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8章 5000年前からの贈り物

15話 人としての思考と人格形成を失ってしまう事

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目の前にあるのが、秘密基地のドアだ。


そりゃあ秘密基地だし、本来なら合言葉的な物を言えば良いのだが、ドアの前であゆみは、少し考えた。

「何だっけ?」

とバイカルに聞いても

「合言葉って何だ?」

となるだけだったし。

「まあ、いっか」

とあゆみは、配線穴の奥にある秘密基地のドアをノックした。


「誰だ?」

ドアの向こうからすぐに声がした。

仕方ないので、

「猫だ」

とだけ、するとドアの鍵が開く音がした。


『って大丈夫か、ここのセキュリィティーは』

と白虎バイカルも驚くくらいのセキュリィティーの低さだった。


まあ、機械猫が通れるくらいの小さな横穴だし、人型の治安部隊が突入してくる事はまずない。


ドアを開けると、意外と綺麗な部屋があり、テーブルの上にはネズミが2本足で立っていた。ネズミと言ってももちろん機械だ。そしてもちろん元人間だ。


テーブルの上には、まるでミニチュアドールハウスのようになっていて、多分この機械ネズミの生活圏なのだろう。


こいつは人間の時から、ミニチュアドールハウスに住みたかっのかも知れない。

そう思える程、可愛らしいミニチュアドールハウスだった。



『あいつ名前はなんてったけ?』

『俺が知るかよ』

あゆみは軽快に声を掛けようとしたが、バイカルに聞いても無駄だった。

まあ機械猫なんてそんなもんだ。


どこか思考回路の奥を探せばあるのだろうけど、整理整頓されてない記憶なんて、砂漠の中の宝石だ。


それにしても、機械ネズミは小さい。

元人間が機械猫になるのも問題だが、元人間が機械ネズミになるは、もっと問題が合った。


それは記憶装置の容量の問題だ。

人型のアンドロイドが搭載できる記憶装置に比べて、機械猫はその容量が少なくなってしまう。


それは人としての思考と人格形成に影響する。

それを防ぐために高価格高性能でコンパクトな記憶装置を、機械猫たちは使用している。


人としての思考と人格形成を失ってしまう事。

機械猫になったとはいえ、それは譲れなかった。


機械猫たちでさえ限界を感じているのだが、機械ネズミはその限界を超えているんのだ。思考回路があり得ないくらいの小ささだ。

人類時代の記憶は、別に外部記憶装置にあるのだろうけど。


あゆみとバイカルは、会った事はないのだが、元人間のカブトムシやクワガタなんてのもいるらしい。まあ5000年前に、終わってる生命体だし、仕方ないか。



機械ネズミは軽快にタップダンスのステップを踏むと、

「よう猫、久しぶりだな。あゆみとバイカルだっけ?」

機械ネズミは言った。


あれ?俺らの名前覚えてる?

あれ?俺らより賢い?


あゆみとバイカルは目を合わせた。


『大丈夫だ』

とバイカルは言ったが、何が「大丈夫」なのかは不明だった。

『まあいい』

とあゆみは言ったが、何が「まあいい」のかは不明だった。




つづく




機械の猫たち


【あゆみ】元人間のカラカルの機械猫。自称エースパイロット。

【バイカル】人見知りの激しい虎型アンドロイド。元々は白虎。



機械のネズミ

【アルバム】機械猫より賢そう。
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