眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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彼女の行方 ③

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その夜、斎藤さんとの約束を果たすために、俺たちは動き出した。

まずは、ノエルがカードに書かれた武藤と言う男に電話を掛ける。連絡用には以前、コソ泥から押収したスマホを使用した。

「もしもし。あの~、私。この前知り合った、石野美幸って娘の紹介で、割のいいバイトがあるって聞いたんだけど。」

電話が切られた。

「あれ、何にも言わないで、切れちゃったよ。もしかして、バレちゃったぁ?」

ノエルが、不思議そうにスマホを振りながら杉山さんを見る。
次の瞬間、着信がある。

「着信:非通知」


「もしもし。、さん?ちょっとぉ、失礼だよ~。私の電話切ったくせに、非通知で電話してくるって、マジありえないんだけど。」

「すみませんね。最近トラブル続きで、知らない人の電話は用心の為にかけなおすことにしているんですよ。それと、私の名前はタケフジとかいてムトウと読みます。」

スピーカーから聞こえる男の声は声の30代から40代くらいだろうか、落ち着いた大人の男の声に聞こえる。もしかすると、こいつが美幸から「トダ」と呼ばれていた男かも知れない。

「そう言うのって、ちょっとムカつくけど、割のいいバイトを紹介してくれる人だから、今回は許すよ。ムトウさんね、了解でーす。それで、そのバイトって何?私にもできるの?」

ノエルはいい感じで話を進めていく。

「まって、まって。一応面接させてくれるかな。確認だけど、君はヴァンパイアなんだよね。」

「そうだけど、じゃ。合格?」

「ずいぶん焦ってるようだね、お金が必要なのかな?」

「この世に、お金が必要じゃない人なんかいるぅ?必要も必要。すごくお金が必要でーす。」

「じゃ、明日。面接と仕事の内容の説明をするから、どこかで会えるかな?」

(奴がのってきた。)

「もちろん。いいけど、どこで面接するの?」

「君の家はどこ?迎えに行くよ。」

「明日は彼とデートだから、町にいるんだよね。町まで迎えに来て。」

「わかったよ。じゃ、一番町の東洋ホテルの角に10時でどおかな?」

「OK。じゃ10時に東洋ホテルの角だね。私、赤と黒のワンピース着て行くよ。デートのために買ったんだ。」

「わかった。私の車は、黒のレグザスだから。」

(レグザス、高級車だ。トダの高級車で送ってもらったと、ヒミカは言っていた。)

「レグザス。超高い車じゃん。楽しみにしてるよ。」

ノエルの活躍で、待ち合わせまで、うまくこぎつけた。

俺たちは、急ぎ、明日の作戦を立てることになった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日。ノエルは自前のワンピースで職場に現れた。

「ちょっとそのワンピース、やり過ぎじゃないのか?」

彼女が来ているワンピースは、赤と黒のストライプ。胸元が大きく開き、たわわな胸が今にも、こぼれ落ちそうだ。

「ええ、一宇こういうの好きでしょ。赤くなってマジ可愛いんだから。」
ノエルが、俺の背中に胸を押し付ける。

「あら、下品なワンピースね。ノエルにぴったり。」
アヤメが嫌味を言う。

「ごめんねぇ。このワンピースは、着る人を選ぶんだよ。特にこの辺がね。」
ノエルが、胸元で手をひらひらさせる。

「なんですってぇ。」

「ケンカはやめてください。これから最終の打ち合わせをします。」

杉山さんからストップがかかり二人はほかの全員が待つテーブルついた。

「今回の任務は、事件の全貌も不確かで、出たとこ勝負の感が否めませんが、仕方ないでしょう。結城さんと武藤の後をつけて彼らのやっている事が合法か否かを判断します。もしかすると、今回の作戦、全てが徒労に終わる可能性もありますが。」

「いいじゃ~ん。ここで書類整理したり、事件を待つより、ず~っといいよ。」

ノエルらしい意見だ。

「今回の追跡には、覆面の車両の他に、バイクも使うことになりました。本田さんは、今から刑部さんについて行って車両の確認をして来てください。」

そう言われて俺は、アヤメについてロビー脇の車両用のガレージに向かう。
ガレージでは、一台のバイクが俺を待っていた。

「おおおおおお。ヤマハ・FJR1300じゃん。これって、最後のガソリン車の白バイだろ。動くのか?」

「動くわよ。白バイじゃ目立ってしょうがないから、カラーリングも市販のものと同じにしてあるのよ。」

「でも、これが走ってたら目立つと思うけど。」

「大丈夫よ、どうせ、夜でライトしか見えないわよ。それに、最近は懐古趣味って言うのかしら、電機バイクでもボディだけ昔のバイクそっくりに作られたものが人気なんだって。」

「ふーん。でも中身が電機バイクって、味気ないよな。」

「まぁ、エンジンかけて、その辺、試運転でもしてみたら。」

アヤメに言われ俺は、バイクのエンジンを掛ける。重厚なエンジン音がガレージ内に響き渡る。

「おお、いいねぇ。」

時計を見る。「8:50」

「エンジンの調子もいいみたいだし。事務所に戻ろうか。」

俺たちが事務所に戻ると、事務所前は戦い前の緊張に包まれていた。

その中に例外が一人だけ。

「一宇~。なんかみんなピリピリして、こわくな~い?」

「仕方ないよ。これから本番だし。ノエルは怖くないのか?」

「全然、怖くないよ~。だって、みんなが一緒だもん。ノエルはここの仲間の事、信じちゃってるからねぇ。それに、ノエルってあんまり第一線で活躍するタイプじゃないじゃん。頭は、杉山ちゃんほど良くないし、アヤメみたいに強くないし。でも、今回はノエルが頑張らないとじゃん。張りきっちゃって夕べは眠れなかったんだから~。」

「ノエルって、いろいろ考えてたんだな。」

「ああ、一宇。ひっどーい。」

「ノエル。お前はここには必要な人材だと思う。」

「えええ。マジそんな事言われたことないよ~。なに、なに?」

「そいうところ。今もみんなピリピリしてるけど、お前ってさ。なんか、こんな時も同じなんだよなぁ。気が抜けるって言うか。お前ってここのムードメーカーなんだよ。」

「一宇、、、。一宇って、マジわかってる~。ノエル。マジで嬉しいよぉ。ノエル、ここの仲間を大切に思ってるんだよ。みんなの役に立ちたいなぁって。」

そして、
「一宇がいるから、今日も大船に乗って行ってくるよ!」
と恥ずかしがりながら付け加えた。

時刻が迫る。ノエルは、彼氏役の稲葉の車で、杉山さんペア、高木ペア、俺とアヤメがバイクで追走する。

平日の街は、車も少なく絶好の追跡日和ついせきびよりに思われた。


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