7 / 13
01:『出発点、そして終着点となる時刻』
:05 そこは見知らぬ世界で、
しおりを挟む
目の前で轢かれたのは、あの少女だった。
「早く行きましょう」
愕然とする僕を引きずっていく巡。その後どの道をどう通ったか全く覚えていない。おそらく来た道を戻っただけなのだろうが。気が付いたらタイムマシンの前にいた。
「……」
沈黙が流れる。僕があの時彼女を止めていれば、あの少女は死なずに済んだのだろうか。いや、だめだ。そんなことをすれば僕たちの未来も変えてしまうかもしれない。
「これで、よかったんだ……」
タイムマシンが落ちた茂みの木に背中を預けながら、巡がうなずく。
「そうね。とにかくどうやって帰るか考えましょう。タイムマシンはまだ動くの?」
「見た感じ大丈夫そうだ。燃料もあるし、ちょっと凹んではいるけど操作パネルにはエラーみたいなのは表示されてないから……」
答えながら、マシンのあちこちをいじってみる。そもそもどういう仕組みで動いてるのかもわからないのだから、どうしようもないのだが。タイムマシンで元の時代に戻るときは、出発した時刻より後に戻らないといけない。というか時間をいじろうとしたらその時間しか選択できなかった。
「戻れるのは僕たちが飛んだ直後、やっぱりあの魔女がいる炎だらけの部屋に戻されるんだ」
「そんな……じゃあ武器!武器を集めるのはどう??」
「あの魔女だよ?鉄の塊とか炎でタイムマシンに穴開けるわ火災対策が万全のタワーのホールを焼き尽くすわする魔女だよ??この時代の僕たちの手が届く範囲内で有効な武器があると思う??」
束の間の沈黙。
「ぐう……」
「うん、ぐうの音も出ちゃってるけどね」
いつものことだ。ぐうの音も出ない時、巡はぐうの音を上げる。どうしたものか。こうしている間にも刻一刻と時間は過ぎて、この様子を色んな通行人に見られ始めているわけで……。
「あ!場所の変更とかはできないの??」
巡がポンと手を叩いて声に出す。場所の変更……なるほど、その発想はなかった。タイムマシンと言うものだから、てっきり時間の変更しかできないものだとばかり思っていた。確かに僕らが飛んだのはタワーの最上階。下手したらこの時代に来たときに落下死している高さだ。地形の変化はそこまで激しくないはず。つまりこのタイムマシンが高さを調整したと考えることもできる。
「私にも見せて」
「え、あ、うん」
自分の出番だとでも言うように早速動き出す巡。
「できたわ!早く乗ってユヅ!!」
「え、早くね?!僕の存在意義どうした!?」
「いいから、早くしないと不審者だと思われて警察が来ちゃうわよ!」
「なっ……」
驚いて茂みの外の通りを覗くと、まさに通りの向こうから警官が2人歩いてきているのが見えた。通りに出てやっと見えるくらいなのでまだ距離はあるが、確かにこのままではまずいかもしれない。
「やばい、行こう巡」
「はいよ!捕まってね!とりあえずタワーから少し離れたユヅの家あたりにしといたわ」
「ええ!!最悪僕の家破壊されないそれ!?」
【電気パルス更新。アルファ値不安定。ベータ値良好。ワープ空間に移行します】
「行くよー!!」
「っ……!!」
再び青白い光に包まれる。特徴的な浮遊感と共に。シュバッと効果音が聞こえてきそうな爆音が聞こえて、耳の奥がキーンとする。前回とは違って慣れてきたのか、気絶はしなかった。機体が揺れながら大きな音を立てている。扉の穴からは青い光が線になって前から後ろへと流れていくのが見える。
そして次の瞬間、赤いブザーと共にとてつもない衝撃を感じた。そこからタイムマシン全体が、僕たちを振り落とそうとしているかのように激しく揺れ始める。
「きゃぁぁっっ!!」
