『遠い星の話』

健野屋文乃(たけのやふみの)

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8章 5000年前からの贈り物

10話 本物の猫にゃああああああああ!

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俺……すごくない?
改めて自分の溢れ出る才能に惚れ惚れしてしまったよ。

見つめてくるつぶらな青い瞳に……大きく溜め息を吐いた。

ーーーーーー

ルノさんが探し出してくれた、隊長が大型の魔物を狩った際の運搬用風呂敷代わりの大きな布は嫌な染みが大きく残っていたが、俺の前では大した問題ではないと意気揚々と『お手製』にした裁縫道具を使って作成を始めた。

『お手製の縫針』は驚愕の強度を誇るマルマロウの硬い革すら力を込めずに縫い進められるが指は貫通しない優しさも忘れない。『お手製の糸』はしなやか且つマルマロウの首すら締め切り落とす強度を持っている恐ろしいが布に合わせて色を変える柔軟性がある。

この完璧な布陣に俺の創造999の力を合わせて縫えない物などある筈がなかった。

出来上がった『手作り藁ベッド』は手作りなのにお手製可という不思議現象を引き起こし、今度こそ出来上がった『お手製手作り藁ベッド』は永久防虫、永久防カビ仕様の最高級藁ベッドだった。

大層喜んでくれたベルンさんから、もう着ないから使って良いと古着をいっぱい貰ったので、今日は針仕事に専念だと部屋に閉じこもってチクチクやっていたのだが……。

「これはその気になれば金が取れる……か?」

何故か俺の手に抱えられているのは、青い髪、青い目を持つデフォルメされたルノさん人形だ。クレーンゲームに行列が出来そうな無駄に高いクオリティ。

バイト先の女の子が推しのアイドルのマスコット作ってたなぁ……。

鍋つかみを作ろうと思っていたのに、不可解だ。

「シーナ?ちょっと良いかい」
「ぎゃあああっ!!」

突然のご本人登場に慌てて人形を収納鞄へ押し込んだ。
見られた!?見られてない!?ドキドキしながら収納鞄を抱きしめた。

「すみません、熱中していたので必要以上に驚いてしまいました」
「うん、一心不乱に針を動かしてたから声かけようか迷ったんだけど、お客さんをあまり待たすのもよくないからね」
「客?俺にですか?」
俺を訪ねてくる人物に全く心当たりがないのだが?

ルノさんの後ろについて中庭へ向かうと、そこで待っていたのは……誰?

皮の胸当てとマントという出立はいかにも冒険してますって感じだけど、その顔にはやっぱり見覚えがない。

カカル・カジカニ  17歳 男
カジカニ出身

B級冒険者。そこそこの腕を持ち、そこそこの手柄も立てているが、そこそこの為仕事に溢れていたところに声をかけられ、現在はマルトリノ商店の専属として雇われている。

「マルトリノ商店……」
そういえば訪問販売をやってるって言ってたな。

「はい!!マルトリノ商店から来ましたカカルです!!よろしくお願いします!!」

うんうん、元気が良く気持ちの良い若者だ。同じ歳のディックさんと同じ、若さ特有のやる気と元気がある。

「シーナです。こちらこそよろしくお願いします」

挨拶もそこそこにカカルさんは大きなリュックを下ろすと、敷き物の上に商品を並べていく。
てきぱきと取り出されていく品物に不思議な物を見つけた。
謎の粉の入った瓶を鑑定で確認すると『パンの種……パンを膨らませるための種』と書かれている。
「カカルさん、これは?」
「それですか?それはえ~と……」
カカルさんは本職ではないので仕方ないが、それでもメモ帳を確認しながら一生懸命説明をしてくれた。

パンのレシピにある『発酵』『無発酵』に関わる物らしく、この粉を混ぜてパンを作るとふっくらとしたパンに仕上がるのだとか……。
「買います!!」
これは何としても欲しい!!

ナンの様なパンももちろん美味しいけど久しぶりに食パン食べたい。
ゆくゆくはアンパン、クリームパン、カレーパン……あ、むしろカレーが食べたい。ラーメンチャーハンセットが食べたい。

瓶を握りしめてトリップしていた俺にカカルさんの心配そうな目が向けられていた事に気がついて慌ててよだれを拭った。驚くほどの味の違いはないけれど、やはりどことなく違っていて……日本食が恋しい。

「あ、加工品もあるんですね……」
はぐらかす様に手に取ったものは『レッドヘッドベアの燻し肉』
これはやめておこうか。
そっと戻しておいた。

「それはこの間ルノルトス副隊長が仕留めたやつですよ!!さすがですよね!!」
せっかくスルーしたのにめっちゃ食いつかれた。
俺としてはトラウマがあるのでそっとしておいて欲しかった……商売人として人の機微を読むにはまだまだ未熟だな。

