上 下
43 / 92
第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]

Log.39 zombie apocalypse

しおりを挟む

 「なんで俺、美頼になってんの!?」

 いつも出してる声とは違い、甲高い声が出る。体も多分俺より10㎏以上軽い。その場で跳ねてみると、ブラジャーに覆われた胸がわずかに弾む感触がある。少し、いや、かなり複雑な気持ちになる。

 「なんか驚きすぎてゾンビなんかどうでもよくなってる自分が……」

 独り言をつぶやく。

 美頼とは腐っても幼馴染だ。小さい頃からなんの恥じらいもなく接し接され、異性としての距離感もゼロと言っても過言ではない。今更こいつの体に対して変な気は起きないはず……。いや、起こしてたまるか。

 「まあ、でもちょっとなら……」

 胸を触ってみる。柔らかくてずっと触ってられそうだ。バカやろう。何やってんだお前は。

 「冗談はさておき、まずはあいつらと合流しなきゃだよな……なんでかわからんけど蓑畑ってアンドロイドも携帯は取り上げてないみたいだし……」

 と画面を見ると、圏外と表示されていた。ついでに頬もつねってみるが、普通に痛かった。夢ではないようだ。

 指紋認証でロックを解除すると、通知が表示される。

 [ミッション1:建物の外への脱出]

 「なんだ、さっきまでの声はもうないのか?」

 そう呟くと、[ゾンビは音に反応します。初期設定はマナーモードに設定されていますが、解除しますか?]とポップアップが出てきたので、迷わず[いいえ]をタップした。

 ミッションとはどういうつもりかわからないが、たぶんやるべきことをガイドしてくれているのだろう。蓑畑さんと呼ぶべきかわからないが、あのアンドロイドも命は奪わないと言っていた。

 状況が分からない今、スマホの指示に従ってみるしかない。

 俺は端末をポケットにしまって、とりあえず扉のほうへと向かう。二つある出入り口のうちの一つだ。

 ギィイイィィィィイィ……

 という大きな音を立てて開いた扉の先、薄暗く同じように荒れ果てた細い廊下に、十数体のゾンビ達。俺は彼らの注目を集めていた。

 「ははは……お、お邪魔しましたー」

 俺はすぐに扉を閉めたが、数秒後には物凄い勢いで叩かれ始めた。急いで近くにあった長椅子を積んで、応急処置をする。これでしばらくは入ってこれないだろう。

 「ったく、ほんとどーなってんだか」

 スマホの画面を見ると、[北側の扉の先に敵14体の反応。危険度レベル5]と表示されていた。なるほど、こういうやつが出る時も無音というわけか。もう一つの扉の近くまで行って、携帯をかざしてみる。

 [反応なし]

 そう表示されたので、俺は念入りにゆっくりとドアを開けた。またもや薄暗く細い廊下が続いている。

 そして部屋を後にして、途中でなぜか箱入りのハンドガンの弾15発が落ちていたので一応拾い、後ろから聞こえていたゾンビが扉を叩く音が聞こえなくなった頃。若干大きな広場に出た。と言っても、ただのエレベーターホールだ。4台のエレベーターと、フロアマップを見つける。

 あの部屋からここまでの道のりでの風景から察するに、ここはどっかの病院の病棟らしい。地図を開いたときにほこりが舞い、だいぶむせた。いつからこの病院は人がいないんだろうか。

 「ええと……俺が今いるのが、3階か。ここから外に出るには、1階まで降りて……ちくしょうこの声慣れねぇ!!」

 自分の女々しい声に惑わされつつ、1階までの道のりを確認する。当然ながら電力が来ているわけもなく、エレベーターは動かなかった。非常階段は、2つあった。1つはこのエレベーターホールのすぐ脇だ。

 「このドアか。うわっ、きったねぇな」

 ドアノブを掴むとぬるりとした感触。俺はすぐに手を引っ込める。暗い中よく見ると、俺より一回り小さい美頼の掌が真っ赤に染まっている。

 「は?血!?」

 発生元を辿ってみると、すぐに見つけることができた。

 それはドアノブの真上から垂れてきていた。普通の人なら迷わず上を見るだろう。そして天井に穴があいているのも見つけるだろう。

 そうすればもちろん、蛙のような手に蛇のような目鼻口が、ゾンビの首を咥えてそこからこちらを覗いていることが分かるはずだ。



 目と目が合うその瞬間、‟普通の人”だった俺は一目散に走り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田
ミステリー
 刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!  そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。  機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!  サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか? *追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね! *他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。 *現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。

Mello Yello ~Do not draw the Sea~

雪村穂高
ミステリー
「海は描いちゃダメ」 郷土の風景を描く夏休みの美術の宿題に付け足された、 美術教師・斎藤による意味深長な注文。 中学1年生のシャロと彩は、その言葉に隠された謎を探る。 暇つぶしのようにして始められた二人の推理。 しかし推理は徐々にきな臭い方向へと向かって行き――

はばたいたのは

HyperBrainProject
ミステリー
連続殺人事件発生―― 担当は川村正義35歳、階級は警部補。必死の捜査にも関わらず中々犯人の足取りを掴む事が出来ず行き詰まっていた矢先、部下であり相棒が被害者に……。 それにより本腰を上げた上層部が取った行動は、警視庁からの人員の派遣だった―― 今、この難事件を解決するが為に派遣された九条正美を新たに相棒に迎え、正義は事件解決に挑む。

復讐の旋律

北川 悠
ミステリー
 昨年、特別賞を頂きました【嗜食】は現在、非公開とさせていただいておりますが、改稿を加え、近いうち再搭載させていただきますので、よろしくお願いします。  復讐の旋律 あらすじ    田代香苗の目の前で、彼女の元恋人で無職のチンピラ、入谷健吾が無残に殺されるという事件が起きる。犯人からの通報によって田代は保護され、警察病院に入院した。  県警本部の北川警部が率いるチームが、その事件を担当するが、圧力がかかって捜査本部は解散。そんな時、川島という医師が、田代香苗の元同級生である三枝京子を連れて、面会にやってくる。  事件に進展がないまま、時が過ぎていくが、ある暴力団組長からホワイト興産という、謎の団体の噂を聞く。犯人は誰なのか? ホワイト興産とははたして何者なのか?  まあ、なんというか古典的な復讐ミステリーです…… よかったら読んでみてください。  

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

四次元残響の檻(おり)

葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。

処理中です...