主人公だけどモブです!

猫蕎麦

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十二語目 『どきどきスリップますたあ β』

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 展開を遅らせてしまって済まない。モブだ。いや、俺にはもうアキという名前があるのか。

 お察しの通り、どうやら人間界では人気だったらしい。あのエロアニメの2期が出たようだ。

 ほんとどうなってんだよ日本……嫌いじゃないぞ。

 その名も『どきどきスリップますたあ β』だ。前回はラッキースケベで敵を倒すための力を貯めていたが、その敵を倒して、最後に主人公が女の子達に追われて終わっていた。

 今回はその続き。ある日主人公の学校に転校生がやってくる。もちろん女。そしてそいつは主人公に言うのだ。

 「私は未来からタイムスリップしてきたあなたと浮気相手の娘。お前に復讐しに来た」と。

 ……とことんどうしようもない主人公だ。

 それと、ここで題名の『スリップ』が出てくるのかと思えば、ちょっと感動もする。

 そして主人公は記憶を消されてしまい、目が覚めるとそこは廃村の学校で……。わけも分からず女の子達から命を狙われる事になり、なんとかそこから脱出するというものだ。一応ミステリー好きにもオススメできる話となっている。エロ注意だが。

 まあ長々と語ってしまったが、俺とミヨリはまた同じアニメのモブだった。

 原点回帰。またあの主人公と関わるのだ。

 寒気がする。

 「あの……すみません。ここってどこなんでしょう」

 噂をすれば。という風に主人公が声をかけてくる。場所は廃村の学校。昇降口を入ってすぐのところだ。口が勝手に開く。

 「私は10年後にあなたに浮気されて殺される運命なのよ」

 俺はそういう運命らしい。

 「なっ、そんなの嘘だ。俺は殺しなんて……てかそもそもお前っ」

 「ええそうね。あなたにそんな度胸はないわ。私の自殺。でもね、彼女に助けられてチャンスをもらった。あなたを殺して、人生をやり直すチャンスを」

 そして俺はナイフを取り出して主人公に襲いかかった。

 一応言っておくが、俺はだ。

 つくづく運がないなこの主人公。

 「うわーっ!!」

 そして逃げた先に待ち受けるのは長髪にベレー帽と、探偵を想起させる風貌の女。ミヨリだった。

 「さよなら。あなた」

 一体主人公には何人の妻がいるんだろうか。

 絶体絶命のピンチを主人公はどう切り抜けるのか……と思ったところで奴はすっ転んだ。察した。


 (それから数分後)


 「ちくしょう!!!またやりやがったあいつ!!!!」

 「仕方ないよ……そういうアニメだし」

 ラッキースケベは健在だった。もちろん物理の法則は効かなかったし、いきなりキスするわパンツおろすわもうほんと大変だった。

 「でも今回はちょっと嬉しいんじゃない?」

 「そうだな……!やっと喋れるしな」

 ミヨリがベレー帽をかぶり直した。

 俺も頷く。

 周りが静かになった気がした。

 いや、元々静かだった。

 そして息を吸い込む。

 「どきどきスリップますたあ βの主人公め!!!とんだクソアニメだ!!!!好き放題しやがってふざけんな!!!!○ね!!!!!!」

 怒鳴ってみると少しスッキリした気がする。ミヨリも横で叫んでいたが、なんて言ったかまでは聞こえなかった。

 だが効果はすぐに現れた。

 大きなカプセルが現れた。

 そして俺らは、その中に吸い込まれて──



 ──意識が途絶えた。
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