カカルさんは熊肉を売り込みながらチラチラと俺の背後を気にしている。俺の後ろにはルノさん。

「ルノさん食べたいですか?」
熊肉好き?ルノさんも涎でも垂らしたか、からかってやろうと思いながら見上げるけど憎らしいほど整った顔があるだけだった。

「シーナの作る物は何でも美味しいからお任せするよ。シーナが食べたいなら新鮮な物を今から獲ってこようか?」

またそう言うことをさらっと笑顔で言いやがって……まあ、ルノさんの料理の腕よりは自信あるけどさ。
ぷいっと前を向くとカカルさんはもう隠しもせずに真っ直ぐにキラキラした目をルノさんに向けていた。

「レッドヘッドベアをそんなお使い感覚で……さすがです!!俺、副隊長に憧れて双剣始めたんです!!お願いします!!今度副隊長のクエストに同行させてください!!」

ガバッと頭を下げるカカルさん。
隊長や副隊長の話で何となく恐れられているんだろうとは思っていたけど、恐れられているだけじゃなくルノさんに憧れて双剣を始める人までいるなんてやっぱりルノさんすごいんだなぁ。

「俺はチームは組まない」
冷たくそっぽを向いたルノさんにそれでもキラキラ憧れの目を向けるカカルさんはルノさんに任せておいて、今のうちに残りの商品を確認しよう。

野菜類はこの間買った物とダブっている物が多いけど初めて見る大きな木の実?があった。
『ペーレの実……剥ぐと薄く剥ける。焼くとサクサク』
ペーレ……聞いたことがあるぞ?

「ペーレの実ですか?ペーレの実を薄く剥いだ物で肉とか巻いて焼くと美味いんですよ!!」

「あ、そうか。この前、石窯焼き料理の店でルノさんが食べてた奴だ。あれって木の実だったんだ」

ミートパイも美味しかったけどグラタン美味しかったなぁ。

「良いなぁ……石窯があれば買うんだけど……」

「石窯ですか?じゃあマルトリノさんに要望出しときますね」
すかさずカカルさんはメモを取った。

「マルトリノさんの店は、石窯も扱ってるんですか?」

「マルトリノさんに用意できない物はないですよ!!特にシーナさんの要望は細かく聞いて来いと言われていたんで……憧れの副隊長に会えた事で忘れてました。叱られるところでしたよ。他になんかないですか?」

「何かと言われても……すぐには浮かばない……かな?」

この世界にどんな物があるのかまだよくわからないしね。

結局今日のところはパンの種と数種類の野菜を購入するとカカルさんは「また来ます」と大きく手を振って嬉しそうに帰って行った。

「いろいろ気遣ってくれるのは嬉しいんですけど……マルトリノさんなんでそんなに俺を気に掛けてくれるんでしょうか?」

何かしたっけ?
何もしてないのにいきなり泣き出したんだよな。

「思い込みの激しい人だからね。シーナの身の上をいろいろ想像したんだろう。でもその手腕は本物だからシーナはただ楽しみに待っていれば良いと思うよ?」

「そうですね。楽しみが増えました」

パンが作れて石窯があればピザとかも作れちゃうよね。
あ、もしかしたらマルトリノさんにお願いしたらお米に似た物も探してくれるかも……今度お願いしてみよう。

部屋に戻って今度こそ鍋つかみを作ろうと、ウキウキしながら階段を上っていると、ルノさんに呼び止められた。

「作った物、いつも見せてくれるのに今日は見せてくれないの?」

足を踏み外し顔面から階段に突っ込みそうになったが、ルノさんに抱えられていた。

「……見えてたでしょ?」

「何も見えてないよ?いつも見せてくれるのにおかしいなって思ってね」

「絶対見た!!」

「見てないよ」

どっちだ?本当に見えてなかったのか、本当は見ているのか……ルノさんの表情は……どちらにも見える。

「ルノさんが意地悪だ……」

「はは……最初に意地悪したのはシーナでしょ?」

意地悪って……カカルさんの事か?あれは……いくらルノさんが他人が苦手といってもあんな推しを目の前にキラキラ輝く純粋な瞳をしていたら、邪魔出来ないだろう!?

「ねえ?何をそんなに見られたくないんだ?シーナの作る者は不思議な物が多いから是非見ておきたい」

「絶対見せませんっ!!」

くうっ……もうアレは2度と鞄から出さない事、決定!!

……また鞄の肥やしが増えてしまった。
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