異世界タイムパラドクス 〜過去を変えたら現代が魔法の使える異世界になってしまった〜

猫蕎麦

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01:『出発点、そして終着点となる時刻』

:05 そこは見知らぬ世界で、

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 目の前で轢かれたのは、あの少女だった。

 「早く行きましょう」

 愕然とする僕を引きずっていくめくり。その後どの道をどう通ったか全く覚えていない。おそらく来た道を戻っただけなのだろうが。気が付いたらタイムマシンの前にいた。

 「……」

 沈黙が流れる。僕があの時彼女を止めていれば、あの少女は死なずに済んだのだろうか。いや、だめだ。そんなことをすれば僕たちの未来も変えてしまうかもしれない。

 「これで、よかったんだ……」

 タイムマシンが落ちた茂みの木に背中を預けながら、巡がうなずく。

 「そうね。とにかくどうやって帰るか考えましょう。タイムマシンはまだ動くの?」

 「見た感じ大丈夫そうだ。燃料もあるし、ちょっと凹んではいるけど操作パネルにはエラーみたいなのは表示されてないから……」

 答えながら、マシンのあちこちをいじってみる。そもそもどういう仕組みで動いてるのかもわからないのだから、どうしようもないのだが。タイムマシンで元の時代に戻るときは、出発した時刻より後に戻らないといけない。というか時間をいじろうとしたらその時間しか選択できなかった。

 「戻れるのは僕たちが飛んだ直後、やっぱりあの魔女がいる炎だらけの部屋に戻されるんだ」

 「そんな……じゃあ武器!武器を集めるのはどう??」

 「あの魔女だよ?鉄の塊とか炎でタイムマシンに穴開けるわ火災対策が万全のタワーのホールを焼き尽くすわする魔女だよ??この時代の僕たちの手が届く範囲内で有効な武器があると思う??」

 束の間の沈黙。

 「ぐう……」

 「うん、ぐうの音も出ちゃってるけどね」

 いつものことだ。ぐうの音も出ない時、巡はぐうの音を上げる。どうしたものか。こうしている間にも刻一刻と時間は過ぎて、この様子を色んな通行人に見られ始めているわけで……。

 「あ!場所の変更とかはできないの??」

 巡がポンと手を叩いて声に出す。場所の変更……なるほど、その発想はなかった。タイムマシンと言うものだから、てっきり時間の変更しかできないものだとばかり思っていた。確かに僕らが飛んだのはタワーの最上階。下手したらこの時代に来たときに落下死している高さだ。地形の変化はそこまで激しくないはず。つまりこのタイムマシンが高さを調整したと考えることもできる。

 「私にも見せて」

 「え、あ、うん」

 自分の出番だとでも言うように早速動き出す巡。

 「できたわ!早く乗ってユヅ!!」

 「え、早くね?!僕の存在意義どうした!?」

 「いいから、早くしないと不審者だと思われて警察が来ちゃうわよ!」

 「なっ……」

 驚いて茂みの外の通りを覗くと、まさに通りの向こうから警官が2人歩いてきているのが見えた。通りに出てやっと見えるくらいなのでまだ距離はあるが、確かにこのままではまずいかもしれない。

 「やばい、行こう巡」

 「はいよ!捕まってね!とりあえずタワーから少し離れたユヅの家あたりにしといたわ」

 「ええ!!最悪僕の家破壊されないそれ!?」

 【電気パルス更新。アルファ値不安定。ベータ値良好。ワープ空間に移行します】

 「行くよー!!」

 「っ……!!」

 再び青白い光に包まれる。特徴的な浮遊感と共に。シュバッと効果音が聞こえてきそうな爆音が聞こえて、耳の奥がキーンとする。前回とは違って慣れてきたのか、気絶はしなかった。機体が揺れながら大きな音を立てている。扉の穴からは青い光が線になって前から後ろへと流れていくのが見える。

 そして次の瞬間、赤いブザーと共にとてつもない衝撃を感じた。そこからタイムマシン全体が、僕たちを振り落とそうとしているかのように激しく揺れ始める。

 「きゃぁぁっっ!!」

 巡の叫び声が聞こえた気がする。僕も振り落とされないよう必死で椅子にしがみついていた。そうやって目を瞑りながらどのくらい経ったのか。ふと目を開けると、爆音は鳴り止み振動も止まっていた。そして、鳥のさえずりが聞こえていた。

 「ユヅ!!外よ!見て!!!」

 「成功したのか!!!」

 タイムマシンの扉の穴からは外の明かりが見える。ドアを開けてその明かりに目を細めた。ようやく、無事、炎に包まれたホールから逃げ切り、元の時代に帰ってくることが……できてなかった。

 そこはなぜか、先程までいた時代よりも緑豊かな、背の高い大木が立ち並ぶ森の中だった。

 「え……?どういうことユヅ、ここ2419年のはずよね???」

 慌ててタイムパネルを確認してみるが、表示されている時代は間違っていない。2419年の8月23日だ。

 「そんなバカ……な?」

 そして次の瞬間、僕はただならぬ痛みを感じていた。そして恐らく自分の鼓膜を破くほど大声で叫んでいただろう。全身の毛穴、鼻、口、目、耳、穴という穴から何かが侵食してくる感覚だった。今までに味わったことのない恐怖と激痛と共に。

 「め……く……り……」

 白く霞んでいく視界の先に、同じように頭を抱え倒れ込んでいる巡、のようなものが見える。正直他人の安否を心配する余裕なんて更々ない。だが僕はとにかく、自分の身体中を掻きむしりながらも、巡に近づこうと頑張った。

 身体中を炙られている気がする。ドロドロに溶けて脳味噌まで全て消えてしまうような、そんな感覚。死を悟った。

 「ごめ……ん…………ユ……ヅ……」

 そんな声が聞こえた気がした。タイムマシン試乗会に誘ったことを後悔しているのかもしれない。僕は答える声帯はもう持ってなかった。必死に笑顔を作ろうとした。視界ももう真っ白で見えない。痛みだけが常に麻痺せず続いている。物理的にも精神的にも、頭がどうにかなりそうだ。

 そしてプツン、と。僕の記憶はまた途絶えた。
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