推理問答部は謎を呼ぶ -Personality Log-

猫蕎麦

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第3章>毒蛇の幻像[マリオネット・ゲーム]

Log.63 メイワクメール

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 『今話題沸騰中の診断アプリ、「ヒトプレ」。その本質に迫り……』

 ──ブチッ

 俺はリモコンでリビングのテレビを消した。朝のニュースの音がいつもよりも耳障りだった。人の明るい声がこんなにも嫌になるなんて。

 「おはよ」

 またギクシャクするのも嫌なので、俺はいつも通り振る舞う。

 昨晩。姉に俺が仲山秋の二次人格と聞かされて、始めはさっぱり意味がわからなかった。が、頭の中で妙に現実味がある気がして、結局寝不足でイラついている。

 食卓につくと、ここ数週間シリアルを入れていた器に、姉お手製の親子丼が入っていた。鮮やかな卵と飴色の鶏肉から出る白い湯気に、刻み海苔が揺らいでいる。久しぶりの豪華な朝食に、俺は少し嬉しかった。

 「おはよ、アキ。その……」

 俺が来たのを確認して、台所から姉が声を出す。言葉を選んでいるようで、なんだか気を遣わせて申し訳なくなる。

 「……昨日はあんな話したけどさ、ほんとここ最近ショック受けちゃってて申し訳ないと思ってる。でももう安心して!お姉ちゃんはいつでもアキのお姉ちゃんだからね!」

 「その年で一人称お姉ちゃんはないわ……」

 「失礼な!これでもまだ20代ですぅ」

 仏頂面の姉。昨日までの空気が嘘みたいだ。

 「……ありがとう」

 そしていただきます。俺はそう言って、箸を手に取った。

 のどかな光景だった。塞ぎ込んでいた姉も、今ではテキパキと動いている。よく眠れずに早めに起きてきたのもあって、俺は始業式の日の朝を思い出した。あの日も目覚ましでこの位の時間に起きて、カルボナーラを食べて……。あれから1ヶ月は経った訳だが、ようやく我が家も元通りと言ったところだろうか。

 いや、もう元には戻れない。11年前から、もう。

 ──実際、俺の人格は……

 病院側も検査してくれるみたいだし、ここで悩んでも仕方が無いことだが、やはり気にしてしまう。自分が本当に仲山秋なのか不安になってしまうのだ。

 いつか、俺の人格が消されることも……。

 「美味しかったよ。ごちそうさま」

 「よかった。おそまつさま」

 姉は前までのように新聞を読みながら、そう返した。

 俺は着替えるために部屋へと、階段を上がる。

 思い返せばこの1ヶ月、異常なほど分からないことだらけだ。

 前からずっと見ていた悪夢。父さんの顔を見ると起こる人格交代。頭の中でもう一人の自分と話したり、夢で父さんを父さんが殺してたり。

 父さんが有名な科学者だったり。

 それに、キイノが話してくれたウイルス付きのメール。信じ難いが、もし本当なら送り主の動機が分からない。メールを送る時点で三川は死んでいるし、送ったとしても謎めいたダイイングメッセージが残るだけだ。送らなかったらキイノはすぐに自首していそうだが……。そこに違いはあるのだろうか。

 薪原家のアンドロイドも、あの後どうなったのだろうか。美頼や千夜とは昨夜チャットで話したが、麻尋からは何の連絡もない。一体六成さん達はどこまで知っていたのか。

 いや、もっと重要なことがあった。……麻尋妹説だ。

 笑えない冗談だ。一体あの咲夜が言っていたことはどこまでが本当なのか、本当に知りたい。確かに俺の母親、優衣さん──さん付けに違和感はあるが──にそっくりで、俺の家族だとすれば、出会った時の既視感にも納得が行く。でも事実の確かめようがない。……DNA鑑定か?それをするなら本人や姉に話を通さなければならないし……。

 そんなことを考えながら身支度を終えると、ちょうど下の階からチャイムが聞こえてきた。玄関の戸が開いた後、階段を上がってくる足音が近づいてくる。姉か……いや、もしくは……。

 「アキ!朝よ!!!起きなさい!!!」

 「とっくに起きてるぞ」

 扉が大きく開いて、見慣れた赤毛が揺れる。着替え終わった俺の姿を見て、美頼はそれはもう残念そうに口を曲げた。

 「なんで私が来る日に限って早起きなのよ」

 「知るか。こっちが知りたいわ……てかノックしろ」

 「えぇ~?何か見られたくないものでもあるのかなぁ~?」

 ちくしょうこいつめんどくせえ。

 「じゃあ行くか」

 カバンを持って俺がそう言うと、美頼が歩き出す。そうして階段を二人で降りていると、美頼が足を滑らせて転んでしまった。……俺も巻き込まれて真っ逆さま。

 「きゃっ」

 「うわっ」

 ──ゴトンッ。

 めちゃくちゃ頭打った。痛い。ラブコメにありそうなシーンかもしれないが、現実には覆い被さるなんてことはなく、別々に転げ落ちた。ただただ痛々しいだけの絵だった。

 「ってぇ……打ち所悪くて死んだらどうすんだ!」

 「ごめんごめん……アキ発想がおじいちゃん」

 この減らず口が。かと思えば、「ほんとごめん」と真顔で謝るので、許してやることにした。視線を感じたので見てみれば、笑顔の姉がリビングからこちらを覗いていた。

 「ごゆっくり~」

 「……」

 俺らは微妙な空気になる。

 とりあえず立ち上がり、玄関の戸を開けた。鳥のさえずり。平和な朝だ。

 「ちょっ、待ってよ」

 美頼が後ろから追ってくる。と、その時、ポケットの中で携帯が震えた。気になって通知を見ると、メールが一件来ていた。開いてみるが、差出人は不明だった。

 『辻堂桃羽には気をつけろ。お前の過去を握っている』

 辻堂……?誰だ。

 一瞬キイノからのウイルスメールが頭をよぎったが、ついメールを開いてしまった。だが、何も起こらない。

 俺が怪訝な顔で立ち止まったからだろう。美頼が横から尋ねてきた。

 「誰?メール?」

 「いや、よくわからん。多分迷惑メールの部類だと思う」

 「だから変なサイトは見るなとあれほど……」

 「見てねぇし!!!」

 気味が悪いのでとりあえず削除して、また俺は通学路を歩き出した。
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