5 / 13
01:『出発点、そして終着点となる時刻』
:03 逃亡、タイムマシンにて
しおりを挟む「とにかく今は出口を目指して炎を避けるのよ。ついてきて!!」
「なんでお前はそんなに自信満々なんだぁっ!!」
炎の雨の中走り出す巡に手を引かれ、僕は振り回されながらもなんとかついていく。ホールの中心にあるステージの周りを回っていく形になるが、何故か魔女はこちらを目で追っている。まるで僕らが標的かのように。
一体何が起こっているんだ。叶枝さんがタイムマシンに乗って過去に飛んで、帰ってきたと思ったらまるっきり容姿も変わり、魔女のように、鉄の塊や炎の雨を放って暴れ回っている。過去で何があったのか……もしくは僕には想像つかない何かが……?
「こっち……待ってユヅ!!伏せて!!!」
「おわあっ!?」
巡の声に慌ててしゃがむと、真上を轟音と共に灼熱の球体が掠めていった。振り向けば魔女がこちらを向いて満面の笑みを浮かべている。そして彼女はしわがれた声で叫ぶ。
「テトラァ!シャンズークラ??!」
「なんかあの人僕たちに向かって話しかけてない??」
「そうね……まさかあんた喧嘩売ったんじゃないでしょうね!」
「んなわけないだろ!!」
大声で会話しながらも、僕たちは必死に走っていた。目指すのはホールの端にある四つの出口のうちの一つ。他の観客たちも四つの塊に分かれて出口へ急いでいた。その最中にも何人もの人が焼け死んでいる。もっとも焼け死ぬと言っても炎の力が強過ぎて、焼ける痛みを味わう暇すらない程一瞬で灰になっていくが。
しゃがんだり立ち止まったりでなんとか炎を回避しながら、出口へと走り込む。
「やった!!ここから廊下に……!」
と思ったのも束の間、次の瞬間真っ黒な炎がその扉を包みこんだ。凄まじい熱気が顔を焼き付ける。ほんの数秒の間に、僕は巡に押されて外側に出ることができたが、巡が中に取り残されてしまった。反射的に中にもう一度入ろうとするが、腕を焼かれた。
「あちっ」
「私のことはいいから、早く逃げて!」
巡が周囲の状況を確認しながら、漫画にでもありそうなセリフを吐き出す。
僕は焦ったように足踏みする。だが落ち着く暇もない。魔女はその場から微動だにせず炎を撃ち込んできた。扉を包む炎はさらに大きくなり、巡の姿はもう見えない。
「くそっ、なんでこんなことに……っ!」
近くにいた警備のおじさんに向かって、僕は必死に助けを求めた。
「中に友達がいるんです!!!なんとかしてください!!!」
「そんなこと言ってもな……あまりにも危険すぎる。君だけでも逃げた方がいい!」
まもなく救助隊や警備隊やらが来るらしいが、それらを待っている間にも巡は焼け死んでしまうかもしれない。僕は焦っていた。
「もういいです。僕だけでもなんとかしてみます」
「あ、おい君!!」
廊下を駆け出してすぐに、ホールに繋がってそうな排気口を見つける。小柄な僕ならギリギリ入れそうだ。蓋を無理やりこじ開けて、後ろで誰かが騒ぐ中、僕はその中に入っていった。
熱い、体が焼けそうだ。ダクトは金属でできている上に、ホール中からの熱気が充満していた。早く抜け出さないと、助けるどころか僕の方が死んでしまう。
「ぷはっ、助かった……」
なんとか排気口から出られた僕は、状況を確認する。先程出た出口とは反対側のようだ。真ん中のステージにはタイムマシンと魔女、そして巡が対峙している。そして次の瞬間、魔女が巡に向かって腕を振り上げた。
「やめろおおおおっ!!!」
僕は全力で排気口の蓋を魔女にぶん投げる。と同時に走り出す。巡は驚いたようにこちらを見ている。片足と両足のバネを駆使して火の海の合間を縫い、すぐにステージにたどり着いた。
「あっち!あちっ!!!あっつ!!!!」
「ユヅの馬鹿!!!死ににきたようなものじゃない!!!」
「彼女1人残して逃げろって?」
「っ……!」
熱いからなのか、巡の顔が真っ赤だ。
さてどうするか。魔女は僕のことを訝しげに眺めている。その時視界の隅に、タイムマシンの中から青い明かりが漏れてるのが見えた。咄嗟に巡の手を引く。
「メクリ、こっちだ!」
「きゃっ」
魔女にまた排気口の蓋を投げ付けて怯んでる隙に、僕らはタイムマシンに駆け込んだ。排気口の蓋が優秀すぎる。
「なんかよくわからないけどこれが発射ボタンかな……?」
「ユヅ何するつもり!?」
「タイムマシンで飛ぶんだよ!!入り口のドアが壊れてるから一か八かだけど……」
いかにもな赤いボタンを押してみると、装置が大きな音を上げ始めた。
【電気パルス更新。アルファ値不安定。ベータ値良好。ワープ空間に移行します】
「ちょっとまじ??」
「いいから掴まれメクリ!」
僕たちはドアから投げ出されないように、タイムマシンの操縦席にしがみつく。すぐに青い光がタイムマシン全体を包み込んだ。外で魔女が怒鳴っている。
「シャンノカア!テトラ!!!」
「炎が当たりませんように炎が当たりませんように……」
タイムマシンのドアには、鉄の塊が刺さった大穴が開いたままだ。この状態でワープできるのかわからないが、とにかく祈るしかなかった。不穏な振動の中細目を開けると、大穴目掛けて黒い炎が突進してくる。
終わった……死ぬ……。
そこで僕の記憶は途絶えている。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる