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2章 退化する世界の中で・・・

10話 良い鍵は良い香りがする。

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『首都警備局45号倉庫』





評議会議長レーゲンの命令により、


首都に配備されていたアローン兵(特殊機械兵)は、


全て倉庫に保管されていた。



首都警備局のアンドロイドのシンは、


鋼鉄の鍵を握り締めながら、アローン兵を見回した。



電源を切られたアローン兵は、


まるで骨董品の甲冑を纏った騎士の様に見えた。




例え凶暴な機械兵だとしても、


電力がないと骨董品と大差はない。



「古びた機械文明に終焉を♪」


シンは、地下の音楽家が作った曲を口ずさんだ。




意思や感情を持たないアローンは、


人口知能を搭載し意思と感情を持つアンドロイド兵が、


躊躇しがちな 民衆の蜂起鎮圧に対して、絶大な力を発揮した。



そのたびにいくつかの記憶装置が壊され、


再び修復されることのないその記憶は、永遠に失われる。



シンも何度か黒い装甲を纏ったアローン兵の、


残忍さを目の辺りにした事があった。



「しかーし、ゆえに美しい・・・」



シンは呟きながら、


セキュリティーシステムに自らの身分を示すIDを示して、


45号倉庫の管理室の扉を開けた。



そして、管理室のコンピューターにパスワードを打ち込んだ。




「鋼鉄の鍵、美しき骨董品。」


良い鍵は良い香りがする。


そんな事を他のアンドロイドに言っても笑われるだけだが、


それは鍵自身が放つ意思の香り・・・シンはそう信じている。



シンが握るその鍵は、厳正の奥に解放を秘めた香りがした。


表面の香りの奥に、


さらに違う香りがあることに気づいたのは、つい最近の事だ。


最近と言っても100年以上も前の事だが。


良い鍵ほど、2面性を秘めていることが多い。


もしかしたら、さらにその奥に香りを秘めているのかも知れない。



シンは、鋼鉄の鍵の香りを確かめた後、鍵穴に差し込んだ。



扉は厳正な音を響かせながら解放された。



「さあ孤独なアローン兵…ママの元へ帰りな」



数分後、45号倉庫のアローン兵に電力が送られた。



完全武装したアローン兵団が、


倉庫の警備兵と小競り合いを始めた頃、


シンは首都を脱出していた。





つづく

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

次回は、日曜日更新です O(≧∇≦)O イエイ!!
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