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7章 それぞれの思惑

16話 生物は、異なる種に対して幾らでも残酷になれる。

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ー人類の宇宙船ブリッジー


錬は操縦桿を握ると、独り言の様に呟いた。

「パトロール艇3機なら、火力も出力もこちらが上。
僕はこの種のゲームで、誰にも負けたことは無い訳で」

「現実はゲームとは違うよね」と沙羅と知佳は視線を送りあった。

その視線を背中で感じたのか、錬はさらにひとり言のように呟いた。

「追手は3機、このままじゃあ、いずれ捕まってしまう、バーチャルなシュミレーションゲーム上で、子どもが遊び半分で考えた作戦が、現実的な戦闘の現実的な敵を凌駕するなんて事、非現実的な事の様に思えるけど、シュミレーションと現実が同じ設定条件なら、別におかしいこととは思えない。
そもそも13年の年月は、種が違えば、老衰で死んでしまう種もある訳で、子どもがどうこうって思うこと自体、この宇宙では通用しない。勝てる可能性があるのに、何もしないなんて変だよ」

錬は、背後の二人に問いかけた。

迷っている沙羅に、錬は再び問いかけた。

「沙羅は、またモルモットになりたいの?」

その問いに沙羅ではなく知佳が答えた。

「またモルモットになるくらいだったら、死んだほうがまし」

沙羅の腕を抱きしめる知佳に沙羅は

「アンドロイドが、竜族の様に私達をモルモットにするとは限らないでしょう」

「少なくとも、自由には振舞えなかった。
あの雰囲気、竜族にモルモットにされる前の雰囲気に似てた。
わたし達は、人間でしょう。わたしは、人間らしく生きたい。
それに、一番辛い目に会ったのは沙羅でしょう。
沙羅に酷い事をする奴らをわたしは許さない」

知佳は沙羅の腕にさらに強く抱き着いた。腕に知佳の心臓の高鳴りが伝わった。

沙羅は一瞬悲しげな表情をしたが、知佳は目を逸らした。
それを受け止められるほどの器が、知佳にはまだなかった。

生物は、異なる種に対して幾らでも残酷になれる。
目を逸らしたまま知佳は、沙羅に囁いた。

「ここは錬に任せてみよう」

沙羅が一瞬間を置いた後、小さく頷いた。知佳は微笑むと錬の肩に踵を乗せ

「錬!行って!」

と告げた。

錬は「なぜ足を乗せるの?」と思いつつ、操縦席のキーボードでシュミレーションゲーム機から転送してきた作戦コードを素早く打ち込んだ。知佳本人には言ってないけど、知佳の足は少し匂うのだ。

錬は操縦桿を握ると、追手から回避するように150度回転すると、準惑星に向かって宇宙船を走らせた。

「で、いきなり逃げるの?」

「と見せ掛かる訳♪油断させる為に」




つづく


【人類たち】

沙羅14歳
錬 13歳
知佳12歳




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