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第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]

Log.54 switched bodies

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 「アキっ!!!」

 俺はめちゃくちゃ女の子らしくそう叫んで、美頼をかばう。咲夜の正面から外れて、俺たちはゴロゴロ転がった。美頼の顔が目に入る。

 「そんな顔しないでくれ……」

 「うん、仕方ないのはわかってるけどさ……それにしてもやっぱキモイなぁっておも……冗談だよそんな顔しないで。で、なんか思ったのと違う戦いになったけどどうする?」

 「そうなんだよなぁ。まさか美頼の、こっちの体の電気ショックが、しかも解除されるなんて……うわっやべ」

 咲夜が振り下ろしてきた刀を、俺は咄嗟に自分の刀で受け止める。咲夜は、お喋りとはいい度胸だぁと、俺たちを嘲笑あざわらった。

 「はっ、早速捨て駒を使うんだなぁ。どうだぁ、女の子に守られる気分はぁ?ひゃっひゃ」

 「捨て駒捨て駒うるさいのよ!!」

 咲夜の刃がこちらの刀身を滑って俺のつばに引っかかる。そこに思いっきり力を込めてはね返した。

 咲夜がよろめいている隙に、俺たちは部屋の反対側へ逃げる。

 部屋が薄暗いせいでよく見えていなかったが、意外とこの部屋は広い。監視室のような数のモニターがあるのは中央部分で、その周りに机、そして椅子が並んでいる。

 入ってきた扉に対して、裏側には麻尋の眠るタンクがある。その他にも同じような空のタンクがいくつか置いてあった。

 そのタンク達のうちの一つ。その陰に俺は美頼と一旦隠れることにした。

 「どぉこ行きやがった?開始早々隠れん坊たぁつまらねぇなぁ。なぁ?」

 今あいつはモニターの前辺りにいる。

 咲夜の声で位置を把握していると、美頼が俺の手をつねった。

 「あいたっ」

 「ちょっとさっきから呼んでるんですけど?いつまで手握ってんのよ」

 目の前で俺に対して美頼がジト目を向ける。俺の顔で。これが美頼の顔なら需要はあったかもしれないが……とかどうでもいいことは置いといて。

 「ごめんごめん。割と元気みたいだな」

 「子供みたいな扱いしないでくれる?私コミュ障なのは否定しないけど肝は座ってんだからね?」

 そういえばさっきゾンビと戦ってる時に確認したんだった。美頼は続ける。

 「なんか思いついた?私……じゃなかった、アキが捨て駒なんだったら、私も結構動かなきゃだよね?入れ替わってるせいでややこしいんだけど」

 「そうだな……」

 咲夜がこちらに向かって歩いてきた。まだ見つかってないことを信じつつ、咲夜と対になる様にタンクの周りを一周してやり過ごす。

 ……つもりだった。

 「!?」

 「残念だったねぇ」

 「きゃぁっ」
 
 なんとか女の悲鳴を上げられた。だから美頼、そんな顔するなって。だがなぜバレたんだ?死角だったはずなのに……。

 「はっ、隠れてるつもりかぁしんねぇが、カメラにゃぁバッチリ映ってんぞ?うひゃひゃ」

 「そうか、モニターの前……!」

 あいつがあそこに行った時点で気づくべきだった。この部屋のカメラ映像も映しているらしい。それにしても咲夜さん、ネタバラシとは有り難い。この調子で俺たちを見逃してはくれないだろうか。

 「うわっ……あ゛っ」

 そう声をあげたのはまたしても俺。

 美頼が咲夜に狙われかけたので、右手で引っ張って避けさせた時だった。迂闊にも奴の刀の刃が、振り下ろされた時に俺の左手に当たってしまった。左手の小指一本持ってかれるだけで済んだが……。美頼の白い指が、さっくりと切れて床に落ちた。

 物凄く痛い。激痛が左腕全体に響く。

 美頼を掴んでいた手を離し、刀で反撃する。うまく咲夜の刃に当たり、はね返したところを突くことができた。

 偶然にもこれが腕にかすってくれる。

 「ぐあっ」

 咲夜も相当痛がっている。カマをかけられたわけじゃない。本当にこれはデスゲームのようだ。中三の時、真面目に剣道の授業を受けておいて本当によかった。

 とにかく出来るだけモニターを破壊して、今度は机の陰に隠れた。美頼が首を傾げてこちらを見ている。

 「な、なんだよ……」

 「アキ、もしかして左手。痛いの?」

 「何言ってんだめっちゃ痛いわ。当たり前だ……ろ?」

 ……いや待て。

 「だよね。おかしいよね?今は、私が入ってるアキの体がキングのはずでしょ?アキは痛みを感じないはずじゃ……?」

 キングが出てくるのはチェスだが、まあそれはいいとして……。

 「美頼、お前今痛いか?」

 「へ?……あ、痛くない」

 俺が美頼の手をつねっていることに、彼女は尋ねられてから気づいたようだった。

 そうか……そうだったのか。


 俺は確信した。

 ──つまり、このゲームシステム内で、俺はとして認識されているのだ。

 一見柊木美頼の身体ではあるが、データ上は仲山秋。咲夜からしたら、わざわざ確かめなければ気づくことはできないだろう。

 「あ、そうか、だから……!」

 「なに?なんか気づいたの?」

 「優衣さんが俺のところにスポーンしたのも、それが理由だったんだよ!」

 美頼はキョトンとする。そういえばあの話は、こいつと合流する前だったか。

 ──しかしおっかしいなぁ……私、仲山秋って男を助けに行くように言われてきたんだけどな……

 ──まあ、ゲームのスタート地点を秋君の近くに合わせたはずなんだよね。

 今は亡き優衣さん、彼女はそう言っていた。

 システムが俺のことを仲山秋と認識していれば、俺の近くに現れた訳も説明出来る。

 「つまり状況は変わったな……捨て駒は俺じゃなくて……」

 「私だったってことね……」

 身体と人格をどう見分けるか。

 この理不尽なゲームにも、勝ち目がある。そう思えた瞬間だった。
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