色欲の王

狂気

決闘の翌日。
時刻は正午を過ぎた頃。

一人の青年が人気のない路地裏に来ていた。
人目を気にするようにそわそわとしている。
また、包帯が巻かれた不自然に短い右腕を押さえて、余裕のない焦ったような目をしている。

青年がそこに到着して十分ほど。
静閑な路地裏に2つの足音が聞こえてきた。
青年が振り返ると1組の男女が歩いてきていた。

小柄な可愛らしい女とやや大柄の男。
2人の歩幅や歩みのリズムはほぼ同じで、共に歩き慣れているのがよくわかる。
しかしその様子は対照的だった。

女は俯いていて表情がわからない。
それに対して男はにやにやと嫌らしい笑みを浮かべており、青年を見下すようにしていた。

一歩前に出た男が口を開く。



「よぉ、ノトラ。調子はどうだ？」

「アーシュ君……」

笑いを我慢しているように発せられたアーシュの言葉に、ノトラは声を震わせながら睨みつける。
その震えは怒りでもあり恐れでもあった。

「そんな怖い顔すんなよ。また虐めたくなっちまうじゃねぇか。」

ニヤついた口元はそのままに、強い視線がノトラに向けられる。
ノトラは本能的な恐怖から一歩後ずさった。

「くっ……」

思わず引いてしまった自分への情けなさに顔を歪める。

「ふっ………それより、傷は大丈夫か？普通に歩けてるって事は、足の方は治ったみてぇだな。」

アーシュは嘲笑しつつ話す。

「右腕は流石に駄目だったか。まぁ、完全に切断された腕をくっつけられる魔術師なんて滅多にいねぇからな。恨むなら俺やギルドじゃなくて、雑魚のくせに調子に乗った自分の浅はかさを恨むんだな……くくっ…」

「…………」

「もう冒険者は廃業か？利き腕がそれじゃ、もう今まで通りには剣を振れねぇだろうしなぁ。この女のヒモにでもなるか？こいつの回復魔術があれば食っていく分には困らねぇだろうよ。」

「…………トアさんは無事なのか。」

ノトラはアーシュの挑発に乗らない。
一刻も早くアーシュの前から離れたいと考えているのが丸わかりだった。



「………はっ、つまんねぇ奴。」

アーシュは白けた目でノトラを見た後、後ろにいたトアの腕を掴んで引っ張った。

「ほら、その目で確かめろよ。昨夜は随分愉しませてもらったから疲れてるみたいだが、傷はつけてねぇぜ。」

そのままトアの背中を軽く突き飛ばし、トアがノトラの方にふらふらと歩み寄る。

「トアさん！」

「ノトラ…さん……」

ノトラが走り寄り、片腕でトアを強く抱き寄せる。
トアも自ら体を寄せて抱き返す。

「トアさん…ごめん……僕が…僕が弱いせいで………」

ノトラは涙を流しながら、彼女の首元に顔を埋める。
トアは慰めるようにノトラの頭を撫でた。

「良いの……大丈夫だから……私は、大丈夫だから………だから…………」

「でも…でも君は………」

「本当に大丈夫だから………ノトラさんのお陰で、本当に大切なモノが…わかったから。」

「え？」

「私、気づいちゃったの。本当の自分に。」

「トア……さん…？」

ノトラは顔を離してトアを見る。
彼女の頬はほんのり赤くなっており、瞳は悩ましく潤んでいた。
しかし、その瞳はノトラを見ているようで、他のものに向けられているようであった。





