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第3章>毒蛇の幻像[マリオネット・ゲーム]
Log.68 マンインコース
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辻堂桃羽と古戸霧レイが入部に来たのは、5月1日のことだった。そして今日は5月5日。ゴールデンウィーク真っ只中だ。
辻堂の話は、次のようなものだった。
「私の祖父は代々人形師をやってきた家系で、からくり人形を作ることを専門としていたわ。毎日人形を作って、私と遊んでくれた」
個人的に作る人形はいつの日か千体を超える量になっていた。そこで彼は人形だけのために、家を建てたのだという。
「『人形の家』と、私達はそのまま呼んでいる。ただそれ自体も、からくり屋敷だったのよ。人形達がまるでそこで暮らしてるかのような動きをするの」
カーテンが勝手に開いたり、電気がついたり。人形がひとりでに廊下を歩き回ることもあるという。かと言ってそういう現象のことはさほど問題では無かった。辻堂の祖父はそれだけ実力のある人形師らしいからだ。
「謎っていうのは……祖父が亡くなってから最近その家で発見したことなんだけれど」
からくり人形という興味深い内容に、既にみんな聞き入っていた……一人だけ古戸霧は理解が難しいのか天井を眺めていたが、まあみんな聞き入っていた。
「会話できるのよ」
「え?」
少し想像と違ったため、反射的にそんな声が俺の口から出た。辻堂は真顔でもう一度言った。
「からくり人形と会話ができるのよ」
────それにしても休日というものは。
電車に揺られながら、俺はうんざりしていた。ぺちゃくちゃ喋るJKや、一方的に雑学を話し続ける茶髪男子。読書に夢中で周りを見ない女もいれば、窓の外を見てはしゃぐ男の娘もいる。
……全員俺の部員じゃねえか。
といってもこれは部活の遠征というよりは、ただの旅行だ。学校の先生は全く関与していない。
千夜の話を聞きながら電光掲示板を眺めていると、まもなく駅に着くという表示に切り替わった。ちなみに俺らが降りる駅まではまだ三駅ほどある。特別快速なのでそれぞれの駅の間は10分強だ。とにかく長いってことが伝わってほしい。
「うわー、めっちゃ人いるねこの駅」
美頼がホームを見て声を上げる。千夜がそれに続き口を閉じて、満員電車に備えて端に寄った。俺らは開くドアのちょうど反対側のドアの前に集まっている感じだ。
そして扉が開いた瞬間、戦が始まった。まず降りようとする人の流れ。その流れに逆らって一人だけ扉の真ん中で頑張る人がいる。だがその努力も虚しくあっという間に外に流されてしまった。次は入ってくる人の波だ。押し寄せてくるのは、降りた人の倍はあると思われる人の量。あっという間に車内はぎゅうぎゅう詰めになってしまった。
美頼と麻尋、そして古戸霧がドアに押し付けられて、ドアの脇の両側にそれぞれ辻堂と千夜が配置された。俺は行き場をなくして千夜と美頼の間に挟まれている。失敗したなと、ついつい憂鬱な顔になる。
「そんな顔するなよ。僕は2人の邪魔なんかしないよ」
「お前はいつの間に俺と美頼がいい感じの設定を作り上げたんだ」
「窮屈すぎてこっちはそれどころじゃ無いんですけど?」
美頼がこっちを睨みつけてくる。千夜の発言なのに俺まで非難することないじゃないか。目をそらすと、麻尋の顔が目に入った。それは目を細めながら何かに耐えている表情に見えた。俺は率直に尋ねた。
「どうしたんだ薪原」
「え、いや……ちょっとね」
あからさまに口数が少なくなっている。だが彼女の周囲にはこれと言って特筆すべきことは無いのだ。辻堂も読書はやめて様子を伺っている。隣の古戸霧は心配そうに麻尋の顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか?」
「あー、うん。ありがと……レイちゃん」
だが次の瞬間、電車の振動とともに麻尋の体は大きく揺れた。
「あ……ごめ、やっぱむり」
「マヒロン!?」
崩れ落ちながら古戸霧に支えられる麻尋。彼女は多分その時気を失っていた。
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