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02:『異世界、されど現世界である場所』
:07 2419年、聖都タルニャーガ
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その大通りは、異国の言葉で溢れていた。
「ココ、マツ」
少女が僕を建物の影に連れて行き、そう言った。ここで待てということか。よくよく考えたら、僕の服装は今パンツ一枚に等しい。さっきまでは命の危機に晒されていたから気づかなかったが、今更ながら恥ずかしくなってきた。
「オーケーオーケー!」
僕はできる限りの笑顔と身振り手振りで何とか答える。彼女は頷くと、通りの雑踏に紛れ込んだ。
煉瓦でできた時計台が見える。白い鳩の群れが軽々と僕の頭上を飛んでいく。空は雲ひとつない快晴で、空気は美味しかった。快適な気候だ。
通りを歩く人はというと、犬やトカゲといった見覚えのある動物もいるが、見たことのない奇形のモンスターもいる。二足歩行してる者もいれば、四足歩行のまま馬車を引く者もいる。また、そんな動物ばかりでもなく、人間もちゃんといた。さっきの少女の様な耳がとんがった人と、普通の人。普通の人は大抵マントの様なものを身につけていた。
「本当にここはどこなんだ……」
僕は呟く。そうやって街を観察していると、少女が戻ってくる。手には服のようなものが握られていた。
「これを着て」
「え、なんかいきなり流暢になった?」
少女に言われるがまま、服を着た。金色の金具のついた白いローブにダボっとした黒ズボン。なんとなく異世界感がある服装だ。
「ありがとう!」
僕がそういうと、つり目の彼女はニコッと笑う。めっちゃ可愛い。
「ついてきて」
さっきまでのカタコトとは違う、滑らかな日本語だ。少しアクセントは癖があるけども、十分わかる。僕は言われた通りについて行く。大通りに出て、川にかかった石橋を渡り、石畳を練り歩く。数分も立たないうちに、目的地にはついた。
「ココ、イエ」
またカタコトに戻っちゃった。こじんまりした白い家だ。緑色に塗られた木の扉に、何やら文字のようなものが書かれた看板。窓際にはプランターで見たことない植物が育てられている。
少し不安だが、行くアテもない。それにこの少女は命の恩人だ。信用できるだろう。少女はそのままドアを開けた。
「ただいまサユキ」
ええ、そこは日本語なの?というかサユキ?すると、家の中からバタバタと騒がしい音が聞こえる。そして元気な声がした。
「おかえりー!」
「え?」
僕が今まで見たことあるのはマイクラでいうところの豆腐ハウスのような家で、こんな小洒落た家は初めてだ。そもそも他人の家に行くことがない。そんなこと仮想空間で事足りるのだから。玄関は割と開放的で、すぐそこに暖炉とソファ、机などが置いてある。奥の方にも部屋があって、その脇には階段が2階に向かって伸びていた。
次の瞬間、目の前に現れたのはツインテールの幼女だった。本当に目の前に、パッと現れたのだ。知っている言葉で表せば……瞬間移動だろうか。少し上の方から落ちたので、尻餅をついて痛そうにしている。黒いフードマントを身につけているが、その下に着ているのは浴衣だ。すぐに立ち上がって僕の方を見据えた。
「あんたが日本語を話すって男の子ね!ほんと、日本人みたいな顔してる!」
「君もね……というか一体……」
「本当に日本語だ!!!すげえ!!」
幼女はなぜかはしゃいでいる。どちらかと言うと僕もはしゃぎたい。異界の地で言葉が通じるなんて。
「あたいはサユキ。サユキ・ノルマンってんだ!こっちはプカ。あたいがプカに日本語教えといたおかげであんた命拾いしたな!」
「な、なるほど……僕は由月だ。狛梁由月。ここは2419年の東京で合ってるか?なんで君は日本語が通じる?」
プカは言葉がわからないのだろう、脇でよそよそしくしている。サユキはニカっと笑った。口の隙間から八重歯が見える。
「よくわかんないけど、ここは2419年の聖都タルニャーガだよ?ユヅキはどこからきたの?」
「タルニャーガ……?うーんと、日本語がわかるってことは日本もあるんだよね?僕は日本から来たんだけど」
「んん?えーと……」
日本語を話すのにどこから、と聞かれた時点で察するべきだったのかもしれない。しかし僕の想像力ではその事実に辿り着くことはできなかった。知らない土地に出ただけで、すぐに日本に帰れると思っていた。
「日本は数百年前とかに滅んだよ?というか、地球全体が一回滅亡したの。そいであたいは日本人の祖先なのさ」
愕然とする僕。あどけない顔でこちらを見つめ返すサユキ。疑問符を並べまくっているプカ。僕が元の世界に戻るには、まだ長くかかりそうだ。
「ココ、マツ」
少女が僕を建物の影に連れて行き、そう言った。ここで待てということか。よくよく考えたら、僕の服装は今パンツ一枚に等しい。さっきまでは命の危機に晒されていたから気づかなかったが、今更ながら恥ずかしくなってきた。
「オーケーオーケー!」
僕はできる限りの笑顔と身振り手振りで何とか答える。彼女は頷くと、通りの雑踏に紛れ込んだ。
煉瓦でできた時計台が見える。白い鳩の群れが軽々と僕の頭上を飛んでいく。空は雲ひとつない快晴で、空気は美味しかった。快適な気候だ。
通りを歩く人はというと、犬やトカゲといった見覚えのある動物もいるが、見たことのない奇形のモンスターもいる。二足歩行してる者もいれば、四足歩行のまま馬車を引く者もいる。また、そんな動物ばかりでもなく、人間もちゃんといた。さっきの少女の様な耳がとんがった人と、普通の人。普通の人は大抵マントの様なものを身につけていた。
「本当にここはどこなんだ……」
僕は呟く。そうやって街を観察していると、少女が戻ってくる。手には服のようなものが握られていた。
「これを着て」
「え、なんかいきなり流暢になった?」
少女に言われるがまま、服を着た。金色の金具のついた白いローブにダボっとした黒ズボン。なんとなく異世界感がある服装だ。
「ありがとう!」
僕がそういうと、つり目の彼女はニコッと笑う。めっちゃ可愛い。
「ついてきて」
さっきまでのカタコトとは違う、滑らかな日本語だ。少しアクセントは癖があるけども、十分わかる。僕は言われた通りについて行く。大通りに出て、川にかかった石橋を渡り、石畳を練り歩く。数分も立たないうちに、目的地にはついた。
「ココ、イエ」
またカタコトに戻っちゃった。こじんまりした白い家だ。緑色に塗られた木の扉に、何やら文字のようなものが書かれた看板。窓際にはプランターで見たことない植物が育てられている。
少し不安だが、行くアテもない。それにこの少女は命の恩人だ。信用できるだろう。少女はそのままドアを開けた。
「ただいまサユキ」
ええ、そこは日本語なの?というかサユキ?すると、家の中からバタバタと騒がしい音が聞こえる。そして元気な声がした。
「おかえりー!」
「え?」
僕が今まで見たことあるのはマイクラでいうところの豆腐ハウスのような家で、こんな小洒落た家は初めてだ。そもそも他人の家に行くことがない。そんなこと仮想空間で事足りるのだから。玄関は割と開放的で、すぐそこに暖炉とソファ、机などが置いてある。奥の方にも部屋があって、その脇には階段が2階に向かって伸びていた。
次の瞬間、目の前に現れたのはツインテールの幼女だった。本当に目の前に、パッと現れたのだ。知っている言葉で表せば……瞬間移動だろうか。少し上の方から落ちたので、尻餅をついて痛そうにしている。黒いフードマントを身につけているが、その下に着ているのは浴衣だ。すぐに立ち上がって僕の方を見据えた。
「あんたが日本語を話すって男の子ね!ほんと、日本人みたいな顔してる!」
「君もね……というか一体……」
「本当に日本語だ!!!すげえ!!」
幼女はなぜかはしゃいでいる。どちらかと言うと僕もはしゃぎたい。異界の地で言葉が通じるなんて。
「あたいはサユキ。サユキ・ノルマンってんだ!こっちはプカ。あたいがプカに日本語教えといたおかげであんた命拾いしたな!」
「な、なるほど……僕は由月だ。狛梁由月。ここは2419年の東京で合ってるか?なんで君は日本語が通じる?」
プカは言葉がわからないのだろう、脇でよそよそしくしている。サユキはニカっと笑った。口の隙間から八重歯が見える。
「よくわかんないけど、ここは2419年の聖都タルニャーガだよ?ユヅキはどこからきたの?」
「タルニャーガ……?うーんと、日本語がわかるってことは日本もあるんだよね?僕は日本から来たんだけど」
「んん?えーと……」
日本語を話すのにどこから、と聞かれた時点で察するべきだったのかもしれない。しかし僕の想像力ではその事実に辿り着くことはできなかった。知らない土地に出ただけで、すぐに日本に帰れると思っていた。
「日本は数百年前とかに滅んだよ?というか、地球全体が一回滅亡したの。そいであたいは日本人の祖先なのさ」
愕然とする僕。あどけない顔でこちらを見つめ返すサユキ。疑問符を並べまくっているプカ。僕が元の世界に戻るには、まだ長くかかりそうだ。
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