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最終決戦 ①
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夜が明ける。ヴァンパイアチームはそろそろ眠りに入る時刻だ。
俺は布団の中で、今夜、白神がどんな方法で「人払い」をするのかに思いを巡らせる。
白神は誰も傷つけることなく人払いをすると言っていたが、本当だろうか?
俺は、それが本当のような気がしていた。
白神の積年の目的を果たす時が目の前に迫っている。ここで、嘘をつくことにメリットは何もない。
眠れない俺は、白神の起こした事件の一つ一つを考えはじめる。悪事を働き、金を貯め、人間とヴァンパイアを反目させ、そうまでして、祖母を取り戻したかったのか、、、。
奴の望みはただ一つ、祖母の安芸の復活それだけなのだろう。
祖母は、そんなの絶対に嫌だと俺に言った。白神の思いはここに来ても一方通行な事を考えると少し白神が気の毒になる。
白神は、祖母が死んでからその為だけに生きて来た。この世の終焉も、祖母の為に必要な環境を整えることが目的なのかもしれない。
もし、どんな環境でも祖母が生きていけるのであれば、あるいは俺を使って祖母を蘇らせて、どこかでひっそりと暮らしたのかもしれない。そうだったら、どんなに良かったか、、、。
結局、眠れなかった俺は、シャワーを浴びることにした。
白神と会ってから彼の悪意が全身にまとわりついているような気がしたからだ。
シャワーを浴びるとだいぶさっぱりした気分になった。そのまま何か食べ物を探しに台所へ行く。
そこでは里美さんと、結女さんが、眷属メンバーの為に朝食を作っている最中だった。
「あら、一宇さん。寝なくって大丈夫なの?」
里美さんがそう言って優しく微笑みかける。
「ははは、なんかお腹が減っちゃって、、。」
俺は嘘をついた。
「それなら、ちょうどご飯が炊けたところだからおにぎりでも作りましょうね。」
そう言って里美さんがおにぎりを作りはじめる。
俺は、宗助所長と高木さんが話していたことを思い出して、里美さんに聞いてみる。
「あの。白神剣護って、今何歳なんですか?」
「彼なら、今の私とそう変わらない年のはずよ。彼は、ヴァンパイアだから私より見た目はずっと若いでしょうけどね。剣護さんの年齢がどうかしたの?」
俺は、昨夜の宗助所長と高木さんの会話を里美さんに話して聞かせた。
「それは、宗助様の言うことが正しいわね。いくら人間より見た目が若いって言っても、中年くらいの見た目にはなってるはずですよ。」
里美さんがそう言って笑った。
「それなら、、私に心当たりがあります。」
そう言ったのは、俺たちの会話を聞いていた結女さんだった。
「ちょっと、ここお願いしていいですか?」
そう言って、結女さんが台所から出て行く。
俺は、里美さんの作ったおにぎりと出された味噌汁を食べながら、結女さんの帰りを待った。
20分ほどで結女さんが戻って来る。
「ごめんなさい。家に誰もいないから探すのに手間取ってしまって。」
結女さんがすまなそうにそう言いながら、一冊の古い本を食堂のテーブルの上に置いた。
「結女さん、これは?」
「これは、白神家に伝わる本なんですが、この中に不老に関する禁術が書かれてあるんです。先代様、剣護様のお父さんが、私に話してくれたことがあったんです。当時、先代様は剣護様に当主の座を譲ったばかりでした。その時に、納戸の整理を手伝っていた私に「結女は女性だから年は取りたくないか?」と仰って、この白神家に伝わる禁術のお話をしたんです。私がその術を使ったら旦那様もまだまだお仕事ができたんじゃありませんか?って申し上げたら、誰でも老いて行くのは自然な事で悲しい事でも何でもないって。それにこの術を使うのは良くないことだとも言ってました。」
「良くないって、どんな風によくないんですか?」
「ごめんなさい。ずいぶんと昔の話だし、私も不老には全く興味がなかったから、、、。憶えてないんです。」
「その本、見ても良いですか?」
「守人様なら見ても問題ないと思います。」
俺は急いで本を開いてみる。
駄目だ、、、、。
筆書きのウネウネした文字、、。なにが書いてあるのかさっぱりわからない。
「ですよね。白神家にある本は、そんなのばっかりですから。」
そう言って結女さんが笑った。
「一宇様、何がお知りになりたいんですか?私、少しなら読めますけど。」
「それなら、その術の方法と、術を解除する方法。あと、その術がヴァンパイアに与える影響も出来れば知りたいです。」
「まさか、一宇様。不老にご興味があるんですか?」
「無いですよ~、おれ。ただでも童顔で子供っぽく見られることが多いから、早く大人の男の顔になりたいって思ってるくらいなんですから。」
「わかりました。それなら。」
そう言って結女さんは、古い本をぱらぱらとめくり読み始める。10分ほど本に目を通していた結女さんが、ようやく口を開く。
「読めないところもあるので、正確とはいいがたいんですが。」
そう前置きして、結女さんが話しだした。
身体を不老の状態にするには、人間の血液とヴァンパイアの血液を墨に混ぜたインクで刺青を入れることだと結女さんは言った。結女さんは、本に描かれた不思議な模様のマークを指さしこの模様を体に彫るらしいですよ。っと言った。
そして、体に与える悪影響はほぼ無い。ただし、その模様が一部でも消えたり、欠けたりした場合は、その時点から老化が進み始めると書いてあると言った。
ということは、もし白神の身体にその模様を見つけたら、それに傷をつければ彼は、老化して動きが鈍くなるかもしれない、、、。
でも、それは、白神を倒す有効手段になるとは思えなかった。年を取ったとしても白神はまだまだ動ける年齢な事に変わりはない。中年の白神もきっと強いだろう。
「なにか参考になりましたか?」
結女さんが俺に訊ねる。
「ものすごく参考になりました!」
俺は、また嘘をつく。
「一宇さん。何か食べたいものはありませんか?」
食堂を出ようとする俺に里美さんが聞いた。
「あ、なら。俺。ナポリタンが食べたいです。ちょっと麺が伸び気味のやつ。」
里美さんは、あっ、という顔をして「任せてください。それなら昔、お手本になる美味しいのを食べたことがありますから。」と言った。彼女はじいさんの勝也と食べたナポリタンを憶えていたらしい。
俺は布団の中で、今夜、白神がどんな方法で「人払い」をするのかに思いを巡らせる。
白神は誰も傷つけることなく人払いをすると言っていたが、本当だろうか?
俺は、それが本当のような気がしていた。
白神の積年の目的を果たす時が目の前に迫っている。ここで、嘘をつくことにメリットは何もない。
眠れない俺は、白神の起こした事件の一つ一つを考えはじめる。悪事を働き、金を貯め、人間とヴァンパイアを反目させ、そうまでして、祖母を取り戻したかったのか、、、。
奴の望みはただ一つ、祖母の安芸の復活それだけなのだろう。
祖母は、そんなの絶対に嫌だと俺に言った。白神の思いはここに来ても一方通行な事を考えると少し白神が気の毒になる。
白神は、祖母が死んでからその為だけに生きて来た。この世の終焉も、祖母の為に必要な環境を整えることが目的なのかもしれない。
もし、どんな環境でも祖母が生きていけるのであれば、あるいは俺を使って祖母を蘇らせて、どこかでひっそりと暮らしたのかもしれない。そうだったら、どんなに良かったか、、、。
結局、眠れなかった俺は、シャワーを浴びることにした。
白神と会ってから彼の悪意が全身にまとわりついているような気がしたからだ。
シャワーを浴びるとだいぶさっぱりした気分になった。そのまま何か食べ物を探しに台所へ行く。
そこでは里美さんと、結女さんが、眷属メンバーの為に朝食を作っている最中だった。
「あら、一宇さん。寝なくって大丈夫なの?」
里美さんがそう言って優しく微笑みかける。
「ははは、なんかお腹が減っちゃって、、。」
俺は嘘をついた。
「それなら、ちょうどご飯が炊けたところだからおにぎりでも作りましょうね。」
そう言って里美さんがおにぎりを作りはじめる。
俺は、宗助所長と高木さんが話していたことを思い出して、里美さんに聞いてみる。
「あの。白神剣護って、今何歳なんですか?」
「彼なら、今の私とそう変わらない年のはずよ。彼は、ヴァンパイアだから私より見た目はずっと若いでしょうけどね。剣護さんの年齢がどうかしたの?」
