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1章
第8話 ツツジの中に隠してた。
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公園の地図には、球場とテニスコートは記されていたが、陸上競技場は書いてなかった。
「となると、競技場に来た陸上部が忘れて行った線は消えるね」
ぼくが言うと、環琉ちゃんはもなかちゃんの腕を抱きしめながら何かを話しかけた。
声が小さすぎて、良く聞こえないが、よーく耳を澄ませば、何かの声が聞こえてきた。
「・・・わたしこの前、『JAPAN』って刺繍されてるジャージを着てる人が走ってるのを見た。あれはきっと日本代表選手だよ、オーラ感半端なかったもん。わたしが見たのは短距離の人だったけど、多分この公園は日本代表選手の秘密の練習場で、日本代表の棒高跳びの選手が、助走の練習をしてたんだよ」
秘密の練習場が、こんなオープンな施設の訳がないのだが。
しかし、棒高跳び選手の助走の練習ってなんだろ?
ぼくは棒高跳びの選手が、5メートルの棒を持って、公園のジョギングコースを飛ぶことなく、ただ走っている風景を思い浮かべた。
彼、もしくは彼女は、何を想ってそんな事をしているのだろう。
コーチに「5メートルの棒を持って1周してこい」と言われたのだろうか。
もしそのコーチが、超天才コーチだったら、やるかもしれない。でも、
「ちょっとシュール」
ぼくの声に、環琉ちゃんは反応したのか、今度はちょっと大き目な声で、
「日本代表選手だよ。一般人が思いつくような練習をする訳ないじゃん」
ぼくは、とりあえず環琉ちゃんと会話が成功したことに歓喜した。
もなかちゃんが、
「環琉ちゃんの意見が正しいとして、何故歩道に落ちていたんだろう?
結構高い物でしょう、あの棒」
「なにか事情があったんだよ。とりあえず現場に戻ってみましょう」
現場に戻ると、環琉ちゃんはもなかちゃんから離脱した。
そして大きな虫眼鏡で、5メートルのポールを調査し始めた。
「先の方に泥が付いてる・・・そして・・・」
環琉ちゃんは、小声で呟きポールに顔を近づけた。
「ツツジの匂いがする!」
「匂いが解るの?」
驚くぼくともなかちゃんに、環琉ちゃんは、両目を一瞬閉じた。
「?」
「?」
「ウインクしたのかな」
「そうかも」
ぼくの説に、もなかちゃんは納得したらしい。
歩道の公園側は1メートルちょい段差が高くなっていて、そこにはちょっとした林のようになっていた。
「ちょっと待ってて」
環琉ちゃんは、呟くように言うと子どもの様に、公園の方に走っていた。
そして数秒後、段差の上に姿を現した。
「見て!その棒は、このツツジの中に隠してあったはず。
公園の外側の森の中に、入る人はまずいないし、公園の管理人だって、ツツジの中までは調べたりはしない」
ぼくは1メートルちょい段差を登ると、もなかちゃんに手を差し出した。
「ありがと」
とぼくともなかちゃんは、段差の上に登った。
環琉ちゃんは、ぼくを不満げに言った。
自分だけ遠回りしたのが不満なのだろう。
環琉ちゃんは懐中電灯で、地面を照らして、調査を続けた。
その懐中電灯が物凄く明るくて、まるで工事をしているかのような明るさだ。
深夜にそんなことしたら・・・ぼくは公園を見渡した。
誰の気配もなかった。
大丈夫かな?
つづく
「となると、競技場に来た陸上部が忘れて行った線は消えるね」
ぼくが言うと、環琉ちゃんはもなかちゃんの腕を抱きしめながら何かを話しかけた。
声が小さすぎて、良く聞こえないが、よーく耳を澄ませば、何かの声が聞こえてきた。
「・・・わたしこの前、『JAPAN』って刺繍されてるジャージを着てる人が走ってるのを見た。あれはきっと日本代表選手だよ、オーラ感半端なかったもん。わたしが見たのは短距離の人だったけど、多分この公園は日本代表選手の秘密の練習場で、日本代表の棒高跳びの選手が、助走の練習をしてたんだよ」
秘密の練習場が、こんなオープンな施設の訳がないのだが。
しかし、棒高跳び選手の助走の練習ってなんだろ?
ぼくは棒高跳びの選手が、5メートルの棒を持って、公園のジョギングコースを飛ぶことなく、ただ走っている風景を思い浮かべた。
彼、もしくは彼女は、何を想ってそんな事をしているのだろう。
コーチに「5メートルの棒を持って1周してこい」と言われたのだろうか。
もしそのコーチが、超天才コーチだったら、やるかもしれない。でも、
「ちょっとシュール」
ぼくの声に、環琉ちゃんは反応したのか、今度はちょっと大き目な声で、
「日本代表選手だよ。一般人が思いつくような練習をする訳ないじゃん」
ぼくは、とりあえず環琉ちゃんと会話が成功したことに歓喜した。
もなかちゃんが、
「環琉ちゃんの意見が正しいとして、何故歩道に落ちていたんだろう?
結構高い物でしょう、あの棒」
「なにか事情があったんだよ。とりあえず現場に戻ってみましょう」
現場に戻ると、環琉ちゃんはもなかちゃんから離脱した。
そして大きな虫眼鏡で、5メートルのポールを調査し始めた。
「先の方に泥が付いてる・・・そして・・・」
環琉ちゃんは、小声で呟きポールに顔を近づけた。
「ツツジの匂いがする!」
「匂いが解るの?」
驚くぼくともなかちゃんに、環琉ちゃんは、両目を一瞬閉じた。
「?」
「?」
「ウインクしたのかな」
「そうかも」
ぼくの説に、もなかちゃんは納得したらしい。
歩道の公園側は1メートルちょい段差が高くなっていて、そこにはちょっとした林のようになっていた。
「ちょっと待ってて」
環琉ちゃんは、呟くように言うと子どもの様に、公園の方に走っていた。
そして数秒後、段差の上に姿を現した。
「見て!その棒は、このツツジの中に隠してあったはず。
公園の外側の森の中に、入る人はまずいないし、公園の管理人だって、ツツジの中までは調べたりはしない」
ぼくは1メートルちょい段差を登ると、もなかちゃんに手を差し出した。
「ありがと」
とぼくともなかちゃんは、段差の上に登った。
環琉ちゃんは、ぼくを不満げに言った。
自分だけ遠回りしたのが不満なのだろう。
環琉ちゃんは懐中電灯で、地面を照らして、調査を続けた。
その懐中電灯が物凄く明るくて、まるで工事をしているかのような明るさだ。
深夜にそんなことしたら・・・ぼくは公園を見渡した。
誰の気配もなかった。
大丈夫かな?
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