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再会3

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「そんなに頷いてどうしたの? 全然名前を呼んでくれないから来ちゃった」
 後ろから包み込むように抱き締められてノアの身体が固まる。
「え?」
「ノアは俺に会いたくなかった?」
 ぎゅうと抱え込まれながら頭に馴染みのある頬が押し付けられ、予想だにしない展開に頭が真っ白になる。え、自分はいつの間に名前を呼んでしまったのだろうか。会いたいがゆえに無意識に言ってしまったのだろうか。イーサンが帰って来てからにしようと考えていたはずなのになんでっ!? とノアは突然のディランの登場に混乱した。
「ノア?」
 大丈夫? と頭上から覗き込む様にされるとディランの整った顔が目前にきて「ひあっ!?」と驚きで大きな声を出してしまった。
「ほ、ほほ、ほんものっ!?」
 ごめんっ、ボク無意識で名前呼んじゃったっ!? と慌てるノアにディランは一瞬驚いた表情を浮かべてから笑い出した。
「あはは、ちがうよノア」
 俺が会いたくて来たんだよとノアを抱き締めたまま、「一度顔を見たら我慢できなくなっちゃった」と柔らかい声で囁かれてノアの頬が赤く染まる。ディランの時折見せる甘ったるい声や態度にノアはどういう反応を返してよいのかわからない。ただ、顔を見られなくてよかったと少しだけほっとしていると、「耳が真っ赤だよ」なんて耳元で囁かれた。
「っ!?」
「だぁめ」
 ディランの視線から隠す様に両耳を押さえるもあっさりと手をとられてしまう。
「顔も見たいなぁ」
 喜色を含んだ声にノアは「絶対にダメっ!」と下を向いて抵抗するも、両手を押さえていた手が解放されたかと思うとくるり、軽々と身体を反転させられてディランと向き合う形になる。
「え?」
「残念でした」
 ノアは一瞬のことにディランを見上げると、口許を隠しながらこちらを見下ろして笑っている姿が映る。
「……い、いじわるだっ!!」
「いや、ほんと……」
 それじゃあ逆効果だよと、顔を真っ赤にして怒りを露にして「見ないでって言ったのにっ!」と訴えているノアにディランは笑いが止まらない。
「ごめんごめん」
 でも見たかったからと悪いなんて一切思っていない態度でノアの頭を撫でるのに誤魔化されないぞとディランを睨み付ける。
「いや、そんな顔で睨まれても」
 ディランは笑いながら我慢できなくなっちゃうからダメだよと、よくわからないことを言ってノアを宥める。
「じゃあ我慢しなきゃいいじゃんっ」
 笑いたければ思いっきり笑えばいいだろうと、売り言葉に買い言葉をして眉をつり上げるノアにディランは困ったように笑いながら「びっくりして泣いちゃうかもしれないからやめとくね」とまたしてもよくわからないことを言う。
「なにそれ……」
 誤魔化されないぞと睨み続けてみてもディランはただ笑うだけで段々と毒気が抜かれていく。
「……もういいや」
 怒っているのが馬鹿らしくなってきたノアにディランもにっこりと笑った。
「ノアはここが好きなの?」
 この間もこの場所にいたよねと聞かれて頷いた。
「最近村にいてもあんまり楽しくないからさ……」
「そうなの?」
「うん……」
 ここ最近の報せを思い出してノアの表情が暗くなる。ウーラノス国、というよりは魔物に襲われたという話しばかりが上がってくる状況にノアは馴染めなかった。
「あ、そうだっ!」
「ん?」
 せっかくディランに会えたのだ、イーサンが一時とはいえ帰ってくるのだと伝えるとディランはよかったねとノアの頭を優しく撫でた。
「お兄さん帰ってくるのずっと待ってたもんね」
「うんっ」
「お兄さんもノアに会えるの楽しみなんじゃないかな」
「そうだと嬉しいなぁ」
 嬉しさを隠すことなく話すノアに「こんな弟がいたら可愛くて仕方無いだろうね」と言うのに照れ臭そうに笑って返した。
「そうだ、ノアが名前呼んでくれるのずっと待ってたのにどうして呼んでくれなかったの?」
 待ってたんだよと言うディランにノアはぱちりと大きく瞬きをした。
「え、だって……」
 ノアはディランが忙しそうなこと、数日前に会ったばかりですぐに呼んでしまっては迷惑ではないかと考えていたことを話すとディランは眉を寄せてノアの額を小突いた。
「会いたくなったら呼んでって言ったよ?」
 遠慮なんてしないでと、こちらのことを考えてくれるノアの優しさも嬉しいけどさぁ……とこぼすディランにノアはごめんと謝る。
「いや、謝って欲しいわけじゃないよ?」
「でも……」
「謝らないでよ。それよりも今度から会いたくなったら我慢しないで呼んで」
「……うん」
「ほんとに呼べる?」
「たぶん……」
「多分ねぇ……」
 ディランは顎を擦りながらノアを見下ろす。
「俺のことを考えてくれるのは勿論嬉しいよ。だけどそれよりもノアに会いたいって名前を呼んでもらった方が何倍も嬉しいし……」
 ディランは少しだけ屈むと内緒話をするようにノアの耳許に唇を寄せ、「おじいちゃんの面倒事から抜け出せるしね」と言うと悪戯っ子のような笑みでノアを見た。
「俺を助けると思っていっぱい呼んでよ」
 予想外のディランの言葉にノアは思わず吹き出してしまう。
「いいの?」
「勿論。一日にニ回でも三回でも」
「それは流石にないかなぁ」
 くすくすと笑うノアにディランは「ちゃんと呼んでね」と念を押すと、ノアは少し躊躇いながらも口を開いた。
「…じゃあ……明日とか……」
 呼んでもいいの……? と小さな声で窺うとディランはにっこり笑って「待ってるね」とノアの頬にキスをして、「じゃあまた明日ね」とノアの反応を待たずに鳥の様に一瞬で姿を消して行く。
「へ?」
 残されたノアはキスをされた頬を押さえたまま、呆然とそこに立ち尽くした。

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