うちはくノ一！愛のためなら！背水の陣で突撃あるのみなのです！

１章

冒険が突然やってきて、うちは焦ったよ。

うちは、くノ一の炉（いろり）と申します。

今日は、清貧美少女の絵里奈（えりな）ちゃんと、お金持ちの依之助（よりのすけ）くんの家に遊びに来てます。
うちは遊びに来る途中に、新作の忍法帖をどこかに落として、ちょっと凹んでる。
まあ素人が拾っても、開封すら出来ないものだから良いんだけど。


依之助（よりのすけ）くんの家は、赤煉瓦の洋館だった。
赤煉瓦の洋館の中庭に、それはあった。
うちは忍者の勘で、違和感は感じたのだが、

「メリーゴーランドだ！」

貧乏な美少女・絵里奈（えりな）ちゃんは、歓喜の声をあげた。


絵里奈（えりな）ちゃんは、
「貧乏なので遊園地に言った事がない！」
と言うので、お金持ちの依之助くんの家に来たのだ。

なぜなら依之助の家には、小さいながらもメリーゴーランドがあるのだ。
３人乗りの小さなメリーゴーランドとは言え、びっくりだ。
でも依之助くんは、習い事に行ってしまって、２人きりだ。

絵里奈ちゃんは大喜びなのは良いのだが、うちと絵里奈ちゃんは、もう３時間以上メリーゴーランドに乗っている。

「ねえ、もうそろそろ降りよう」
と、うちが言うと
「まだ乗ってる！」
と幼児の様な我儘娘だ。

依之助（よりのすけ）くんの家のメイドのお姉さんが、遠巻きに見つめていた。
その視線が何かを語っていた。

何？
あれ？回転速度が上がってきてない？

「止めて！止めて！止めて！」

うちは、メイドのお姉さんに助けを求めた。
メイドのお姉さんたちは、まったく動く気配はなかった。

時計回りのそのメリーゴーランドは、まるで時間が加速しているかのようだ。

加速が、普通の女子中学生にとっては危険な領域に入って来た。
それでも、絵里奈ちゃんの歓喜の声は響いていた。

メリーゴーランドが回り、うちの意識も回った。
うちは木馬にしがみついた。
くノ一であるうちは、飛び降りく事も出来るはずだが、何故か飛び出す気力が激しく消耗していた。

絵里奈ちゃんの歓喜の声が、うちの脳裏を巡った。

大きな太陽が、メリーゴーランドのすぐ近くで輝いていた。
見た事がない時代の見た事がない人達が、メリーゴーランドの周りで踊っていた。

幻想？

うちは木馬にしがみつきながら、ある光景を見た。
細い路地の雨どいの裏にある新作の忍法帖を。

あそこに落としたんだ！
この幻想は忍法帖の仕業か？
何かを覚醒させる類の巻物か？

メリーゴーランドは回転速度を落として行った。

「ふぅ」
「めっちゃ楽しかったね」

絵里奈ちゃんは、初めてのメリーゴーランドに大満足だった。

それはそれで良かった。

降りる際、絵里奈ちゃんの方から、手を握ってきた。
くノ一のうちとは違い、か弱く優しい手だった。
うちの覚醒した能力のせいか、絵里奈ちゃんの優しさがいつも以上に伝わってきた。

この子は本当に良い子なんだ。と理解した。


今日の作戦は、これで完了。