35 / 92
第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]
Log.31 uncomfortable feeling
しおりを挟む
*
三時間前。たぶんそのくらいの時間。俺達は薪原麻尋の家に向かっていた。
なぜかと言うと、図書館で俺があの写真を見た後、あの父の顔を見た後、案の定俺は気絶した。そしてもう1人の俺、シロの方が出てきて、言ったのだという。
「たぶん、薪原さんだっけ?あなたの家に行けば少しは真相に近づけるかもしれない」
シロはそれ以外何も語らなかったという。みんなの制止を振り切って家に帰ったという。全くもって役立たずな奴め。
そして今日。4月30日日曜日。俺と美頼は薪原にもらった地図を頼りに、交通量の多い国道沿いを歩いている。脇には街路樹と、様々な店が立ち並ぶ。ちょうど学校に対して俺らの家とは反対側。
残念ながらあのやかましい千夜君は風邪で寝込んでしまっている。本当に残念だ。休日なので、美頼はもちろん、黄色いダボシャツにダメージジーンズといった私服姿である。
「ほんっと……意味わっかんないよね。あんたの人格はっ……よっと」
そう言いながら彼女は、先に進む俺の後ろを、道路の色つきタイルをたどって左右にジャンプしている。よく俺も小学生の頃やったなぁ……。人通りが少なく、誰にも迷惑をかけてないし黙っておこう。
「あぁ」
短く返事をして俺は地図をもう一度見る。学校を通り過ぎてからかれこれ15分が経つ。ようやく薪原の家が見えてくるらしい。
「って……なんだこりゃ?」
「ぶわぁっ!」
俺が驚きの声をあげて立ち止まると、美頼は俺の背中にぶつかった。後ろからいらだちを隠さない声が聞こえる。
「ちょっとアキ!急に止まんないでくれる?!」
「いや、お前も見てみろよ。ここが薪原の家らしいんだが……」
そこにそびえ立っていたのは、豪邸だった。それこそあれだ。英語で言う「mansion」だ。
声がしなくなったので見てみれば、美頼は口を開いたまま塞げなくなっていた。
「とにかく門まで行こうか」
大きな柵に囲まれているが、門までは少し路地に入らないといけないらしい。トラックが通る大通りから脇道にそれて、俺らは閑静な住宅街に来た。門まで一分はかかった。
「薪原……だね」
表札の字を確認して美頼が呟く。俺は半信半疑でインターホンを押した。しばらくして高貴そうな声が聞こえてくる。
『はい。薪原です』
「あ、あの……な、仲山、秋です」
『あぁ、秋山君ね。少々お待ちください』
プツッとスピーカーが切れる音がする。あいつは俺のことを秋山として家の人に話しているのか……全く。なんか無駄に手汗が気になってきた。横を見ると、美頼は携帯を手鏡代わりにして髪を整えたり、服装をチェックしたりしている。
「私、もっとおしゃれな服着てくればよかった……」
残念そうに言うので、俺は笑って返した。
「お前っぽくていいじゃねーか」
「どういう意味よ」
美頼に喧嘩を売ったところで、ちょうど玄関の戸が開いた。どちらかと言えば開くのが見えたと言う方が適切だろう。門から玄関までは数十メートルはあるのだから。
そこから出てきた人物は、ゆっくりと姿勢良く歩いてくる。使用人だろうか?こんな屋敷なら何人かいてもおかしくないが……いや、メイド姿というよりは、綺麗な服を着ている。長い黒髪に、白のワンピースだ。薪原のお母様か?もしかして姉とかいるのかな?
そこまで考えたところで、その人物の顔がはっきりと見える位置に来た。紛れもなく薪原麻尋本人だった。
「マヒロンじゃんあれ!おはよーマヒロン!」
美頼も気づき、元気に手を振る。するとにっこり笑って、門まで来ると鍵を開けてくれる。なんだか様子が変だ。そして息を吸って彼女はこう言った。
「本日はようこそおいでくださいました。私の家へ」
先ほどの高貴そうな声だ。瞬きしてもう一度顔を確認する。だがしかし、愛想よく笑っているのはどう見ても見慣れた麻尋の顔だった。
三時間前。たぶんそのくらいの時間。俺達は薪原麻尋の家に向かっていた。
なぜかと言うと、図書館で俺があの写真を見た後、あの父の顔を見た後、案の定俺は気絶した。そしてもう1人の俺、シロの方が出てきて、言ったのだという。
「たぶん、薪原さんだっけ?あなたの家に行けば少しは真相に近づけるかもしれない」
シロはそれ以外何も語らなかったという。みんなの制止を振り切って家に帰ったという。全くもって役立たずな奴め。
そして今日。4月30日日曜日。俺と美頼は薪原にもらった地図を頼りに、交通量の多い国道沿いを歩いている。脇には街路樹と、様々な店が立ち並ぶ。ちょうど学校に対して俺らの家とは反対側。
残念ながらあのやかましい千夜君は風邪で寝込んでしまっている。本当に残念だ。休日なので、美頼はもちろん、黄色いダボシャツにダメージジーンズといった私服姿である。
「ほんっと……意味わっかんないよね。あんたの人格はっ……よっと」
そう言いながら彼女は、先に進む俺の後ろを、道路の色つきタイルをたどって左右にジャンプしている。よく俺も小学生の頃やったなぁ……。人通りが少なく、誰にも迷惑をかけてないし黙っておこう。
「あぁ」
短く返事をして俺は地図をもう一度見る。学校を通り過ぎてからかれこれ15分が経つ。ようやく薪原の家が見えてくるらしい。
「って……なんだこりゃ?」
