深層魔導少女レンネ ~封印された怪物と、魔法少女になれない私~

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case01_私って何がダメだったんでしょう?

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どうも皆さん初めまして。私の名前は七桜ななお 蓮音れんねと申します。
知らない内に腰の辺りまで伸びてるくせっ毛と、少し黒い紫の地毛の色と、大きくなりすぎてる胸が悩みの女の子です。
始業式を終え、今年――2030年の春より、晴れて中学2年生となります。

皆さんはいかがお過ごしでしょうか。私は何時の日も健やかに過ごせるよう体調に気を付けて生活しています。

さて、そんな私ですがある一つの夢があります。その夢とは、魔法少女になる事です。

齢13――数え年は14にもなってまだそんな夢を、と思われるでしょうがこれには理由があります。

私どもの住むこの世界には、魔法と魔力、それから『魔導士協会』というものが存在します。
魔法とは、科学的には説明しきれない生き物、もしくは物体の持つ不思議な能力の事を指します。
生き物には生まれつき魔法の源となる魔力が存在し、天賦の才、もしくは努力の賜物が魔法の操作や物体への魔法の付与を実現させるのだとか。
『魔導士協会』とは名前の通り魔法を自在に操れる人々で結成されています。

その協会には性別、年齢、種族、実力不問の『魔導士』部門、性別と年齢と種族は不問であれど『魔導士』より高い実力の要求される『魔女/魔王』部門、女性、それも18歳未満限定の『魔法少女』部門の3つが存在します。
要は魔法少女になるという事は、この内の『魔法少女』部門に合格し、公式にそう呼ばれる事を指すのです。

『魔導士協会』ではSNSやホームページを駆使した大々的なプロモーション等が用意され、中でも『魔女/魔王』部門の人々や、『魔導士』部門、『魔法少女』部門の優等生などは人々の暮らしを守り、支える素敵な方々として紹介されます。

私も魔法少女として実力を磨き、その一員として紹介され一躍有名となる――そんな淡い期待を抱いていたのですが……。

試験、落ちてしまいました。



『魔導士協会』の用意した特設会場にて筆記、実技の双方を見る試験でしたが、決定的な何かが足りなかったようです。
参加者は合否を問わず試験と同じ会場に集合、服装は自由との事で白のフリルシャツに青のティアードスカートとお気に入りの私服に身を包んでわくわくして来たのですが、しょんぼりです。

そう言えばあの文章題間違えたかな、とか計算式にニアミスがあったかな、とか思い返せば筆記の方でミスがあったような気がします。100点満点中76点という微妙な点数だったので。
実技に関しては……測定中に試験官の方から怪訝な顔をされた上、詳しい結果を教えてもらえませんでしたが。

何はともあれ、私は『魔導士協会』の一員にそぐわない、という訳です。
非現実的進展を望んだ筈が、いつもの日常に逆戻りです。落ち込んでばかりでも仕方が無いと、ついでにお買い物もしておこうと帰路につこうとした、その時でした。

「?」

会場の通路の向こう側から何かに呼ばれたような、そんな気がしました。




合否判定が出てからもう15分程経ったような気がします。ですが、私はまだ帰路につくどころか、会場すら出ていません。
私自身みっともないと思っているのですが、私を呼ぶ何かをせめて確かめないと、と薄暗い通路の中を歩いている最中です。

関係者以外立ち入り禁止とは何処にも表記されていないので、もう暫くは此処を歩いても大丈夫でしょう。多分。
呼び止めに関係者の方が来られるようなら流石に諦めますが。

「こっち、でしたっけ…」

合否発表の広間を奥の右へ抜け、更に奥へ進んだT字の突き当りを左に曲がると、複数のドアが並んでいる通路が見えてきました。
その手前から二番目の扉から、閉じきっている筈が何やら異様な空気が漏れ出ています。

私を呼ぶ何かはそこに居るのでしょう。私はそのドアノブに恐る恐る手を掛けます。
握り。捻って。ゆっくり開けて。しかし、何も起きないようです。

もう少し押し開けて扉の先を見てみると、何やら分厚い本がタイルの床に落ちていました。

「何でしょう、これ……」

私は扉から手を離して、姿勢を低くしてその本を拾い上げます。すると扉が閉まりきってしまい、視界が真っ暗になってしまいました。

「わわっ。暗いです」

私は慌てて部屋の明かりを探します。紐らしきものの感触が手に当たったので、それを掴み一回上に引きます。
この部屋の照明に繋がっていたらしく、今度は視界が明るくなり、部屋の全貌がはっきりしました。
どうやら此処は小さな倉庫だったらしく、左右や奥に棚があり、段にダンボールや置物らしき物体が載せられています。
そして、私が手にした本も明らかになりました。

「『封印の書』、ですか……」

何やら英語のようなローマ字のような綴りがありますが、それは私には読めませんでした。
その綴りの下に、日本語ではっきりとそう表記されていたので、この本が恐ろしい代物だとは分かります。

恐らくですが、この『封印の書』の中身が、私を此処まで呼び寄せたのでしょう。

正体は分かったので、この本を置いて帰ろう、と思っていたその時でした。

「な、な…何ですか……!?」

突然、『封印の書』が勝手に震えはじめ、怪しげな紫の光が漏れ出てきます。
中身が出ようとしている、と直感がそう言うので私はその本を抱き締め中身を抑えようとします。

ですが――

「きゃあっ!」

本に弾かれ、引き離されてしまいました。扉に背中がぶつかり、私は痛みにうめきます。
中から差し込む紫色の光と共に本が独りでに開いていきます。そして、何か大きな影が空気を震わせ、本の中から飛び出していきます。

現れたのは、見た事の無い怪物でした。

「ひっ……」

上半身、即ち胴から上しか持たない、大きな図体を鎧兜のような黒と蒼の外殻で形作った、猛る蒼炎を纏う謎の怪物。
特に、質感は金属のようにも見えるその巨大な両手と、牛の頭蓋骨のようにも見える六本角の兜を被った頭部と、そのがんより放たれる紫の丸い光はよく目立ち、威圧的な印象を与えてきます。

『封印の書』はこの怪物を封じる為のもので、あの綴りは怪物の名前なのでしょう。

私は怪物から目が離せず、短い悲鳴以外を口に出せなくなってしまいました。
同時に、とんでもない事をしてしまった、とも思いました。

「コいつが例の供物って奴カァ……」

怪物はその尖った歯の並ぶ口をおもむろに開けて、私を見るやいなや、そう言います。ですが、私は呼吸を荒げるばかりで何も出来ませんでした。

こんな事なら最初から来るべきでは無かった、と。自分の浅はかさを呪いました。

い素質を持っていル。コれなら復活の礎になってくれそうだナ?」

素質とは何の事か。私にはさっぱりでしたが、何か悪い事に利用されるのだとは分かります。
私の頬を撫でるように触れる怪物の指先に、私は怯えるばかりでした。

「ジゃア、エんりょ無く行くゼ?」

怪物は私の事を気にせずバタフライのフォームのように構え、私の胸へ飛び込んできます。
明らかに怪物の方が大きいのに。私の体は怪物を小さくし呑み込んでいきました。

「っく……あ……っ」

体に電撃のような刺激が走り、手足が痺れてきます。
誰か、助けを呼ばないと。そう思っている内に意識が薄れてきて、私はドアを背に気を失ってしまいました。
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