上 下
10 / 205
1章 黄昏の始まり

10話 動かしてはいけない時計の針

しおりを挟む
    人工知能も保守を優先すれば、進化は止まる。

    その結果、評議会議長室の控室は、
    時間が止まったかの様だ。

    いや、時間が止まったのではない。止めたのだ。
    幾度のシステム崩壊を経験した結果、この惑星の首脳たちは時間を止めた。

    回る時計の針は、飾りに過ぎない。

    控え室の外では、
    停電の暗闇の中で電源の復旧作業をする作業員の声が、
    響き渡っていた。

    暗闇の中、評議会議長は、
    先程起こった爆発の事を考えていた。

    「敵はどこの誰だ?」

    評議会議長は暗闇の中、見えない敵の存在を探った。
    考えれば考えるほど、全てが敵に思えて来る。

    その全てを潰したくなる!
    そんな思いを、押しとどめる理性はまだ残っていた。

    自家発電に切り替わり評議会議長室が明るくなった。
    そこへ、議長の私設秘書が慌てて入ってきた。

    「宗教検察庁長官からです」

    秘書は議長にメモを手渡そうとしたが、
    議長の右手は微かな誤作動を起こし、
    受け取ることが出来なかった。

    「また、技師を呼びましょうか?」
    「明日でいい。」

    アレムの演説以来、評議会議長の身体と心に異変が生じていた。

    この身体の誤作動と、心の奥からやってくる嫌な圧迫感。
    おかげで朝から苛つきが続いている。

    メモには
    『アレム神父連行中に何者かに襲撃され、
    宗教検察官2名共に意識消滅。アレム神父は逃亡。』
    と書かれてあった。

    メモを読むと評議会議長の表情から一瞬で苛つきが消え、
    代わりに不敵な笑顔を浮かべた。

    「反政府組織サインだかなんだかは知らぬが、
    とうとうえさに食いついたか。
    今回のえさは上物の神父様だからな、
    連中も我慢できなかったと見える」

    「アレム神父の所在を確認しだい、
    内務省特化隊を派遣しますか?」

    秘書の問いに、評議会議長は満足げにうなずいた。
    敵の存在が彼の心を高揚させた。

    動かしてはいけない時計の針が、少しだけ動き出した。




    つづく 

毎週、土曜日更新です♪
しおりを挟む

処理中です...