『遠い星の話』

健野屋文乃(たけのやふみの)

文字の大きさ
上 下
109 / 243
6章 人類の反撃

8話 ただ地味で無口な女子

しおりを挟む
『宇宙ステーション・アントン』

「水と食料の搬入の準備が出来ました。
我々から伺いますか?
それともあなた方がこちらに来ますか?」

映像無線から、ニヤけたヤーシャが聞いた。


「こちらから伺います」

沙羅は返答した。そして

「錬も宇宙服着て、一緒に来て」

「えー!?」

錬が即答で拒否ると、知佳の視線を浴びた。
表情はなく、何を思っているのかは解らなかったが、全開のおでこが光を反射して輝いた。

錬はそのおでこをひと目見た後に、知佳と視線を交わした。
知佳は視線を逸らすことなく、錬の目を直視していた。

錬はその直視の意味を探ったが、解答は見つけさせなかった。

僕は、知佳の視線に、一体何を求めているのだろう?


「さあ、行くよ、錬」

結局、錬は沙羅の言葉に従った。


気密室で空気を抜くと、2人はふわりと無重力空間に浮いた。

バランスを崩した錬の手を、沙羅が握って引き戻した。

星を追われ、難民キャンプを逃げ出して以来ずっと、錬は1つ年上で14歳の沙羅に助けられてばかりいた。

錬は何も出来ない自分に苛つきつつ、沙羅に小声で

「ありがとう」

と、ひとり言の様に言った。

聞こえたのか、沙羅は優しく微笑んでくれた。



『宇宙港』

沙羅と錬が宇宙船外に出ると、早速、鷲の紋章を誇らしげにつけたレッドイーグルが近づいて来て

「ご案内します」

と言うと沙羅と錬を囲んだ。

宇宙船の窓から子ども達が、心配そうに見つめていた。
沙羅は「大丈夫だよ」と子供たちに笑顔で手を振って見せた。



錬が知っている沙羅は、こんなに世話好きで優しいイメージはなかった。
ただ地味で無口な女子。





つづく

いつも読んで頂き、ありがとうございます。
毎週、日曜日に更新です O(≧∇≦)O イエイ!!


【人類たち】

沙羅(サラ)14歳
錬 (レン)13歳
知佳(チカ)12歳



【宇宙ステーション・アントンのクルー】

ケイ    管理官
ヤーシャ  ケイの側近


レッドイーグル隊 鷲の紋章を付けた精鋭


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

王命って何ですか?

まるまる⭐️
恋愛
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。 貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。 現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。 人々の関心を集めないはずがない。 裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。 「私には婚約者がいました…。 彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。 そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。 ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」 裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。 だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。   彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。 次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。 裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。 「王命って何ですか?」と。 ✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

【完結】正妃に裏切られて、どんな気持ちですか?

かとるり
恋愛
両国の繁栄のために嫁ぐことになった王女スカーレット。 しかし彼女を待ち受けていたのは王太子ディランからの信じられない言葉だった。 「スカーレット、俺はシェイラを正妃にすることに決めた」

離縁したいオメガの話

のらねことすていぬ
BL
オメガのリエトは、騎士団長の夫に愛されていない。 だったら他の男の妻になってしまえと、離縁を切り出すけれど……? ※文学フリマ東京で無料配布したペーパーの再掲です。

婚約破棄の現場に遭遇したので私から求婚することにしました!白豚と嘲笑った皆様には誠心誠意お返しさせていただきます!

ゆずこしょう
恋愛
父母に言われ、無理矢理夜会に参加することになったメロライン。 壁の花に徹していると…突然女性が誰かを糾弾し始めた。 「私、貴方のようなデブで吹き出物だらけの豚とは結婚できませんわ!」 「そ、そんな…そんなこと言わないでくれ…」 女性に縋り付く男性をもう1人の男が勢いよく蹴り上げる。 「残念だったな…オルラフィオ王太子殿下。お前とパルサティラの婚約は今日この日を持って破棄させてもらおう。」 一人の男が鼻血を出しながら膝から崩れ落ちた。 「フッ…なんだ。あんな性根の腐ったヤツらなんて放っておけ。オルラフィオ王太子殿下いいことを考えたぞ。私と婚約するのはどうだろうか。」 閃いたとばかりにメロラインはオルラフィオに求婚を迫ったのであった。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

余四郎さまの言うことにゃ

かずえ
BL
 太平の世。国を治める将軍家の、初代様の孫にあたる香山藩の藩主には四人の息子がいた。ある日、藩主の座を狙う弟とのやり取りに疲れた藩主、玉乃川時成は宣言する。「これ以上の種はいらぬ。梅千代と余四郎は男を娶れ」と。  これは、そんなこんなで藩主の四男、余四郎の許婚となった伊之助の物語。

処理中です...