上 下
147 / 166

敵の次の一手 ⑥

しおりを挟む
俺たちは、本堂で全員が顔をそろえた。
本の内容を、安芸の言葉を聞いていたアヤメが説明する。

「宗助ちゃんの頭じゃこの本を読むのに時間がかかるだろうって安芸さん言ってたわ。」
アヤメが無神経な事を言う。

「はははは、ひどいなぁ。本当に安芸姉ちゃんがそう言ったの?」

「そう言ったわけじゃないけど、まぁ。そんな事よ。」

「俺も、安芸姉ちゃんに会いたかったな。」

「安芸さんが、宗助ちゃんと平助ちゃんにヨロシクって言ってたわ。」

「そうすると、本田さんが安全ならこの洞窟は大丈夫ってことですよね。本田さんをどこか安全な場所に匿えば良いってことですよね。」
杉山さんが話を本題に戻す。

「安全な場所って、裁判所を襲撃する奴らだからな。安全な場所っていったいどこなんだろう。」
山田さんがそう言った。

「アタシは、本田君はここにいるのがいいと思いますがね。現在のところ市内で一番警備が厳重な場所はここですからね。それに、一般人が退去しているので、万が一のことがあっても彼らに危害が及びませんからね。」

「ここに籠城するってことですか?」

「まぁ、とりあえずそうなるでしょうね。でも、この厳戒態勢をいつまでも続けるわけにはいかないでしょう。本田君、ゆずちゃん、アヤメをここに残して、ヴァンパイアポリスのメンバーはいったん市内に戻って白神とトキオの追跡を行いましょう。」

「でも、そしたらここの警備が手薄になるんじゃ、、、。」
高木さんが懸念を口にする。

「そうですね。もう1チーム残しますか。どのチームにしましょう、、、。」
宗助さんがそう言うと。

「私たちが残ります、」
そう言って、いつもは控えめな常盤さんが手をあげる。

「おいおい、サキ、、突然そんな、、。」
これにはそこに居た誰もが驚いた。一番驚いていたのは類だった。

「赤目さん。それで良いですか?」

「良いも何もなにも、、。僕が一宇を守る!」
これで、東門地区には、俺とアヤメ。類と常盤さん。それにゆずが残りあとはヴァンパイアポリスに帰還することになった。
自衛隊に関しては、このままここにいてもらう。帰還するチームは、また1週間後ここに集まって捜査状況を話し合うことが決まり。
帰還するチームは今夜のうちにここを立つことが決まった。

男部屋が一気に寂しくなった。

「やっとこの田舎からおさらばできるぜ~。良かったよ、ノエルが常盤さんみたいにここに残るって言い出さなくってさ。赤目は気の毒したな。」
稲葉がここを去る前にそんなことを言った。稲葉はここの生活がよほど苦痛だったのだろう。

「いいんだよ~。僕は、一宇がいるならここに残るつもりだったからさっ。まぁ、先があんな風に自己主張したのには驚いたけど、、、。」
類も常盤さんがああいい出したのには類も驚いているらしいが、類がここに残ることを嫌がっていないことに俺は安堵していた。

これで、男部屋の住人は、俺と類と宗助所長の3人になった、
宗助所長の提案で、俺たちはもう少し狭い部屋に移動することになった。

今度の部屋はおよそ8畳ほどの広さで3人が寝泊まりするには十分な広さだと言える。

俺が窓の脇に布団を敷くと、その脇にすかさず類が布団を敷く。
「この前は、宗助さんに一宇の脇とられちゃったからさ。」
そう言って笑う。

部屋を出て歯磨きに向かう途中、里美さんが「お部屋のお引越しは済みましたか?」
と声を掛けて来た。俺は祖母ちゃんから里美さんに伝言があったのを思い出す。

「里美さん。俺、今日、東門で祖母ちゃんと会いました。」

「まぁ。安芸様と。」
里美さんの顔がほころぶ。

「里美さんに伝言があります。こっちで幸せに長生きするようにって。祖母ちゃんはあっちで待っているからって。」

「まぁまぁ、安芸様がそんなことを、、、。」
里美さんは本当にうれしそうだった。

「そんなこと言われたら、がんばって長生きしなくちゃねぇ。一宇さんの子どもをこの手に抱いて、あちらに行くときのお土産話にしなくちゃ。」

「そ、そんな、お、俺は、彼女もいないんですよ。 」

「あら。隠してもダメよ。アヤメさんは彼女なんでしょ?」

「違いますよ~。アヤメは俺の主なんですから。里美さんも祖母ちゃんの眷属だったからわかるでしょ。」

「眷属と主が付き合っちゃ駄目って法律はないのよ。まだ彼女じゃないんなら、頑張んなさい。あの子は一宇さんとお似合いだわ。」
里美さんは、そう言って俺の背中を叩く。
実際に祖母が居たら彼女のように孫の彼女を気にするんだろうか???

女子部屋もアヤメと常盤さん、それにゆずのが3人になった。一番賑やかなノエルが帰ったからあちらも寂しくなっただろう。杉山さんは、、、もともと静かだからな。あまり痛手はないか、、。

俺はこの先、どうしたらいいんだろう。俺が無事なら洞窟は無事って、、。理屈はわかる。でも、俺に万が一のことがあったら日本が終わりってことか、、、。
責任重大だ。里美さんに言われたからじゃないが、せっかく生まれていたのに彼女もいないまま死ぬなんて、、、悲しすぎる、、、。

何とかこの難局を乗り切って幸せをつかむんだ!

「そんなところでこぶしを握り締めて何やってんのよ。」
アヤメが突然、後ろから現れる。

「なんだよビックリしたなぁ。」

「そっちはどお?男部屋はすっかり寂しくなったよ。」

「うーん。こっちはゆずもいるし、あんまり変わらないかなぁ。」

「あの、、、。あやめ。ごめんな、さっき祖母ちゃんが変なこと言っちゃって。」

「変な事って何よ。」

「あ、あ、あの。俺の彼女が見たいから、お前を呼び出したって、、、。」

「あ~。別に気にしてないわ。祖母として、孫が眷属をやってたら主が気になって当然でしょ。」

アヤメの方が理性的だった。俺が考え過ぎなのか、、、。
それもこれもプロフェットの木村さんが言った「爺さんとの最後の約束」のせいだ。おまけに祖母ちゃんからもじいさんからの伝言として「約束悪れるなよ!」と言われたことが追い打ちをかけていた。
あ~。考えすぎ、考えすぎ!まずは、自分の身の安全を考えよう。他の事はこの難局を乗り切ってから考えよう。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

深海の星空

柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」  ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。  少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。 やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。 世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

ハッピークリスマス !  非公開にしていましたが再upしました。           2024.12.1

設樂理沙
青春
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が この先もずっと続いていけぱいいのに……。 ――――――――――――――――――――――― |松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳 |堂本海(どうもとかい)  ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ) 中学の同級生 |渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳 |石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳 |大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?     ――― 2024.12.1 再々公開 ―――― 💍 イラストはOBAKERON様 有償画像

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

処理中です...