳴る心臓に背中に冷や汗が流れる。
 ふいに風がノアの髪を揺らす。窓も扉も閉めている部屋で風が吹くなどおかしい。だがそれが確信に変わる。この部屋にはノア以外の誰かがいる。
 ノアはどうしたらいいのだろうかと考える。もし強盗などとしたら両親が危ない。かといって自分自身一人で立ち向かえる程の強さもない。とりあえず寝たふりをして様子を伺おうとすると、人影が動いた。
「そこの子よ」
「っ、」
 まさか声をかけられるとは思ってもおらず、ノアは混乱した。返事をすべきか、それとも寝たふりを続けた方がよいのか。
「起きているのだろう?」
 バレてた。
 ノアは観念して寝床から起き上がると侵入者の方を見たが、暗くて姿はよく見えなかった。
 何が目的なのだろう。殺されるのかなと恐る恐る侵入者を窺う。
「確認だが……ノア、であってるな?」
 まさか名前を知られているなど思ってもおらず、予想外の展開にノアは素直に頷いてしまった。
「あっ……」
 何が目的かもわからないのに自分がノアだと認めてよかったのだろうか。しまったと思えども今更違うと言えるはずもなく。ノアはじっと侵入者の出方を窺う。
「ふむ……」
 侵入者は何やらひとり納得した様子で「俺と来てもらおうか」とノアに近寄った。
 
 
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