眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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ヴァンパイア裁判所 ①

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コスモスグループの蔵王工場で強制就労させられていたヴァンパイア市民は、ヴァンパイアマフィアVMが、無許可で経営していた金融会社から、高利で金を借り返済が滞っていた人と、人血中毒で人血欲しさに働いていた人であることが判明した。

金を借りていたヴァンパイア労働者は、体力が回復した者から解放された。人血中毒の者は、人血中毒の症状が改善されるまで、秋保あきう地区にある中毒患者更生施設に送られることが決定した。

ただ、コスモスEXの材料調達のために、監禁されていた未成年のヴァンパイアについては、何もわかっていない。彼らの首には、ヴァンパイアに噛まれヴァンパイアになった傷跡があり、元は人間だったと思われる。
ただし、100名ほどいた未成年の身元は、今だに一人も分かっていない。ヴァンパイア登録されている市民の名簿にも、日本の警察から提供された、未成年の行方不明者、家出人のリストにも、該当する者は一人もいなかった。

彼らは、ヴァンパイア社会にも、人間社会にも書類上は「存在しない若者たち」だった。

代表の我妻聡は何も語らず、この未成年たちの身元の解明を困難にしている。
我妻聡の取り調べを断念したヴァンパイアポリスは彼の身柄を、裁判所に送ることを決定した。

「取り調べ断念って、日本の警察ではありえないですよね。」
俺は高木班長に疑問をぶつけてみる。

「それは、君たちの司法とヴァンパイアのそれとは根本的に違うからだよ。日本の警察官とヴァンパイアポリスの仕事に関してはそれほど差異はないよ。防犯や、犯罪者を捕まえるってことだね。日本の警察は犯罪者を捕まえたら原則は48時間、警察で取り調べをして、検察庁に身柄を移す。裁判を仕切るのは、警察ではなく検察。裁判も被疑者サイドの弁護士と、検察官がお互いの持っている情報を開示して、裁判員、裁判官か被疑者が犯罪を犯したか、犯しているなら罪の重さはどのくらいかを判断して。判決が出る。って簡単に言えば、こんな流れだね。」

「へぇ。知りませんでした。結構、面倒なんですね。」

「そうだね、しかも、証拠が足りないとか、裁判で勝てないと判断されると、限りなく黒に近いグレーであっても不起訴になったりするんだよ。」

「一方、ヴァンパイアポリスには、検察庁にあたる組織は存在しない。存在しないというか、必要ないんだ。ヴァンパイアポリスが逮捕した被疑者は、直で裁判所に送られてそのまま裁判官一人による、裁判を受ける。それで犯罪の有無や、罪の重さが判断される。ヴァンパイアポリスで調べるより、裁判官の調べのほうが正確だし、犯罪者が秘密にしている過去の犯罪なんかも暴かれてしまうんだ。だから、裁判官の調べで新たな事件が発覚して、捜査が行われることもある。今回の我妻聡のように黙秘しても、裁判官の調べで結局は犯罪がばれてしまうんだ。」

「それって、”第三の目”って言うので調べるんですよね?」

「おや、本田君、知ってたのか。そうだよ。ヴァンパイアは”第三の目”の能力を持つ裁判官によって罪の有無や大きさを判断している。」

「それって、間違いはないんですか?無実の者が犯罪者になるとか、、。」

「無い!と思う。」

「君たち人間からしてみたら、そんな神がかりな事で罪の有無を決められたら、たまらないって思うのかもしれないね。でも、僕の知る限りでは、人間の司法制度よりも正確だと思う。だから、今回も、我妻をここで取り調べるより、裁判官に調べてもらった方が手っ取り早いんだ。」

「でも、第三の目を持つ裁判官って一人なんですよね?」

「そうだね、今の裁判官は、君のあるじの刑部君のお兄さんだ。」

「アヤメのお兄さんってどんな人なんですか?」

「ん?君はまだ彼に会ったことがないのか?ははははは。そうか、そうか。」

「はい。なんかお忙しい人みたいで。刑部家にも来たことがないんです。」

「仕方ないよな。なんせ、ヴァンパイア裁判所のたった一人の裁判官なんだから。忙しいと思う。でも、ここに勤めてたら、イヤでも会うことになるから。ははは。でもな。」

高木班長は、気になる言い方をした。
しかも、アヤメの兄、刑部司と会うチャンスは、本当に、その直後にやって来た。





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