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1章
第3話 初日
しおりを挟む環琉ちゃんが始めて来た日に、爺さんは勝手に引退を宣言した。
って事は、このままここに居続けると、後継者になってしまう!?
早めに新しいバイトを見つけて、撤退しなくては。
しかし、鉄板焼きって楽しいのよね~
客の前で、料理する。それもカッコよく。
なんだろう、なんだろう、なんだろう。
より美味しくしなくちゃって思うんだよね。
カッコつけてんのに、不味かったら、逆にカッコ悪いからね。
等々考えながらも、ぼくは開店の準備を始めた。
2階で何か音がした後、階段を降りる音がした。
きっと環琉ちゃんだ。
空き部屋だった2階に、昨日から、鉄郎爺さんの孫娘の環琉ちゃんがが住んでいる。
ぼくが近くのアパートに住んでいるとは言え、深夜とか早朝とかは、この建物に2人っきりだ。
赤の他人の男女が2人、同じ建物内に!
そして店舗の1階から2階へは、鍵のかかるドア何てないのだ!
鉄郎爺さんの孫娘は、無防備な状態を晒しているのだ!
信頼されているのか?
ぼくは信頼に値する存在か?
自分ではそうは思えない。
まだ完全に起きてはいなさそうな環琉ちゃんは、当然のように鉄板のカウンター席に座った。パジャマのボタンを掛け違えていて、その隙間から肌が見えていた。
あれ?どこかで見た事がある。
この甘みの全くない顔立ちは。
「おはようございます」
とりあえずぼくは声を掛けた。
返事はない。
そして寝ぼけた環琉ちゃんと視線を交わした。
じーと・・・
目がくりくりしてて、可愛らしい。
まだぼーとしている環琉ちゃんが目を逸らす気配がないので、ぼくの方から目を逸らした。
この流れだと、朝ごはんを作れって事かな?
まあ、いいや。
炊飯ジャーのスイッチが勝手についていたから、ご飯はあるのだろう。
ぼくは卵を割り、ちりめん雑魚と一緒に炒め、アンデスの岩塩を適量振りかけた。
料理下手な鉄郎爺さんが好きなメニューだ。
この程度でも、鉄郎爺さんは不味くしてしまう。
ある意味天才だ。
出来上がった炒り卵を皿に乗せた。
寝ぼけたままの環琉ちゃんの、頬が少し緩んだ。
環琉ちゃんは、炒り卵をご飯の上に乗せた。
食べ終わるとエネルギーの充電が完了したのか、目に生気が籠った。
「うん」
とだけ頷くと環琉ちゃんは、2階に上がっていた。
「なんだよ」
ぼくは1人呟いた。
まだ、ぼくに対する好感度は低そうだ。
そしてぼくも溜息をついた。
数分後、着替えた環琉ちゃんは、2階から降りてきて、ぼくには何も告げず、きっと女子大へと登校した。
その後ろ姿に
「いってらっしゃい」
と声を掛けた・・・・が、
えっ!
ぼくは慌てて、環琉ちゃんを引き留めた。
環琉ちゃんは「何?!」と睨んだが。
「シャツ、多分逆」
ぼくの言葉に、環琉ちゃんは逆に着ていたシャツを確認した。
環琉ちゃんは、急いで二階に掛けて行った。
天然か?
つづく
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