巡の叫び声が聞こえた気がする。僕も振り落とされないよう必死で椅子にしがみついていた。そうやって目を瞑りながらどのくらい経ったのか。ふと目を開けると、爆音は鳴り止み振動も止まっていた。そして、鳥のさえずりが聞こえていた。
「ユヅ!!外よ!見て!!!」
「成功したのか!!!」
タイムマシンの扉の穴からは外の明かりが見える。ドアを開けてその明かりに目を細めた。ようやく、無事、炎に包まれたホールから逃げ切り、元の時代に帰ってくることが……できてなかった。
そこはなぜか、先程までいた時代よりも緑豊かな、背の高い大木が立ち並ぶ森の中だった。
「え……?どういうことユヅ、ここ2419年のはずよね???」
慌ててタイムパネルを確認してみるが、表示されている時代は間違っていない。2419年の8月23日だ。
「そんなバカ……な?」
そして次の瞬間、僕はただならぬ痛みを感じていた。そして恐らく自分の鼓膜を破くほど大声で叫んでいただろう。全身の毛穴、鼻、口、目、耳、穴という穴から何かが侵食してくる感覚だった。今までに味わったことのない恐怖と激痛と共に。
「め……く……り……」
白く霞んでいく視界の先に、同じように頭を抱え倒れ込んでいる巡、のようなものが見える。正直他人の安否を心配する余裕なんて更々ない。だが僕はとにかく、自分の身体中を掻きむしりながらも、巡に近づこうと頑張った。
身体中を炙られている気がする。ドロドロに溶けて脳味噌まで全て消えてしまうような、そんな感覚。死を悟った。
「ごめ……ん…………ユ……ヅ……」
そんな声が聞こえた気がした。タイムマシン試乗会に誘ったことを後悔しているのかもしれない。僕は答える声帯はもう持ってなかった。必死に笑顔を作ろうとした。視界ももう真っ白で見えない。痛みだけが常に麻痺せず続いている。物理的にも精神的にも、頭がどうにかなりそうだ。
そしてプツン、と。僕の記憶はまた途絶えた。
「早く行きましょう」
愕然とする僕を引きずっていく巡。その後どの道をどう通ったか全く覚えていない。おそらく来た道を戻っただけなのだろうが。気が付いたらタイムマシンの前にいた。
「……」
沈黙が流れる。僕があの時彼女を止めていれば、あの少女は死なずに済んだのだろうか。いや、だめだ。そんなことをすれば僕たちの未来も変えてしまうかもしれない。
「これで、よかったんだ……」
タイムマシンが落ちた茂みの木に背中を預けながら、巡がうなずく。
「そうね。とにかくどうやって帰るか考えましょう。タイムマシンはまだ動くの?」
「見た感じ大丈夫そうだ。燃料もあるし、ちょっと凹んではいるけど操作パネルにはエラーみたいなのは表示されてないから……」
答えながら、マシンのあちこちをいじってみる。そもそもどういう仕組みで動いてるのかもわからないのだから、どうしようもないのだが。タイムマシンで元の時代に戻るときは、出発した時刻より後に戻らないといけない。というか時間をいじろうとしたらその時間しか選択できなかった。
「戻れるのは僕たちが飛んだ直後、やっぱりあの魔女がいる炎だらけの部屋に戻されるんだ」
「そんな……じゃあ武器!武器を集めるのはどう??」
「あの魔女だよ?鉄の塊とか炎でタイムマシンに穴開けるわ火災対策が万全のタワーのホールを焼き尽くすわする魔女だよ??この時代の僕たちの手が届く範囲内で有効な武器があると思う??」
束の間の沈黙。
「ぐう……」
「うん、ぐうの音も出ちゃってるけどね」
いつものことだ。ぐうの音も出ない時、巡はぐうの音を上げる。どうしたものか。こうしている間にも刻一刻と時間は過ぎて、この様子を色んな通行人に見られ始めているわけで……。
「あ!場所の変更とかはできないの??」