俺は、昨夜の宗助所長と高木さんの会話を里美さんに話して聞かせた。
「それは、宗助様の言うことが正しいわね。いくら人間より見た目が若いって言っても、中年くらいの見た目にはなってるはずですよ。」
里美さんがそう言って笑った。
「それなら、、私に心当たりがあります。」
そう言ったのは、俺たちの会話を聞いていた結女さんだった。
「ちょっと、ここお願いしていいですか?」
そう言って、結女さんが台所から出て行く。
俺は、里美さんの作ったおにぎりと出された味噌汁を食べながら、結女さんの帰りを待った。
20分ほどで結女さんが戻って来る。
「ごめんなさい。家に誰もいないから探すのに手間取ってしまって。」
結女さんがすまなそうにそう言いながら、一冊の古い本を食堂のテーブルの上に置いた。
「結女さん、これは?」
「これは、白神家に伝わる本なんですが、この中に不老に関する禁術が書かれてあるんです。先代様、剣護様のお父さんが、私に話してくれたことがあったんです。当時、先代様は剣護様に当主の座を譲ったばかりでした。その時に、納戸の整理を手伝っていた私に「結女は女性だから年は取りたくないか?」と仰って、この白神家に伝わる禁術のお話をしたんです。私がその術を使ったら旦那様もまだまだお仕事ができたんじゃありませんか?って申し上げたら、誰でも老いて行くのは自然な事で悲しい事でも何でもないって。それにこの術を使うのは良くないことだとも言ってました。」
「良くないって、どんな風によくないんですか?」
「ごめんなさい。ずいぶんと昔の話だし、私も不老には全く興味がなかったから、、、。憶えてないんです。」
「その本、見ても良いですか?」
「守人様なら見ても問題ないと思います。」
俺は急いで本を開いてみる。
駄目だ、、、、。
筆書きのウネウネした文字、、。なにが書いてあるのかさっぱりわからない。
「ですよね。白神家にある本は、そんなのばっかりですから。」
そう言って結女さんが笑った。
「一宇様、何がお知りになりたいんですか?私、少しなら読めますけど。」
「それなら、その術の方法と、術を解除する方法。あと、その術がヴァンパイアに与える影響も出来れば知りたいです。」
「まさか、一宇様。不老にご興味があるんですか?」
「無いですよ~、おれ。ただでも童顔で子供っぽく見られることが多いから、早く大人の男の顔になりたいって思ってるくらいなんですから。」
「わかりました。それなら。」
そう言って結女さんは、古い本をぱらぱらとめくり読み始める。10分ほど本に目を通していた結女さんが、ようやく口を開く。
「読めないところもあるので、正確とはいいがたいんですが。」
そう前置きして、結女さんが話しだした。
身体を不老の状態にするには、人間の血液とヴァンパイアの血液を墨に混ぜたインクで刺青を入れることだと結女さんは言った。結女さんは、本に描かれた不思議な模様のマークを指さしこの模様を体に彫るらしいですよ。っと言った。
そして、体に与える悪影響はほぼ無い。ただし、その模様が一部でも消えたり、欠けたりした場合は、その時点から老化が進み始めると書いてあると言った。
ということは、もし白神の身体にその模様を見つけたら、それに傷をつければ彼は、老化して動きが鈍くなるかもしれない、、、。
でも、それは、白神を倒す有効手段になるとは思えなかった。年を取ったとしても白神はまだまだ動ける年齢な事に変わりはない。中年の白神もきっと強いだろう。
「なにか参考になりましたか?」
結女さんが俺に訊ねる。
「ものすごく参考になりました!」
俺は、また嘘をつく。
「一宇さん。何か食べたいものはありませんか?」
食堂を出ようとする俺に里美さんが聞いた。
「あ、なら。俺。ナポリタンが食べたいです。ちょっと麺が伸び気味のやつ。」
里美さんは、あっ、という顔をして「任せてください。それなら昔、お手本になる美味しいのを食べたことがありますから。」と言った。彼女はじいさんの勝也と食べたナポリタンを憶えていたらしい。
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