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不思議だったけど、なんかしあわせだったよ。

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彼女は路地裏の写真を撮るのが好きだ。
だからいつもデートは路地裏めぐりになる。

その日、ぼくらは道の駅で車中泊をした後、その城下町に向かった。
陰影のある路地裏に興奮した彼女の後を、ぼくはただ追った。

路地裏の上に鳥居が聳えていた。その先に神社がある訳でもないのに。
「多分なんらかの事情で、残されたんだよ。路地裏には事情が色々あるんだよ」
通な彼女は説明した。

鳥居を潜ると、なんか空気の濃度が濃くなったような気がした。
酸素濃度が変わった?まさかね。

「ねえねえ、ココ映画館じゃない?」
彼女は興味津々で言った。
そこには見た事がない映画の看板があった。

「多分、なんらかの事情で路地裏になってしまったんだよ。
例えば、この前の建物が建ってしまって、路地裏化したとか」

彼女の説明に納得しつつも
「入ってみようよ」
と言う誘いには躊躇した。でも、
「500円だって」
と言われ、まあいいかとなった。

古いガラスの扉を開けても、誰も居なかった。

「これ鳴らすんじゃない?」
彼女は受付のハンドベルを鳴らした。
ハンドベルの透き通った音が、古い建物に響いた。

「はーい」
と声がして数分後、下駄の音がした後、受付の奥の部屋から、浴衣を着た少女が出てきた。
「お待たせしました、鑑賞ですね。お1人500円頂きます」
単館映画らしく選択肢はなかった。
邦画ぽいなにかだが、俳優の名前は一人も知らなかった。

映画館と言っても、とっても小さなサイズの劇場だった。
ぼくたち以外に客はいないみたいだ。

客席に座ると、映写室の方から、さっきの少女が
「それじゃ放映しますね」
と声が聞こえた。

退屈なナレーションが続き、眠気を押さえられなくなった。

多分眠ってしまっていたのだろう。
ぼくの手を彼女が強く握りしめた。

ぼくは
「起きないと」
と思った。

隣の彼女を見ると、じっとスクリーンを眺めていた。
スクリーンには見た事がある制服が映っていた。

中学の時の制服と一緒だ。
「あれ?君じゃない?」
そう中学の時の彼女が映っていた。

「これは、ぼくの記憶?」
「そうですよ」
いつのまにか、ぼくの隣に座っていたさっきの少女に似た少年が言った。
双子?
彼女の隣では、さっきの少女が彼女の耳元で何かを囁いていた。

ぼくの隣の少年は、
「安心してください。
お兄さんたちは、ちょっとした異界に迷い込んだだけです。
ちょっとした異界だからすぐに戻れますよ。
さあ、せっかくです。映画でも楽しんでください」

スクリーンでは、中学の時に苦境に陥ったぼくを、中学生の彼女が守ろうとしていた。

「お兄さんみたいなダメ人間を、なんの利害もなく守ってくれる人が、また現れると思いますか?」

馴れ馴れしい少年の囁きに、ぼくは反論した。

「ダメ人間?!」
「違いますか?」
「・・・」
「彼女と別れて、あのえらく美人な女人とお付き合いするんですか?
これは警告ではない。未来のお兄さんからの伝言ですよ」

彼女の方を見ると、浴衣の少女の囁きに、微笑みを浮かべていた。

それは、今まで見た事がない種類の微笑だった。

「そう言う事か」
ぼくはその微笑の種類から、結論を導き出した。

根拠もないし、証明だって出来ないかも知らない。
でも異界なのだから、常識は通用しなし、常識的に考える必要はない。

映画は、この異界の路地裏に迷い込むシーンで終わった。

そしてぼくらは映画館を出て、何時間もかけてやっと、普通の街に戻ることが出来た。

普通の街はやはり酸素濃度が薄かった。

「不思議だったけど、なんかしあわせだったよ」
彼女はしあわせそうに言った。


♪。.::。.::・'゚☆。.::・'゚♪。.::。.::・'゚☆。.::・'゚♪。.::。.::・'゚☆


数年後、ぼくと彼女の間に双子が生まれた。
男の子と女の子の双子だった。



               完
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