巡がポンと手を叩いて声に出す。場所の変更……なるほど、その発想はなかった。タイムマシンと言うものだから、てっきり時間の変更しかできないものだとばかり思っていた。確かに僕らが飛んだのはタワーの最上階。下手したらこの時代に来たときに落下死している高さだ。地形の変化はそこまで激しくないはず。つまりこのタイムマシンが高さを調整したと考えることもできる。
「私にも見せて」
「え、あ、うん」
自分の出番だとでも言うように早速動き出す巡。
「できたわ!早く乗ってユヅ!!」
「え、早くね?!僕の存在意義どうした!?」
「いいから、早くしないと不審者だと思われて警察が来ちゃうわよ!」
「なっ……」
驚いて茂みの外の通りを覗くと、まさに通りの向こうから警官が2人歩いてきているのが見えた。通りに出てやっと見えるくらいなのでまだ距離はあるが、確かにこのままではまずいかもしれない。
「やばい、行こう巡」
「はいよ!捕まってね!とりあえずタワーから少し離れたユヅの家あたりにしといたわ」
「ええ!!最悪僕の家破壊されないそれ!?」
【電気パルス更新。アルファ値不安定。ベータ値良好。ワープ空間に移行します】
「行くよー!!」
「っ……!!」
再び青白い光に包まれる。特徴的な浮遊感と共に。シュバッと効果音が聞こえてきそうな爆音が聞こえて、耳の奥がキーンとする。前回とは違って慣れてきたのか、気絶はしなかった。機体が揺れながら大きな音を立てている。扉の穴からは青い光が線になって前から後ろへと流れていくのが見える。
そして次の瞬間、赤いブザーと共にとてつもない衝撃を感じた。そこからタイムマシン全体が、僕たちを振り落とそうとしているかのように激しく揺れ始める。
「きゃぁぁっっ!!」
巡の叫び声が聞こえた気がする。僕も振り落とされないよう必死で椅子にしがみついていた。そうやって目を瞑りながらどのくらい経ったのか。ふと目を開けると、爆音は鳴り止み振動も止まっていた。そして、鳥のさえずりが聞こえていた。
「ユヅ!!外よ!見て!!!」
「成功したのか!!!」
タイムマシンの扉の穴からは外の明かりが見える。ドアを開けてその明かりに目を細めた。ようやく、無事、炎に包まれたホールから逃げ切り、元の時代に帰ってくることが……できてなかった。
そこはなぜか、先程までいた時代よりも緑豊かな、背の高い大木が立ち並ぶ森の中だった。
「え……?どういうことユヅ、ここ2419年のはずよね???」
慌ててタイムパネルを確認してみるが、表示されている時代は間違っていない。2419年の8月23日だ。
「そんなバカ……な?」
そして次の瞬間、僕はただならぬ痛みを感じていた。そして恐らく自分の鼓膜を破くほど大声で叫んでいただろう。全身の毛穴、鼻、口、目、耳、穴という穴から何かが侵食してくる感覚だった。今までに味わったことのない恐怖と激痛と共に。
「め……く……り……」
白く霞んでいく視界の先に、同じように頭を抱え倒れ込んでいる巡、のようなものが見える。正直他人の安否を心配する余裕なんて更々ない。だが僕はとにかく、自分の身体中を掻きむしりながらも、巡に近づこうと頑張った。
身体中を炙られている気がする。ドロドロに溶けて脳味噌まで全て消えてしまうような、そんな感覚。死を悟った。
「ごめ……ん…………ユ……ヅ……」
そんな声が聞こえた気がした。タイムマシン試乗会に誘ったことを後悔しているのかもしれない。僕は答える声帯はもう持ってなかった。必死に笑顔を作ろうとした。視界ももう真っ白で見えない。痛みだけが常に麻痺せず続いている。物理的にも精神的にも、頭がどうにかなりそうだ。
そしてプツン、と。僕の記憶はまた途絶えた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる