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7章 それぞれの思惑

6話 制止ボタンを押すように

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『宇宙』


知佳の投げた新体操のリボンは、無重力空間を静かに飛んだ。

錬は、その軌道を目で追った後、不満な目で自分を見るめる沙羅を見返し、

「僕らを逃がすために、兄貴も竜族を殺した。沙羅も見てただろ。
僕だって、みんなを助けるために、あの機械を撃ったんだ。
何が不満なんだよ!沙羅!」

「錬、あなたはまだ13歳の子どもよ。
子どもが、ゲーム感覚で人を殺すのは、どうかと思ってるだけよ」

「子どもって、ここにはもう、子どもしか生き残ってないんだよ!
それに、あいつらは人の形をしてるけど、機械なんだよ。
生きてないんだよ。
電気かなんかで動いてるだけの機械なんだよ。
ただの機械を壊しただけで、そんな不満な目で見られる理由はない!」

「私はただ、あなたたちの保護者として」

「保護者って、僕と沙羅は1つしか違わない。」

「私は荒句(あれく)に、あなたの事を頼まれたから・・・」

「また兄貴の事を!」

「先に荒句の事を思い出させたのは、錬でしょう」

「!」

「錬くん、止めて!」

レオタード姿の知佳は、スラリと長い足を上げ、煉の頭の上に踵を乗せた。すると、まるで制止ボタンを押されたかのように錬の動きは止まった。

お前はロボットかよ!

知佳は思い、錬は、
スラリと長い足を通じて知佳を感じた。
知佳の神経と繋がったかのような。
その先にある知佳の意思、そして魂の存在を感じた。
それはとても清々しい感じがした。
錯覚かも知れないが。

その刹那の後、知佳は年上の沙羅を諭すように

「錬くんの言うとおり、ここには子どもしか残ってない。
今は大人がやってきたことを私たちで、やらなきゃいけない。
沙羅ちゃんだって解ってるはずでしょう。」

錬は突然訪れた援軍の知佳の足越しに知佳の顔を見た。
その表情から、さっき感じた意思や魂の深みは感じられなかった。

何だったんだろう、あれは?


「だからって、錬くんのさっきの行動は正しいとは思えない。
これから食べ物とか補給とかどうする気?
あの時は、もっと冷静に行動するべきだった」

錬は微かに落ち込んだ。

知佳はそんな錬の事も気にせず、

「今後の事、冷静に考えて見ましょう。」

沙羅は静かに頷いた。
そして錬や知佳が頼もしさに、肩の荷が少し取れたような気がした。



つづく


【沙羅(さら)】この惑星に漂流してきた人類の少女14歳。錬の兄が好き。
【錬(れん)】ゲーム好きな人類の少年13歳。
【知佳(ちか)】論理的な12歳の少女

【荒句(あれく)】錬の兄。行方不明。 


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