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ヘイトクライム(憎悪犯罪)の親玉 ⑩

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アヤメの号令に付き従い、俺たちは電気自動車に乗って夜の街に繰り出した。

「アヤメ。参るぞってどこに行くつもりなんだ?」

「大野のマンションよ。」

「大野のマンション?場所は分かるのか?」

「当り前よ。ヴァン共反会の親玉のマンション位、ヴァンパイアポリスが把握してないわけないでしょ。」

「でも、自宅に帰ってたらどうやって呼び出すんだ?」

「その必要はないと思うわ。あのじじいは仕事の後、必ず国分町のクラブで酒を飲んでから、深夜に帰宅するんだもん。」

ヴァンパイアポリスでは、ヴァン反協会の親玉である大野弁護士の行動について以前からリサーチしていたのかもしれない。

「それじゃ、沢口牧師の事も調べてるのか?」
俺はあの温和な沢口牧師の事が気になって聞いてみた。

「一応はね。今日みんなの話を聞いて納得したんだけど。牧師の方はヴァン共反会の活動もほとんどしてないみたいだし、ボランティア活動や福祉活動に熱心ってことくらいで、ヴァン共反会を立ち上げた人にしては、あまりにも好人物だからおかしいなって思っていたのよ。それと、もう一つ。ヴァン共反会を立ち上げてから、大野は弁護士としての活動をほとんどしていないのに、やたらと金回りが良くって、それもおかしいって思ってたのよね。」

ヴァンパイアポリスも沢口牧師について、ある程度把握はしていたようだ。

車は、古くからドクターズマンション街と呼ばれている、高級マンションが立ち並ぶ地域にやって来た。そのエリアの中でも、ひときわ新しく、高いマンションの上層階に大野弁護士の自宅があるらしい。

「でも、ここ最新のマンションだろどうやって潜り込むつもりなんだ?」

「潜り込む必要なんかないじゃない。私の考えがあるから任せて。」
そう言うとアヤメは俺を運転席から助手席に追いやって、運転席に乗り込み、何かを企んでいるような、それでいて可愛らしい笑顔を見せる。

俺たちがここに到着して約2時間。時刻は深夜1時をまわった。後ろの席で、敦と山田さんが居眠りを始めている。アヤメは、自分でセレクトしたと言う時代劇のCDを聞きながらご機嫌だ。

「あやめ、大野弁護士、もう今日は帰ってきて寝てるんじゃないか?」

「それはないわよ。あのじじい、最近、クラブのお姉ちゃんにハマってるみたいで、毎晩午前様なんだから。」

「そんなことまで調べてんのかよ。」

「一応ね。でも、一宇たちが調べに行かなかったら、今回の事は、わからなかったと思う。」

「あ、帰って来た。白い高級車が角を曲がって、マンションの路地に入ってくる。

「山田さん、敦、起きて!ちょっと派手に行くわよ。」

「な、なんだ。」
山田さんと、敦が目を覚ます。アヤメは、車を発進させ、大野弁護士の車の脇のギリギリを、、、。

ドンッ。ガシャンッ。
ものすごい音と共に、車に衝撃が走る。

ギリギリではなかった、、、。大野弁護士の高級電気自動車と、俺たちの乗ったコンパクト電気自動車は、バックミラーをみごと擦っていたようで、俺たちの車のバックミラーが車体から無残に剥がれ落ちていた。

「こらっ、お前なんて運転をしているんだ!」
怒鳴り声を上げながら、大野弁護士が車から降りてくる。彼の車も無事ではないだろう。

「やった!成功!本当は真正面からドカンと行きたかったんだけど、それだと自動ブレーキシステムが働くからしかたないわね。」
そう言ってアヤメが車から出ていく。俺はすぐにアヤメの後を追った。
続けて、山田さんも車ら下りてくる。敦は、寝ぼけていた上に突然何が起こったのか分からず、口を開けたまま後部座席で唖然としていた。

「あら、おじさま。ごめんなさい。うっかりしてて。」
相手が若い女の子だとわかると、大野の怒りは一気にトーンダウンしたようだ。

「待ってて下さい、今から警察と保険屋さんに連絡しますから。」
警察と聞いて、大野が慌てはじめる。飲酒運転だから当然か。

「待って、お嬢さん。警察なんか呼んだら君の運転免許なくなっちゃうよ。おじさんは弁護士だから、話し合いで解決しよう。車の修理代だけ出してくれたらそれでいいよ。お互いに怪我もなかったみたいだし。」

「ほんとに?それでいいんですか?おじさまありがとう。」
アヤメがそう言いながら大野に抱きついた。

次の瞬間。大野は膝からがっくりと崩れ落ちる。

「一宇。あんた大野の車をそこの空き地に大野の車を停めて来て。山田さんと敦は、そのじじいをトランクに入れて。」

(!!!!!)

「アヤメ。何を、、。」

「早く。人に見られる前に!一宇はこれを。」
そう言ってアヤメは俺にゴムの貼ってある軍手を投げてよこす。

俺は仕方なく軍手をはめて、大野の車に乗り近くの空き地まで運転して大野の車を駐車する。
マズイ。本当にマズイことになった。こんなことがバレたら、アヤメも、俺も、山田さんも、敦だってただでは済まない。

大野の車から降りると、アヤメの運転する車がすぐ傍で待っていた。

俺は、不安でいっぱいになりながら、助手席に飛び乗る。

「さぁ。皆様。参りましょうか。」

アヤメは自動運転ナビに、新たなる目的地をセットする。

「目的地をセットしました。目的地、ヴァンパイア裁判所、所要時間は20分です。」
ナビの電子音が、お気楽に目的地を告げる。
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