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家族の秘密 ③
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「一宇様。どうされましたか?」
刑部家の食堂で、高梨さんが俺に尋ねる。
「一宇のお母さんが家に来てるのよ。お母さんに眷属になったことや、ヴァンパイアポリスで働いてることを秘密にしてて、それがバレて家に帰るのが怖いんだって。」
アヤメが高梨さんに告げ口した。
「おやおや。お母様がいらしてるんですか。それなら早くお帰りにならないと。今日は、バターたっぷりのマドレーヌを焼きましたから、お土産に持っていってくださいね。」
そう言ってマドレーヌを袋に詰めだした。
「高梨さん。追い出さないでくださいよ~。」
「一宇様のご家族の話は聞いたことがありませんでしたね。お聞きしたいところですが、お母様がいらしてるなら、今晩はお帰りください。」
高梨さんは取りつく島もなくそう言った。これはあきらめて帰るしかないパターンだ。
帰り道。高梨さんが言った、「家族」について考えた。
家族と言っても、父は俺が中学の頃に亡くなった。バイク屋だった、父方のじいちゃんもばあちゃんも無くなっている。母親の親せきが秋田に住んでるけど、付き合いはほぼない。
俺の身近な家族と言ったら、母しかいない。
アパートに戻る。部屋の電気がついているということは、母はまだいるということだ。
「ただいま。」
「お帰り~。おつかれさん。今、いいところだから、ちょっと待っててね。」
母は俺の顔も見ないでそう言った。
「ひとぉーつ。人の生き血をすすり。ふたーつ。不埒な悪行三昧_。三つ醜い浮世の鬼を退治てくれよう。金太郎!」
母が夢中で見ていたのは、アヤメが貸してくれた時代劇のDVD「金太郎侍」だった。
「ああ~。面白かった。あんたにこんな趣味があったなんてね。」
「ああ、それ俺のじゃないよ。アヤメが貸してくれたんだ。」
「へぇ~。あのかわいらしいお嬢さんが、今どき珍しいわよね。あら、手に持ってるの何?いい匂いがするんだけど。」
「これはアヤメの家で働いてる、執事の高梨さんが焼いたマドレーヌだよ。母さんに持って行けって。」
「嬉しい。ちょうどお腹がすいてたのよね。あんたコーヒーかなんか淹れなさいよ。」
俺は母から言われ、コーヒーを淹れてテーブルで母と一緒にマドレーヌを食べ始める。
「なにこれ。美味しい!」
「高梨さんは料理が趣味で、何でも作れて、しかも全部うまいんだ。」
「なるほどねぇ。それで謎が解けた。」
「謎ってなに?」
「あんたの事だから、一人暮らしでろくなもの食べてないだろうから、ガリガリに痩せてると思ってたのよね。でも、雑誌見たら顔色もいいし、ふっくらと健康的な感じだし。おかしいな~と思ってたのよ。」
確かに、刑部家に行くようになってから、体重も増えたし体調も良い。
「それで?」
母がマドレーヌを口に入れながら俺を見る。
「それでってなんだよ。」
「なんだよじゃないわよ。眷属になったのも、ヴァンパイアポリスで働いてるのも、バレちゃったんだから、全部話しなさいよ。」
「全部ってなんだよ。」
「あの、アヤメさんって女の子に惚れちゃった?それで眷属になったの?」
「違うよ!!!」
俺はむきになって答える。そして、眷属になった経緯をかいつまんで、母に説明した。
「母はなくとも子は育つよね~。ダメ息子が、いつの間にか大人になって自分の手で自分の人生を切り開いて行ってるんだから。それで。なんで黙ってたの?眷属になったことや、ヴァンパイアポリスで働いてることを。」
母がいきなり核心に切り込んできた。
「い、いや~、別に隠してたわけじゃないよ。お袋にはタイミングをみて、話そうと思ってたんだよ、たまたまだよ。たまたま。」
「たまたまねぇ~。」
母は不満そうに言った。
「あんたが、眷属になったのは、父さんのせいかと思って焦ったわよ。」
「父さんのせいってなんだよ。」
「あっ。口が滑った。忘れて忘れて。」
「なんだよ。何か隠してるのか?」
「隠してる訳じゃないわよ。ただ言ってないことがあるだけで、、、。でも、あんたも自分で生活してるわけだし。その仕事が眷属なら、今が話す潮時かもね。」
「なんだよ。おふくろ、早く言えよ。」
嫌な予感がする。母は時々ビックリすることを隠したりしているからだ。
「結論から言うと、あんたの父さん。ヴァンパイアなのよ。」
(!!!!!!!)