「ぶわぁっ!」
俺が驚きの声をあげて立ち止まると、美頼は俺の背中にぶつかった。後ろからいらだちを隠さない声が聞こえる。
「ちょっとアキ!急に止まんないでくれる?!」
「いや、お前も見てみろよ。ここが薪原の家らしいんだが……」
そこにそびえ立っていたのは、豪邸だった。それこそあれだ。英語で言う「mansion」だ。
声がしなくなったので見てみれば、美頼は口を開いたまま塞げなくなっていた。
「とにかく門まで行こうか」
大きな柵に囲まれているが、門までは少し路地に入らないといけないらしい。トラックが通る大通りから脇道にそれて、俺らは閑静な住宅街に来た。門まで一分はかかった。
「薪原……だね」
表札の字を確認して美頼が呟く。俺は半信半疑でインターホンを押した。しばらくして高貴そうな声が聞こえてくる。
『はい。薪原です』
「あ、あの……な、仲山、秋です」
『あぁ、秋山君ね。少々お待ちください』
プツッとスピーカーが切れる音がする。あいつは俺のことを秋山として家の人に話しているのか……全く。なんか無駄に手汗が気になってきた。横を見ると、美頼は携帯を手鏡代わりにして髪を整えたり、服装をチェックしたりしている。
「私、もっとおしゃれな服着てくればよかった……」
残念そうに言うので、俺は笑って返した。
「お前っぽくていいじゃねーか」
「どういう意味よ」
美頼に喧嘩を売ったところで、ちょうど玄関の戸が開いた。どちらかと言えば開くのが見えたと言う方が適切だろう。門から玄関までは数十メートルはあるのだから。
そこから出てきた人物は、ゆっくりと姿勢良く歩いてくる。使用人だろうか?こんな屋敷なら何人かいてもおかしくないが……いや、メイド姿というよりは、綺麗な服を着ている。長い黒髪に、白のワンピースだ。薪原のお母様か?もしかして姉とかいるのかな?
そこまで考えたところで、その人物の顔がはっきりと見える位置に来た。紛れもなく薪原麻尋本人だった。
「マヒロンじゃんあれ!おはよーマヒロン!」
美頼も気づき、元気に手を振る。するとにっこり笑って、門まで来ると鍵を開けてくれる。なんだか様子が変だ。そして息を吸って彼女はこう言った。
「本日はようこそおいでくださいました。私の家へ」
先ほどの高貴そうな声だ。瞬きしてもう一度顔を確認する。だがしかし、愛想よく笑っているのはどう見ても見慣れた麻尋の顔だった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
臆病者は首を吊る
ジェロニモ
ミステリー
学校中が文化祭準備に活気づく中、とある理由から夜の学校へやってきた文芸部一年の森辺誠一(もりべ せいいち)、琴原栞(ことはら しおり)は、この学校で広く知られる怪異、首吊り少女を目撃することとなった。文芸部を舞台に、首吊り少女の謎を追う学園ミステリー。
眼異探偵
知人さん
ミステリー
両目で色が違うオッドアイの名探偵が
眼に備わっている特殊な能力を使って
親友を救うために難事件を
解決していく物語。
だが、1番の難事件である助手の謎を
解決しようとするが、助手の運命は...
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
存在証明X
ノア
ミステリー
存在証明Xは
1991年8月24日生まれ
血液型はA型
性別は 男であり女
身長は 198cmと161cm
体重は98kgと68kg
性格は穏やかで
他人を傷つけることを嫌い
自分で出来ることは
全て自分で完結させる。
寂しがりで夜
部屋を真っ暗にするのが嫌なわりに
真っ暗にしないと眠れない。
no longer exists…
友よ、お前は何故死んだのか?
河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」
幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。
だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。
それは洋壱の死の報せであった。
朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。
悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-
橋暮 梵人
青春
幼少の頃から日本サッカー界の至宝と言われ、各年代別日本代表のエースとして活躍し続けてきた片桐修人(かたぎり しゅうと)。
順風満帆だった彼の人生は高校一年の時、とある試合で大きく変わってしまう。
悪質なファウルでの大怪我によりピッチ上で輝くことが出来なくなった天才は、サッカー漬けだった日々と決別し人並みの青春を送ることに全力を注ぐようになる。
高校サッカーの強豪校から普通の私立高校に転入した片桐は、サッカーとは無縁の新しい高校生活に思いを馳せる。
しかしそんな片桐の前に、弱小女子サッカー部のキャプテン、鞍月光華(くらつき みつか)が現れる。
「どう、うちのサッカー部の監督、やってみない?」
これは高校生監督、片桐修人と弱小女子サッカー部の奮闘の記録である。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる