『遠い星の話』

健野屋文乃(たけのやふみの)

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9章 不確実な記憶の世界で

11話 苔玉ちゃんは弱そう。

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獅子の様な石像が、同時に石の壁を押した。


この後、石の壁が開いて奥に部屋なりが現れるのだろう。

と、あゆみとバイカルは、ワクワクしながら石の壁を見ていた。


ワクワクしながら・・・


「ここではないな」

獅子の石象は同時に言った。


「多分、あそこじゃない?」

「そうだな」


「皆の衆、ここではない。付いてまいれ」

と獅子の様な石像に言われ、皆の衆は道を引き返した。


「えっえっこいつら1000年あそこで寝てたんだよな」

『そうだな』

「一応、苔玉さまに至る門を守るって門番のように」

『そうだな』

「門番が1000年も違う場所で寝てるってあり得るのか!?」

『もしかしたら、この先に門があるってフェイクって説も』

「あの~石像さん、フェイクだったんですか?」

あゆみの問いに、石像さんたちは、顔を見合わせ、


「フェイクじゃな」

「寝て・・」


石像たちは、初めてハモらなかった。

以降、石像たちは、黙ってしまった。


大理石の大広間の円型階段を登ると、その先に地下へ行く階段が合った。

一行は、気まずい空気のまま地下への階段を降りて行った。


獅子の様な石像は、今度はちゃんと確認すると、同時に石の壁を押した。

今度は石の壁が開き、地下通路が現れた。


獅子の様な石像はあゆみとバイカルを振り向くと、どうだ!と自慢げに微笑んだ。

あゆみとバイカルは「すごーい」と拍手を送った。

ちょっと茶化してはいたが、獅子の様な石像は満更でもない様子だった。


拍手が相当嬉しかったのか獅子の様な石像は、タップダンスの様に地下通路を進んだ。


地下通路内は湿気が強く、水滴が滴る音が響いていた。

通路の床の石畳も微妙に濡れていた。


全員が地下通路内に入ると、背後で石の壁が閉まる音がした。

そして完全な暗闇に包まれた。


その闇に、あゆみとバイカルの心は踊った。

無駄に高性能なアンドロイドのあゆみとバイカルは、赤外線装置を作動させた。

中々使う機会がない装置だ。


その闇は、黒猫と白猫も問題ないらしい。


『生き物なのにスゲー』

元白虎のバイカルは言った。

「お前も元ネコ科だろ」

『動物園出身は箱入り娘だからな』


地下通路内は、色んな仕掛けがありそうな雰囲気がいっぱいだった。

例えば、巨大な丸石が転がって来るとか!落とし穴とか!槍が飛んでくるとか!


獅子の様な石像に案内されているから、そんな事はない事は解っていたが、あゆみとバイカルはワクワクした。



あゆみとバイカルが、いつその部屋に入ったのか解らなかった。

扉とか出入り口を通った訳じゃないのに、ふと光に包まれた。


そこは日光と苔に満ちた庭園だった。

苔色の光が、一行を照らした。


「やあ、ようそこ、我が同盟者の皆さん」

その声の主を見た時、あゆみとバイカルは直感した。


こいつ苔だ!


苔色の髪に白い肌の人型の生き物。

綺麗な顔立ちではあるが、少年の様でもあり少女の様でもあるので、性別は良く解らない。


ただ微かに残る違和感が苔をイメージさせるのだ。


宇宙のあらゆる物は、知的生命体に進化する要素を、必ず備えているらしい。

哺乳類にせよ、爬虫類、両生類、鳥類、虫類、菌類、植物、鉱物に至るまで。


目の前にいる、苔色の髪に白い肌の人型の生き物も、進化した苔の知的生命体の様な気配がした。


苔色の髪を別にすれば、人類の中に紛れても、問題はなさそうだが。



獅子の様な石像2体は、その人型の生き物に近づくと、

「苔玉さま、ぼくらね、1000年ずっと門番してたんだよ」

「そう、えらいね~」

獅子の様な石像2体は、苔玉さまに撫でられて、ご満悦だ。


「お前ら違うところで寝てたやないかい!」とツッコミを入れるあゆみではない。

初対面の生命体の前では、とりあえず慎重なのだ。


黒猫と白猫は駆け寄り、苔玉さまに撫でられていた。

多分、悪い生命体ではなさそうだ。


『なあなあ、苔玉ちゃんって、戦闘力弱そうじゃない』

バイカルがあゆみの耳元で囁いた。


戦闘民族ではないのだろう。

人間の学校の教室だったら、きっとクラスで一番弱そうなタイプだ。




つづく





☆…━━━━━・:*☆…━━━━━・:*☆…━━━━━・:*☆



機械の猫たち

【あゆみ】元人間のカラカルの機械猫。自称エースパイロット。

【バイカル】人見知りの激しい虎型アンドロイド。



【黒猫と白猫】人類と一緒にやってきた猫

【獅子の様な石像】石で出来た生命体?

【苔玉さま】苔の知的生命体


【ソフィー】後の世の英雄のアンドロイド

【デューカ】ソフィーの相方


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