異世界タイムパラドクス 〜過去を変えたら現代が魔法の使える異世界になってしまった〜

猫蕎麦

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01:『出発点、そして終着点となる時刻』

:03 逃亡、タイムマシンにて

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 「とにかく今は出口を目指して炎を避けるのよ。ついてきて!!」

 「なんでお前はそんなに自信満々なんだぁっ!!」

 炎の雨の中走り出すめくりに手を引かれ、僕は振り回されながらもなんとかついていく。ホールの中心にあるステージの周りを回っていく形になるが、何故か魔女はこちらを目で追っている。まるで僕らが標的かのように。

 一体何が起こっているんだ。叶枝さんがタイムマシンに乗って過去に飛んで、帰ってきたと思ったらまるっきり容姿も変わり、魔女のように、鉄の塊や炎の雨を放って暴れ回っている。過去で何があったのか……もしくは僕には想像つかない何かが……?

 「こっち……待ってユヅ!!伏せて!!!」

 「おわあっ!?」

 巡の声に慌ててしゃがむと、真上を轟音と共に灼熱の球体が掠めていった。振り向けば魔女がこちらを向いて満面の笑みを浮かべている。そして彼女はしわがれた声で叫ぶ。

 「テトラァ!シャンズークラ??!」

 「なんかあの人僕たちに向かって話しかけてない??」

 「そうね……まさかあんた喧嘩売ったんじゃないでしょうね!」

 「んなわけないだろ!!」

 大声で会話しながらも、僕たちは必死に走っていた。目指すのはホールの端にある四つの出口のうちの一つ。他の観客たちも四つの塊に分かれて出口へ急いでいた。その最中にも何人もの人が焼け死んでいる。もっとも焼け死ぬと言っても炎の力が強過ぎて、焼ける痛みを味わう暇すらない程一瞬で灰になっていくが。

 しゃがんだり立ち止まったりでなんとか炎を回避しながら、出口へと走り込む。

 「やった!!ここから廊下に……!」

 と思ったのも束の間、次の瞬間真っ黒な炎がその扉を包みこんだ。凄まじい熱気が顔を焼き付ける。ほんの数秒の間に、僕は巡に押されて外側に出ることができたが、巡が中に取り残されてしまった。反射的に中にもう一度入ろうとするが、腕を焼かれた。

 「あちっ」

 「私のことはいいから、早く逃げて!」

 巡が周囲の状況を確認しながら、漫画にでもありそうなセリフを吐き出す。

 僕は焦ったように足踏みする。だが落ち着く暇もない。魔女はその場から微動だにせず炎を撃ち込んできた。扉を包む炎はさらに大きくなり、巡の姿はもう見えない。

 「くそっ、なんでこんなことに……っ!」

 近くにいた警備のおじさんに向かって、僕は必死に助けを求めた。

 「中に友達がいるんです!!!なんとかしてください!!!」

 「そんなこと言ってもな……あまりにも危険すぎる。君だけでも逃げた方がいい!」

 まもなく救助隊や警備隊やらが来るらしいが、それらを待っている間にも巡は焼け死んでしまうかもしれない。僕は焦っていた。

 「もういいです。僕だけでもなんとかしてみます」

 「あ、おい君!!」

 廊下を駆け出してすぐに、ホールに繋がってそうな排気口を見つける。小柄な僕ならギリギリ入れそうだ。蓋を無理やりこじ開けて、後ろで誰かが騒ぐ中、僕はその中に入っていった。

 熱い、体が焼けそうだ。ダクトは金属でできている上に、ホール中からの熱気が充満していた。早く抜け出さないと、助けるどころか僕の方が死んでしまう。

 「ぷはっ、助かった……」

 なんとか排気口から出られた僕は、状況を確認する。先程出た出口とは反対側のようだ。真ん中のステージにはタイムマシンと魔女、そして巡が対峙している。そして次の瞬間、魔女が巡に向かって腕を振り上げた。

 「やめろおおおおっ!!!」

 僕は全力で排気口の蓋を魔女にぶん投げる。と同時に走り出す。巡は驚いたようにこちらを見ている。片足と両足のバネを駆使して火の海の合間を縫い、すぐにステージにたどり着いた。

 「あっち!あちっ!!!あっつ!!!!」

 「ユヅの馬鹿!!!死ににきたようなものじゃない!!!」

 「彼女1人残して逃げろって?」

 「っ……!」

 熱いからなのか、巡の顔が真っ赤だ。

 さてどうするか。魔女は僕のことを訝しげに眺めている。その時視界の隅に、タイムマシンの中から青い明かりが漏れてるのが見えた。咄嗟に巡の手を引く。

 「メクリ、こっちだ!」

 「きゃっ」

 魔女にまた排気口の蓋を投げ付けて怯んでる隙に、僕らはタイムマシンに駆け込んだ。排気口の蓋が優秀すぎる。

 「なんかよくわからないけどこれが発射ボタンかな……?」

 「ユヅ何するつもり!?」

 「タイムマシンで飛ぶんだよ!!入り口のドアが壊れてるから一か八かだけど……」

 いかにもな赤いボタンを押してみると、装置が大きな音を上げ始めた。

 【電気パルス更新。アルファ値不安定。ベータ値良好。ワープ空間に移行します】

 「ちょっとまじ??」

 「いいから掴まれメクリ!」

 僕たちはドアから投げ出されないように、タイムマシンの操縦席にしがみつく。すぐに青い光がタイムマシン全体を包み込んだ。外で魔女が怒鳴っている。

 「シャンノカア!テトラ!!!」

 「炎が当たりませんように炎が当たりませんように……」

 タイムマシンのドアには、鉄の塊が刺さった大穴が開いたままだ。この状態でワープできるのかわからないが、とにかく祈るしかなかった。不穏な振動の中細目を開けると、大穴目掛けて黒い炎が突進してくる。

 終わった……死ぬ……。

 そこで僕の記憶は途絶えている。
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