「ええと、違うか。ヴァンパイアと人間のハーフか。あんたのお祖母ちゃん。あんたが生まれる前に亡くなった、彼女がヴァンパイアだったのよ。まぁ、結婚当時は私も知らなかったんだけど。」
「マジかよ、、、。でも、ヴァンパイア同士の結婚でも子供を作るのって難しいんだろ。人間とヴァンパイアの間で子どもなんか作れんのか?」
「当時は、ヴァンパイアの間でも騒ぎになったらしいわよ。あんたの父さん、”奇跡の子”って呼ばれてたらしいわ。戦争後、ヴァンパイアと人間のカップルも増えたけど、子どもが出来たって話は聞かないから、人間とヴァンパイアに子供が出来たって、本当に奇跡だったのかもしれないわね。」
「じゃ、俺はヴァンパイアとのクウォーターってこと?」
「そうなるわね。」
「なんで今まで隠してたんだよ。」
「別に、隠してたわけじゃないわ。一宇にはタイミングをみて、話そうと思ってたのよ、たまたまよ。たまたま。」
おふくろは、ついさっき、俺が眷属やヴァンパイアポリスをことを隠していた言い訳の言葉をコピーして言った。彼女にはこんな茶目っ気がある。
「一宇を妊娠した時、みんな喜んでね。特に父さんが。子どもは出来ないと思ってたって。それで、自分がヴァンパイアと、人間のハーフだって私に打ち明けたのよ。」
「それで?母さんは、そんな重大な事を隠してた父さんを怒らなかったの?」
「怒る必要が何かある?自分が彼を愛して結婚したのよ。それに、彼と結婚したことは、当時も今も後悔してないし。でも、それを聞いていろいろと納得できた。私は彼がポルフィリン症(※日光に当たると重篤な症状の出る病気)の患者だと思い込んでいたんだけど、それにしては、おかしなこともあったからね。私、看護師でしょ。彼が処方されていた薬は漢方薬だったけど、聞いたことのない薬も多かったから。」
母は続ける。
「それで、あんたが生まれて。しばらくは太陽にあてないように注意してたのよ。でも、半年後くらいかしらね。すごいお天気が良くって。私、あんたを連れて、えいやって外に出てみたのよ。」
「ひでーな。俺が火傷したらどうするつもりだったんだよ。」
「そん時はそん時と思ってね。そしたら、あんた、お日様に手を伸ばしてニコニコ笑ってね。ああ、良かった~って。お父さんなんか泣いて喜んでたわ。」
「俺には、お袋とじいちゃんの、人の中でも特にガサツな人間の濃ぃ血が入ってたからじゃねぇの。」
「ひっどーい。でも。そうかもね。それで、あんたは離乳食ももりもり食べ始めたし。お父さんと相談して普通の子供として育てようってことになったわけ、」
重い内容の話なのに、母が話すとそうでもない話のように聞こえる。生まれてきて良かったとすら思えた。
「父さんから、あんたに手紙があるのよ。この事を話したらあんたに渡してくれって。」
「見せてよ。」
「持ってきてないわよ。こんな事になるなんて、思ってなかったもの。」
「大体、一宇。お父さんの仏壇に最後に手を合わせたのいつよ。この親不孝者!次のお休みに一度帰ってらっしゃい。手紙はその時読めばいいわ。それと、この「金太郎侍」のDVD借りることが出来ないか、アヤメさんに聞いてみて。面白いから全部見たいわ。」
「わかったよ。」
(時代劇好きって、やっぱりアヤメとお袋は似ているかも、、、。)
俺はそんなことを考えながら、頭の片隅で、この間プロフェット(預言者)と呼ばれる占い師の爺さんが言っていたことを思い出していた。
刑部家の食堂で、高梨さんが俺に尋ねる。
「一宇のお母さんが家に来てるのよ。お母さんに眷属になったことや、ヴァンパイアポリスで働いてることを秘密にしてて、それがバレて家に帰るのが怖いんだって。」
アヤメが高梨さんに告げ口した。
「おやおや。お母様がいらしてるんですか。それなら早くお帰りにならないと。今日は、バターたっぷりのマドレーヌを焼きましたから、お土産に持っていってくださいね。」
そう言ってマドレーヌを袋に詰めだした。
「高梨さん。追い出さないでくださいよ~。」
「一宇様のご家族の話は聞いたことがありませんでしたね。お聞きしたいところですが、お母様がいらしてるなら、今晩はお帰りください。」
高梨さんは取りつく島もなくそう言った。これはあきらめて帰るしかないパターンだ。
帰り道。高梨さんが言った、「家族」について考えた。
家族と言っても、父は俺が中学の頃に亡くなった。バイク屋だった、父方のじいちゃんもばあちゃんも無くなっている。母親の親せきが秋田に住んでるけど、付き合いはほぼない。
俺の身近な家族と言ったら、母しかいない。
アパートに戻る。部屋の電気がついているということは、母はまだいるということだ。
「ただいま。」
「お帰り~。おつかれさん。今、いいところだから、ちょっと待っててね。」
母は俺の顔も見ないでそう言った。
「ひとぉーつ。人の生き血をすすり。ふたーつ。不埒な悪行三昧_。三つ醜い浮世の鬼を退治てくれよう。金太郎!」
母が夢中で見ていたのは、アヤメが貸してくれた時代劇のDVD「金太郎侍」だった。
「ああ~。面白かった。あんたにこんな趣味があったなんてね。」
「ああ、それ俺のじゃないよ。アヤメが貸してくれたんだ。」
「へぇ~。あのかわいらしいお嬢さんが、今どき珍しいわよね。あら、手に持ってるの何?いい匂いがするんだけど。」
「これはアヤメの家で働いてる、執事の高梨さんが焼いたマドレーヌだよ。母さんに持って行けって。」
「嬉しい。ちょうどお腹がすいてたのよね。あんたコーヒーかなんか淹れなさいよ。」
俺は母から言われ、コーヒーを淹れてテーブルで母と一緒にマドレーヌを食べ始める。
「なにこれ。美味しい!」
「高梨さんは料理が趣味で、何でも作れて、しかも全部うまいんだ。」
「なるほどねぇ。それで謎が解けた。」
「謎ってなに?」
「あんたの事だから、一人暮らしでろくなもの食べてないだろうから、ガリガリに痩せてると思ってたのよね。でも、雑誌見たら顔色もいいし、ふっくらと健康的な感じだし。おかしいな~と思ってたのよ。」
確かに、刑部家に行くようになってから、体重も増えたし体調も良い。
「それで?」
母がマドレーヌを口に入れながら俺を見る。
「それでってなんだよ。」
「なんだよじゃないわよ。眷属になったのも、ヴァンパイアポリスで働いてるのも、バレちゃったんだから、全部話しなさいよ。」
「全部ってなんだよ。」
「あの、アヤメさんって女の子に惚れちゃった?それで眷属になったの?」
「違うよ!!!」
俺はむきになって答える。そして、眷属になった経緯をかいつまんで、母に説明した。
「母はなくとも子は育つよね~。ダメ息子が、いつの間にか大人になって自分の手で自分の人生を切り開いて行ってるんだから。それで。なんで黙ってたの?眷属になったことや、ヴァンパイアポリスで働いてることを。」
母がいきなり核心に切り込んできた。
「い、いや~、別に隠してたわけじゃないよ。お袋にはタイミングをみて、話そうと思ってたんだよ、たまたまだよ。たまたま。」
「たまたまねぇ~。」
母は不満そうに言った。
「あんたが、眷属になったのは、父さんのせいかと思って焦ったわよ。」
「父さんのせいってなんだよ。」
「あっ。口が滑った。忘れて忘れて。」
「なんだよ。何か隠してるのか?」
「隠してる訳じゃないわよ。ただ言ってないことがあるだけで、、、。でも、あんたも自分で生活してるわけだし。その仕事が眷属なら、今が話す潮時かもね。」
「なんだよ。おふくろ、早く言えよ。」
嫌な予感がする。母は時々ビックリすることを隠したりしているからだ。
「結論から言うと、あんたの父さん。ヴァンパイアなのよ。」
(!!!!!!!)
「ええと、違うか。ヴァンパイアと人間のハーフか。あんたのお祖母ちゃん。あんたが生まれる前に亡くなった、彼女がヴァンパイアだったのよ。まぁ、結婚当時は私も知らなかったんだけど。」
「マジかよ、、、。でも、ヴァンパイア同士の結婚でも子供を作るのって難しいんだろ。人間とヴァンパイアの間で子どもなんか作れんのか?」
「当時は、ヴァンパイアの間でも騒ぎになったらしいわよ。あんたの父さん、”奇跡の子”って呼ばれてたらしいわ。戦争後、ヴァンパイアと人間のカップルも増えたけど、子どもが出来たって話は聞かないから、人間とヴァンパイアに子供が出来たって、本当に奇跡だったのかもしれないわね。」
「じゃ、俺はヴァンパイアとのクウォーターってこと?」
「そうなるわね。」
「なんで今まで隠してたんだよ。」
「別に、隠してたわけじゃないわ。一宇にはタイミングをみて、話そうと思ってたのよ、たまたまよ。たまたま。」
おふくろは、ついさっき、俺が眷属やヴァンパイアポリスをことを隠していた言い訳の言葉をコピーして言った。彼女にはこんな茶目っ気がある。
「一宇を妊娠した時、みんな喜んでね。特に父さんが。子どもは出来ないと思ってたって。それで、自分がヴァンパイアと、人間のハーフだって私に打ち明けたのよ。」
「それで?母さんは、そんな重大な事を隠してた父さんを怒らなかったの?」
「怒る必要が何かある?自分が彼を愛して結婚したのよ。それに、彼と結婚したことは、当時も今も後悔してないし。でも、それを聞いていろいろと納得できた。私は彼がポルフィリン症(※日光に当たると重篤な症状の出る病気)の患者だと思い込んでいたんだけど、それにしては、おかしなこともあったからね。私、看護師でしょ。彼が処方されていた薬は漢方薬だったけど、聞いたことのない薬も多かったから。」
母は続ける。
「それで、あんたが生まれて。しばらくは太陽にあてないように注意してたのよ。でも、半年後くらいかしらね。すごいお天気が良くって。私、あんたを連れて、えいやって外に出てみたのよ。」
「ひでーな。俺が火傷したらどうするつもりだったんだよ。」
「そん時はそん時と思ってね。そしたら、あんた、お日様に手を伸ばしてニコニコ笑ってね。ああ、良かった~って。お父さんなんか泣いて喜んでたわ。」
「俺には、お袋とじいちゃんの、人の中でも特にガサツな人間の濃ぃ血が入ってたからじゃねぇの。」
「ひっどーい。でも。そうかもね。それで、あんたは離乳食ももりもり食べ始めたし。お父さんと相談して普通の子供として育てようってことになったわけ、」
重い内容の話なのに、母が話すとそうでもない話のように聞こえる。生まれてきて良かったとすら思えた。
「父さんから、あんたに手紙があるのよ。この事を話したらあんたに渡してくれって。」
「見せてよ。」
「持ってきてないわよ。こんな事になるなんて、思ってなかったもの。」
「大体、一宇。お父さんの仏壇に最後に手を合わせたのいつよ。この親不孝者!次のお休みに一度帰ってらっしゃい。手紙はその時読めばいいわ。それと、この「金太郎侍」のDVD借りることが出来ないか、アヤメさんに聞いてみて。面白いから全部見たいわ。」
「わかったよ。」
(時代劇好きって、やっぱりアヤメとお袋は似ているかも、、、。)
俺はそんなことを考えながら、頭の片隅で、この間プロフェット(預言者)と呼ばれる占い師の爺さんが言っていたことを思い出していた。
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