得体の知れない寒気を感じて後ずさろうとするノトラ。
しかし、トアが離れようとする彼を抱き寄せた。
花が咲いたように可憐に笑う。



そして。










「ごめんね？」










「………え？」










突如として襲いかかった鋭い痛み。
そして圧倒的な恐怖。
右腕を失ったあの瞬間以上の恐怖を、ノトラは痛みよりも先に本能的に感じていた。

トアがふらふらと離れ、ノトラは己の体を見下ろす。
男・にとって、ある意味では片腕よりも大事だといえるソ・レ・に、一本のナイフが刺さっていた。















「………ん……ここ、は…？」

ノトラはギシギシと何かが軋むような音に目を覚ました。
全身に締め付けられるような痛みがはしり、咄嗟に体を動かそうとするが動かせない。
彼はそこで、自分が衣服を身につけておらず、おまけに椅子に座らされロープで拘束されている事に気付いた。

「な、なんだこれ…！？」

「……ん？…あぁ、ようやくお目覚めか。」

素っ頓狂な声を上げたノトラに、男の声がかかる。
彼がその声に反応して前を見ると、そこには信じがたい光景が広がっていた。


「あ……あぁ………」


ノトラがこれ以上ないほどに目を見開く。
揺れる瞳の見詰める先では、1組の男女が全裸で抱き合っていた。

ノトラからは女の顔は見えないが、その背中はとても見覚えのあるものだった。
小柄で綺麗な背中が、リズミカルに跳ねている。

「あっ…ん、んぅ……あっ……」

呆然とするノトラの耳に悩ましい喘ぎ声が届いた。
そんなノトラを、女の肩越しに覗いている男……アーシュが、彼を嘲笑いながら口を開いた。


「よぉノトラ。調子はどうだ？」

「な、な、なん…で……なにが………え…？」

「しっかりしろよ色男。……おいトア、一回どけ。そいつと話せねぇ。」

「あ…んっ……あっ……」

アーシュが自分の腰に跨って体を揺すっているトアに声をかけるが、彼女は喘いでばかりで反応しない。

「こら、人の話を聞け！」

「んひぃ！」

アーシュがトアの尻を両手で叩くと、彼女は恍惚とした表情で動きを止めた。

「あ、あ…アーシュ……君…？」

「トア、一度離れろ。そいつが起きたみてぇだ。」

アーシュに退かされたトアが、気怠げに後ろを振り返る。
そして呆然と彼女を見ているノトラを見て、顔をぱっと明るくさせた。


「あ！ノトラさん、目が覚めたんだね！」

「と、トア……さん？」

「ごめんね、刺しちゃって。痛かったでしょ？でも大丈夫だよ！ちゃんと治しておいてあげたから！」

「刺し…？………っ！？」

自分がトアに何をされたか思い出し、慌てて見下ろす。
そこには傷一つないそれがあった。
彼は安堵の溜息を零す。

「良かったな、ノトラ。ズタズタなままじゃなくて安心しただろ？くくくっ……」

「………この状況は何だ？」

「見りゃわかんだろ。俺とトアのイチャラブタイムだ。お前には色々と世話になったからな。見物させてやろうと思って、招待してやったんだ。」

「もう、アーシュ君ったら！イチャラブタイムなんて♡」

トアが頬を染めて体をくねらせる。
その光景を、ノトラは信じられないものを見るような目で見ていた。



「な、なにが……トアさん、一体どうしてしまったんだ！？」

「私ね…昨日、アーシュ君にいっぱい犯されちゃったの♡アーシュ君のぶっといおちんぽで私のおまんこいーっぱい気持ちよくしてもらっちゃった♡」

「なっ………」

「アーシュ君のおちんぽとーっても気持ちよすぎて、私…頭おかしくなっちゃったの。ごめんね、ノトラさん。もうノトラさんの激弱ちんぽじゃ満足できないの。アーシュ君にいっぱいべろちゅーしてもらって、いっぱいガン突きふぁっくして、いっぱい中出ししてもらうの♡」

恍惚とした表情で話すトアに、ノトラは何も言えず愕然としている。

「特等席で見せてやるよ。」

「じゃあ、始めるね！そこで見ててね、ノトラさん♡」

ノトラの目の前でアーシュとトアは再度抱き合い、唇を貪り合った。